第17話 真と空の初任務

(空視点)


 俺が真のことを知ったのは月影での訓練を終えて初めて任務を受けた時だ。


 月影では正式な構成員になる前に、専用の訓練場で行われる訓練期間が設けられる。この訓練期間はいわば月影の正式な構成になるための試験。

 訓練をする人の年齢は様々で、実力が十分と認められれば数年で終了。だが逆に言うと実力が無ければいつまで経っても正式な構成員にはなれない。

 

 俺が初めて真と会ったのは真が九歳の時。


 噂では真は五歳の時から訓練をしていたらしい。

 たださすがに若すぎるのでトップがつきっきりで勉強や体の使い方を教えたいたらしい。

 俺は任務を受ける前に、真と同じ訓練を受けていた同期から真の話を聞いていた。


 そいつが言っていた真から得た印象は「危ない子供」。


 危ないと言っても「突然襲ってくる」といった物理的な意味ではない。

 その危ないというのは「危うい」という意味らしい。

 俺はいろんな奴から真の話を聞いたが、誰もが共通して言ったのは「どこまでも暗く深い闇を宿した目をしている」ということだ。


 そんな噂を聞いていた俺は最初の任務の説明時、共に任務を受ける同期が真だと聞いて驚いた。


 なお月影の同期というのは、訓練場を卒業した年が同じ者のことを言う。




 _________________

(当時、空17歳。真9歳)


 空が訓練場を卒業して数日後、最初の任務を受けることになった。


 空は任務の説明を受けるために月影の支部でしばらく待っていると、ドアが開き一人の男が入ってくる。


「初めまして。君が空信夜くんだね。。僕は忍田黒仁。月影の長を務めてる者だ。これからよろしくね」


「月影のトップ!?は、初めまして!空信夜です。よろしくお願いします!」


 空は初任務の説明と聞いていた場所でいきなり現れた月影のトップに驚きながらも挨拶を返す。


「早速任務の説明といきたいが、今回の任務は君ともう一人に当たってもらう」


「もう一人ですか?」


「あぁ、君より年下だが君の同期だ。……来たね。入っていいよ」


 空はただでさえ月影の中で年齢が低い方だ。

 そんな自分よりも年下という同期の存在に不安と好奇心を抱きながら、入ってくるの人物を待つ。


「失礼します」


 扉を開けて部屋の中に入ってきたのは、子ども。

 それも小学生ほどの、本来であればこんな場所に居るはずのない年齢の子供だ。

 その子どもこそ当時九歳の真。


 真は部屋に入ると、空の目の前まで歩く。


「初めまして。開化真です。よろしくお願いします」


 真は丁寧に最低限の挨拶をする。


「開花真、君が……。俺は空信夜、色々と君の噂は聞いているよ。よろしく」


 空は同期で初めての任務の相棒が真ということに驚きながらも挨拶を返す。


「さて、早速だが任務の説明をしよう。君たちの最初の任務は潜入だ」


 黒仁は二人に紙を渡す。

 二人は紙に目を通すが当然そのままでは読めない暗号になっている。

 そんな暗号も月影の訓練を終えた二人ならば余裕で解読することが出来る。


 なお二人に渡された紙の暗号を解読するとこのようなことが書かれている。



 ________ 


 任務内容:

 海外で行われる多くの重役が出席するパーティーに潜入、特定の人物を拉致。 

 パーティーには兄弟として出席。


 任務実行者:空信夜、開花真


 今回の任務にて殺害は許可されない。

 あらゆる武器、道具の使用を許可する。

 黒服は5人まで動員可能。


 _________


 主に書かれているのはこのような事。

 他にはパーティー会場の場所や特徴などが書かれている。


「それが今回の任務の概要だ。なお拉致する人物のリストは裏面に書いてある」


 黒仁の言葉に二人はすぐに裏面を確認する。


「任務のことはそこに書いてある通りだ。必要な物も申請してくれれば用意しよう。何か質問は?」


「特にありません!」


「同じく」


 空と真は黒仁の質問に首を横に振って答える。


「では任務の準備に当たってくれ。パーティーの日は今から一週間後だ。頼んだよ」


「「はい!」」


 黒仁は二人の返事を聞き、部屋を出る。

 そして部屋には空と真の二人が残された。


「えっと、とりあえず任務の打ち合わせするか?」


「そうですね」


 空は子供である真の接し方に戸惑いながらも、二人は渡された紙に再び目を通して打ち合わせを行う。


「まずはどう拉致をするかですが、何か考えはありますか?」


 先に口を開いたのは真。

 真はその歳らしからぬ口調と雰囲気で空にたずねる。


「そうだな。……パーティーとのことだし、この会場はホテルの一室で行うらしい。対象を睡眠薬や下剤などを使い一人にさせた所を気絶させて拉致をするというのはどうだ?」


「それが確実ですね。ではいくつかの薬品と、気絶させるためのスタンガンなどが必要ですね。あとはパーティー用の服などですが、これは月影の方も想定しているでしょう」


「あ、あぁ。そうだな」


 空は真のあまりに淡々とした口調と的確な言葉に驚きながら答える。


「どうかしましたか?なにかあれば遠慮なく言ってください」


「いや、大丈夫だ。ただ聞いてた話通りだなと思ってな」


「話ですか?」


 空はふと出てしまった言葉にしまったと思いつつも、今更なかったことには出来ないので話し出す。


「あぁ、訓練時代の仲間から君は子供ながらすごくしっかりしてる、というか大人顔負けなほどの能力の持ち主って聞いてたんだ」


(あと目に闇を宿してるとも聞いたけど、……特にそんなことは無いな。ただ雰囲気は子供離れしているけど)


 真は空の言葉を聞くと、何となく理解したと頷く。


「そうですか。ですがあまりその話は参考にしないほうがいいですよ」


 空は真の言葉にどういうことだ?と聞こうとしたが、真がすぐに話を変えたので聞くのを諦める。


「では任務の話の続きですが、………」


 そうして任務の打ち合わせは終わった。


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