第16話 異世界までの道中で
セイラが車に乗り込むと共に、空は車を走らせた。
「あの、今更ですが今からどこに向かうのでしょうか?」
後部座席に乗ったセイラは前に乗っている二人に聞く。
「えぇっと、どこに向かってるんだっけ空くん?」
姉川は少し考える素振りを見せながらも、すぐに空に聞く。
そんな姉川の発言にため息をつきながら空はナビを指さす。
「俺にも分かりませんよ。月影から指示された道を走ってるだけなんで」
そう言っている間にも、ナビがこれまで指していたルートからいきなり別のルート変更し、空は舌打ちをしながらナビに従ってハンドルをきる。
「つまりこの車がなければマスターの元にはたどり着けないわけですか」
「そうだね。……もしかして君、えっとセイラちゃんって呼んでいいかな?」
「はい。お好きなように呼んでください」
「ありがとう。じゃあセイラちゃんはもしかしてだけど、目的地が分かってたらこの車から降りて自分の足で目的地まで行こうとしてたの?」
姉川は「まさかそんなことないよね」という思いで聞くが、セイラはきょとんとした顔で
「はい」
と「その通りですが何か?」とでも言うように答える。
さすがにその答えに姉川も空も驚いたというかあきれたというか、苦笑いをする。
「そっかぁ、何というかセイラちゃんは……」
「さすが真と一緒にいるだけはあるな」
姉川の言葉の続きを空が奪うように言う。
そして空それを口にした瞬間、はっとした様子で恐る恐るミラーを見ると、無表情ながら睨んでいるセイラの姿が映る。
「それは、どういうことですか?」
どうやらセイラは空の言葉を真への侮辱として受け取ったようだ。
そんなセイラの怒りと勘違いを鎮めるため空はすぐに弁明をする。
「いや、えぇっと真は昔から無茶することがあったからな。セイ、レーショウも真と行動してたなら覚えがあるんじゃないか?」
「まぁ、確かにマスターは無茶することも多かったですね。分かりました。今回聞いた言葉は不問にします」
セイラの言葉にほっとしたように息をつく空。
そんな空に姉川は笑いながら話しかける。
「ねぇ、ねえ、空くん。さっきセイラちゃんを名前で呼ぼうとしてたよね、どうして名字に言い直したの?まさか女の子の名前を呼ぶのが恥ずかしいとかじゃないよね?」
そんな姉川の言葉に心底めんどくさいと思いながらも、答えずに横でずっと質問され続ける方が面倒だと思い、姉川の質問に答える。
「……真の女を名前で呼んだなんて知られたら、あいつから何されるか分からないですから」
その言葉を言った瞬間、ドン!と車体に鈍い音が響く。
音の正体は後部座席で座っているセイラが車内の壁を殴った音だ。
「マスターの女。私が、マスターの……」
どうやらいきなり言われた言葉に驚きパニックになった結果、手が出たらしい。
そんなセイラの行動に驚きつつも、姉川は話を続ける。
「別に真くんそこまで気にしないと思うんだけど?」
「それは姉川さんだから言えるんですよ。いつだったか新入りがレーショウのことを可愛いとか狙ってるとかの話をしてるのを真が聞いたときは…………。その後新入りはレーショウのことを一切話さなくなり、真には必ず頭を下げて敬語を使うようになりました」
「あ、あー。なるほどね。真くんしばらく会わないうちにそんな風になってるんだ。これは直接会うのが楽しみだなー」
姉川は震えながら話す空の様子からだいたいのことを察し、乾いた笑い声を車内に響かせる。
なおこの話に出てきた新人だが、もちろん真、そして空よりも年上の人間だ。
真も空も月影の正式な構成員としてはそこそこ長い。
だが全体的な年齢としてはかなり若いというか、現在でも真やセイラは正式な構成員としては最年少だ。つまり新入りの人間は真の後輩でありながら真よりも歳は大人。
だが真は最年少ということがありながらも、同期や先輩からバカにされたりなめられたりすることは無く、むしろ尊敬される方が多い。
それは月影が実力主義の組織であることが原因だろう。
さらに真は、セイラが正式な構成員になる前は多くの大人と共に任務をこなしてきたので、真の実力を直接見たことのある人間が多いのも原因だ。
ここまで言えば真がどれほどの実力を持っているかは分かるだろう。
そんな真が大切にしていたセイラに手を出そうとした哀れな新人は、さぞかわいそうな目にあったことだろう。
「あの、お二人はマスターと長い付き合いなんですよね?」
あれから気持ちを落ち着けたセイラがたずねる。
「まぁ同期だからな」
「そうだね。私は先輩だから」
セイラの言葉に二人とも頷く。
「ならば、マスターの昔の話が聞きたいのですが……」
セイラの言葉に二人は首をかしげる。
「真くんの昔話?」
「はい。マスターはあまり昔の話をしてくれないので」
二人はその言葉に「なるほど」と納得をする。
「アイツらしいが、過去の話か……。勝手に話して殺されないか?」
「空くん。いくらなんでも真くんに怯え過ぎじゃない?セイラちゃんが聞きたいって言ってるんだし、真くんも許してくれるよ」
「そうですかね?なら話しますか。と言っても俺が知ってる範囲ですが……」
こうしてセイラの興味のもと、この中で一番真との出会いが早い空の話が始まった。
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