第19話 真と姉川の危険な任務
(現代の車内)
「この任務以降もいろんな任務を真とこなしましたが、任務をこなしていくたびにあいつとの差が開いていくの感じました」
空は話をしたことで昔を思い出したのか、眼が死んでいる。
「へぇー。真くんの初任務がそんなのとはね」
「なるほど。つまり空さんは初任務で油断して殺されかけたのを助けられてマスターを認めたわけですか」
「うっ!?」
セイラの一切の容赦のない言葉に、空は心にダメージを受ける。
そんなセイラの言葉に姉川は笑い出す。
「いやー。セイラちゃん中々に容赦ないね」
「そうでしょうか?ですがマスターのことを認める人間が多いのは良いことだと思います」
「セイラちゃんは本当に真くんファーストだね」
「もちろんです。マスターは私の全てなので」
セイラの言葉に、思わず二人は苦笑いをこぼす。
「はぁ~。俺の話はもういいでしょう。次は姉川さんが話してくださいよ」
「えー。私の話かぁ」
姉川は話が自分に向かってくると歯切れ悪く答える。
それに二人は反応し、姉川に詰め寄る。
姉川はそんな二人に折れ、しぶしぶと言った感じで口を開く。
「でもほんとに私の話は別に楽しくないと思うけど……」
「大丈夫です。マスターの話なら問題ありません」
「……さすがセイラちゃん。仕方ないなぁ、じゃあ話そうか」
______________
(当時 真9歳 姉川20歳)
真が任務に出て三カ月ほどが経った頃、真に新たな任務が下された。
その任務に従い、真は今回の任務を共に行う者と打ち合わせをする。
「初めまして開花真です」
真は打ち合わせ相手であるショートカットの女性、姉川に挨拶をする。
「開花……そっかあなたが先生の。私は
姉川は真を様々な方向から見る。
「似てるね」
「似てる?」
姉川は頷いて懐から手帳を取り出し、そこに挟まっている一枚の写真を見せる。
その写真には幼い少女と、白衣を着た黒髪の女性が写っている。
「これは……」
「こっちの小さい方が私、それでこっちの白衣を着てる方が私の先生。君のお母さんだよ」
真は姉川から写真を受け取り眺める。
「ちょうど君と同じくらいの年かな。私は君のお母さんが所属してた開発部で研修をしててね。いろいろとお世話になったんだ」
真は写真から目を離し、姉川の方を見る。
「君が生まれてからも先生、お母さんからは色々な話をしてもらったんだ、特に君の話をしてる時の先生はとっても楽しそうだったよ」
「そうなんですね。母さんが……。お返しします」
真は最後に写真を眺めて、姉川に写真を返す。
「もういいの?」
「はい。十分です。ありがとうございました」
真は丁寧にお礼をし、早速ですがと渡された任務を確認する。
_________
任務内容:クラブに潜入をし、その常連客であるターゲットから機密情報を奪取せよ。
潜入者:姉川支静加
支援:開化真
黒服の動員は無し。
あらゆる武器、道具の使用を許可する。
殺害も可とする。
________
「今回の任務どう思いますか?」
真は先ほどまでの雰囲気をがらりと変え、月影のエージェントとして任務の確認をする。
姉川はそんな真の雰囲気の変わりように驚きながらも、考えを述べる。
「今回の任務、出来る限り殺人を避けてる月影が殺人の許可を出してる。そして黒服が使えないことからかなり重要度と難易度が高い任務だね」
真は姉川の意見に頷き同意する。
「俺も同意見です。これは念入りに計画を立てた方がよさそうですね」
淡々と話す真に、姉川は少し寂しそうな目を向けながら、計画を立てた。
_______________
任務当日、姉川は任務場所であるバーにて対象が現れるまで待機していた。
「本日はご協力ありがとうございます」
「いえいえ、月影さんにはお世話になっておりますのでお気になさらず」
姉川と話しているのはこのバーを経営している五十代ほどでありながら歳にあった雰囲気をかもしだす女性、いわゆるこのバーのママだ。
そんな会話が行われている建物から出入りする人が良く見える位置にある屋上にて真がその会話を聞いていた。
真がそんな場所にいながら姉川たちの声を聞けるのは、月影が作成した超小型ドローンのおかげだ。超小型ドローンは自動で姉川の周りを飛び、音を拾う。
真は屋上から双眼鏡を使い、バーの周りを確認していると、大勢の黒い服に囲まれて店に近づく男が見える。
真は男の姿を確認すると、端末から姉川に向けて連絡をする。
「対象が店に入るのを確認しました。任務開始です」
_______
「[任務開始です]」
「了解。よし行こう!」
姉川は髪で隠している耳に付けたインカムで連絡を受け、大勢の客と嬢が酒を楽しんでいるホールに出る。
「さて、対象は……」
姉川が辺りを見回すと、ちょうどママが相手をしている。
「やぁママさん」
「いらっしゃいませ。いつもご来店ありがとうございます。どうぞこちらの席へ」
ママは男を奥の席に案内し、黒服たちはそれを確認すると店を出ていく。
男は案内された席に着くと、メニューも見ずに注文をする。
「さて、じゃあいつもの酒を貰おうかな。それと女の子も」
「えぇ、すぐに」
ママは辺りにいる女の子や休憩中の子そして姉川にも声をかけ、酒を持たせて男の元に連れて行く。
「ママさん、そっちの子は?初めて見る子だけど……」
「この子は今日だけの臨時の子なんです」
「へぇ、今日だけねぇ」
男は値踏みするように姉川を見る。
そんな男に内心ドン引きしながらも、それを顔には出さず姉川は一歩前に出る。
「シズと言います」
姉川は任務で使用する偽名のシズを名乗り、一礼をする。
そんなシズは男のお眼鏡にかなったかソファの横に手招きされる。
「まぁママさんの紹介だからね。隣においで」
姉川は言われた通りに男の隣に座り、任務は順調に進んで行く。
__________
姉川は他の嬢の動きをまねながらも、上手く男の機嫌をとり任務は第二段階に向かう。
「ふぅ、そろそろ酒が回ってきたなぁ、ママさん!」
男は酒を飲み干しながらママを呼ぶと、分かっていたようにすぐにママが近づいてくる。
「そろそろ飲み終えようと思うんだが、休憩室空いてる?」
休憩室とはVIP限定の個室であり、主な目的は嬢と二人きりになることであり、そこで行われていることは一切関与されない。
その休憩室に行った嬢は多額のご褒美を得ることができ、それを狙う嬢は何人もいる。
「えぇ、もちろん。いつもの部屋を用意していますよ」
「じゃあ今日は……シズちゃんにお供してもらおうかな」
今回、その休憩室に御呼ばれしたのはシズこと姉川。
「はい。お供させていただきます」
姉川は男の後ろに着き、狙い通り休憩室に向かう。
ここまでくれば任務は最終段階だ。
休憩室は入ってすぐ横にシャワーとトイレ、部屋の中心には巨大なベットが置かれ、きらびやかな装飾に高い天井と豪華な部屋になっている。
そんな部屋に男は慣れたように入って行く。
姉川は男から少し遅れて部屋に入る。
そして扉が閉まり、密室となった。
男は歩くと我が物顔でベットに腰をかけ、扉の前に立つ姉川に声をかける。
「さて、シズちゃん早速だけどこっちに来てくれるかな」
男の言葉に姉川は顔を下に向け、手を後ろに回す。
はたから見れば照れているように見えるが、その背の裏で姉川は隠し持っていたスタンガンを手になじませている。
そしてゆっくりと男に近づいて行きある程度の距離まで近づくと、男が手で静止さえる。
「あ、ちょっと待った。いろいろとする前に……」
姉川は言われた通りに止まる。
そして男はベット近くに置いてあるリモコンを手に取り、
「ボディチェックをさせてもらおうか!」
言葉と同時にリモコンを操作し、その直後に姉川の足元から電流が走る。
「くっ、あぁぁぁ!!?……はぁ、はぁ、」
体に電流が駆け抜け、姉川はその場に膝をつく。
なんとか意識を保ってはいるが、電流のせいで体に上手く力が入らないのかスタンガンを落としてしまう。
「やはり物騒な物を持っていたか。だがあの電流で意識を失わないとは、どこの組織所属だ?」
姉川は先ほどと近い明確に敵意をだし、男を睨みつける。
そんな姉川を横目に男はリモコンを操作すると、壁から鞭が出てくる。
男はそれを手に取ると、一度床に叩き付け、姉川の方を向く。
「俺の二番目に得意なことを教えてあげよう。それは、調教だ!」
男が鞭を振るう。
「っ、危なっ!」
姉川は上手く動かない体を必死に動かし、転がるようにして鞭を避ける。
その鞭が打たれた床は、少し焦げたような跡が出来ている。
男の鞭をよく見れば、その鞭には電流が流れている。
「はぁ、はぁ、これはちょっと、やばいかな?」
姉川は呼吸を整えながら、何とか体を動かす。そんな姉川を見て男はニヤリと笑い鞭を振るう。
「そらっ、どんどんいくぞ!」
男は何度も鞭を振るい、姉川はそれを紙一重で躱し続ける。
「ちっ、電流が効いてねぇのか?」
何度も鞭を躱されることにいら立っているのか焦っているのか、男は悪態をつく。
それに反して姉川は疲れてはいるものの、体のしびれが治まってきており、余裕を取り戻している。
(よし。この調子なら何とかなるかも。スタンガンも拾えたし、次あたりで勝負を仕掛ける!)
鞭が当たらず焦る男と、しびれが取れて余裕が出てきた姉川。
対照的な二人だが、男が扉の方を見た瞬間ニヤリと笑い鞭を床に二、三度叩き付ける。
「これで終わりだ!」
男は鞭を大きく振り、姉川を襲う。
(今がチャンス!)
姉川はその鞭を素早く避け、男の懐に入り込む。
完全に鞭の範囲外、姉川は確実に倒せる!と思ったが、
「っ!?」
倒れたのは姉川のほうだった。
姉川は頭に衝撃を受け意識が薄れていくそんな中、
「教えてやろう。俺の一番得意なことは、女を口説くことだ」
そんな男の声を聞きながら後ろを見ると、
(ママ、さん………?)
手に鈍器を持ったママが見え、なぜママがそんな物を持っているのか、気配や足音が全然聞こえなかったのかなどが頭を駆け回ったが、姉川は意識を落とした。
______________
「暇だ」
建物の屋上にて、双眼鏡片手に夜の街を見渡すはたから見れば変質者の真は、つまらないターゲットの話をインカムで聞きながらつぶやく。
「どれもつまらない話だ。どうせなら有益な情報の一つでも落としてくれればいい物を……」
夜の街並みを見るのにも飽きたのか、真は夜空を見上げる。
「父さんも母さんもこの空の下にはいない。……別の世界の空を見てるのかな」
真はしばらく夜空を見上げていると、姉川がターゲットの男と二人で部屋に向かいだした。
「ようやくだな。あとは姉川さんが情報を回収してくれれば、!?」
真は小型ドローンで姉川たちを追っていたが、部屋に入った瞬間に映像が途絶え、声が拾えなくなる。
「これは、電波妨害か?だが月影の物を妨害できるとなると……これは少しまずいかもな」
真は何度も再起動やインカムで姉川と通話しようとするが、どれも反応しない。
「ダメだな。端末からも連絡してみたが反応なし。……ここに居ても何もできないし、行くしかないか」
真はため息をつきながら装備を整え、バーに向かった。
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