第11話 魔物との戦闘

 真は巨大なリュック背負いながらミノタウロスに向かって歩いていく。

 ミノタウロスに近づくにつれて騎士たちは一人、また一人とその巨大な斧で吹き飛ばされる。


 そうしてすべての騎士が壁に打ち付けられた瞬間、真は走り出す。


「グオォオオオ!!!」


「うるせぇな!」


 走ってくる真に気づきミノタウロスは叫ぶ。

 真はそんなミノタウロスに背負っていたリュックを投げつける。


「グオー!」


 真の投げつけたリュックはミノタウロスに当たる前に斧によって吹き飛ばされる。

 その反動でリュックが開き、辺り一面には弁当箱が飛び散り、中に入っていた真のバックも空中に放り出される。

 真は走る途中で放り出された自分のバックを手に取り、バックの中から目的の物を手にする。真はそのまま手に取った物の調子を確かめるように手になじませ、ミノタウロスに向ける。


 そして一拍置いて、


 バンッ!


 と騎士たちは見たことも聞いたことも無く、クラスメイトたちは知ってはいるだろうが実際には聞いたことが無いであろう音を聞く。

 混乱しているクラスメイトとミノタウロスに吹き飛ばされた騎士たちは、音のした方を見る。

 そこには銃を持つ真と、腕から血を流すミノタウロスの姿。


「嘘だろ……」


 それは誰の言葉だっただろうか。

 真が銃を持っていることに驚いた声か。

 はたまたミノタウロスが血を流していることに驚く声か。

 だが真はそんなことは気に留めず二発、三発とミノタウロスを打っていく。


「グッ、グヲオオオ!!!!」


 だが、ミノタウロスが大人しく攻撃を受け続けてくれる訳がない。

 ミノタウロスは雄たけびを上げるとともに真に向かって突進する。

 それでも変わらず真は銃を撃つが。


「ちっ、弾かれたか……」


 銃弾はミノタウロス体に当たるも先程までのようにはいかず、カキンッと金属に当たったような音を立て弾かれてしまう。


「強化でもしたのか?面倒だな」


 真はバックから制服のブレザーを取り出し、袖を通すと共ににブレザーの内ポケットに銃をしまう。


「グオォオオオ!!!」


 ミノタウロスは真に向かって斧を振り下ろす。

 普通であればそこで終わり。

 死んでしまうだろう。


 だが真は普通ではない。


 真は振り下ろされる斧を前にして体を少し横にずらす。

 その一秒後、真がもともと立っていた位置に斧が振り下ろされ斧は地面を割る。


「グオォオ、グオオッ!!」


 ミノタウロスは攻撃を避けられたことが気に入らなかったのか連続して真に攻撃する。だが真は先ほどと同様にわずかに体を動かすだけの最小の動きで攻撃を避ける。


(図体がでかい分攻撃力は高い。だが速度はそこまでじゃない。だから相手の動作を観察すれば最小の動きで避けることが出来る)


 そんなことを考えながら攻撃を避け続ける真。

 だが肝心の騎士やクラスメイトは動くことなく真とミノタウロスの戦いに目を奪われている。


 そんな様子にさすがの真もあきれ、懐から銃を取り出して真上に打つ。


 バンッ。


「「ひっ!?」」


 それは誰の悲鳴だっただろうか。

 だがそんな悲鳴を気に留める真ではない。


「そこで突っ立てないで、倒れてる奴らを抱えてさっさと逃げろ!」


 真はそう叫びながら銃をクラスメイトや騎士たちの方へ向ける。

 するとクラスメイト達は怯えながら再び我先にと来た道を戻ろうと駆け出し、騎士たちは急いで身体を起こし負傷した騎士に肩を貸す。


(よし。あとはあいつらが逃げるまで時間を稼げれば……)


 真はミノタウロスの攻撃をひらひらと最小限の動きで躱しながら逃げていく騎士たちを見る。

 だが当のミノタウロスは魔物にしてはかなり頭が回る部類らしい。

 ミノタウロスは攻撃を避け続けられる真を諦め、逃げ纏う騎士に目をつける。


「グァオォオオオ!!!」


 ミノタウロスは雄叫びを上げるとともに騎士たちに向かって走り出す。


「うわああぁっ!?!?」


「こ、こっちに来たぞー!!」


 騎士たちは焦り、自分の命を守ろうと近くにいた生徒の肩を掴み引っ張る。


「きゃぁっ!?」


 引っ張られたのはクラスメイト達の波にのまれて後ろまで流された女子生徒。

 そんな不運な女子生徒にさらなる不運であるミノタウロスが襲い掛かる。


「いやっ!誰か、誰か助けて!!」


 そんな女子生徒の助けを求める声はむなしくも誰にも届かない。


「ちっ!」


 真は銃を撃つが、ミノタウロスには当たっても足を止める程のダメージにはならない。


「グオォッ!」


 ミノタウロスは獲物を前にし、斧を振り上げる。


「グオォオオオッッ!!!」


「きゃぁぁあっっ!!!」


 女子生徒に向かって、無慈悲に斧が振り下ろされる。

 だがその瞬間、


「危ないっ!」


「グオッツ?」


 とっさにいばらが女子生徒の身体を掴み、そのまま横に転がるようにして攻撃を避けた。


 その結果、振り下ろされた斧の刃には血の一滴もつかず、ミノタウロスは自分の獲物を横取りしたいばらを睨む。

 そんな隙だらけのミノタウロスを襲う影が一人。


「ナイスだ、いばら!」


 真は腰から短剣を抜き、ミノタウロスに刺す。

 だが銃弾が通らない体に質素な短剣が突き刺さるわけもなく。


「やっぱり壊れたか。多少でも刺さってほしかったが……仕方ないな」


 真は壊れた短剣を投げ捨て、ミノタウロスから距離を取りながら銃を撃つ。


「グ、グオッツ!!」


 そんな真に再び気を取られるミノタウロス。

 そしてその間にいばらは襲われそうになった女子生徒に【治癒】のスキルを使う。


「【ヒール】………よし。これで大丈夫」


 女子生徒はミノタウロスの攻撃から避けたときに負った擦り傷が治ったのを確認する。


「あ、ありがとう忍田さん」


「どういたしまして。さぁ、早く逃げないと」


 いばらは立ち上がり女子生徒が立ち上がるのに手を貸す。

 そして騎士たちの方を見ると壁を壊そうと武器や魔法を振るっている。


「うん。……って、忍田さん行かないの?」


 女子生徒は移動しようとしないいばらに声をかける。


「私は、あのバカが怪我をしたときに治してあげないといけないから」


 いばらの眼の先にはミノタウロス相手に苦戦をしている真の姿がある。


「だから先に行ってて」


「……わかった。気を付けてね」


 女子生徒は笑顔で言ういばらを見て、急いで騎士たちの元に戻る。

 そして一方、真は。


(銃弾がぜんぜん通らない。ここにセイラが居てくれればこんな奴どうにでもなるのにな。とりあえずこいつの動きを止めないと)


 真はミノタウロスの攻撃を避けながら壁際に移動、ミノタウロスを誘導する。


「かかってこい、牛野郎!」


 真は人差し指を曲げて、かかってこいとミノタウロスを煽る。

 どうやらその煽りは無事にミノタウロスに通じたらしい。


「グッ、……グオォオオオ!!!!!」


 ミノタウロスは、真の首を跳ね飛ばそうと斧を高速で横に振る。

 そして斧が真の首を捉えようとした直前、真はニヤリと笑う。


「グッ!!??」


 そんな驚いたような声をだすミノタウロス。

 そして想定通りだと笑う真。

 その理由はミノタウロスの斧。


 斧は真の首の横ぎりぎりで刃が壁に刺さり止められてしまっている。

 真はあえてミノタウロスを挑発し、斧を壁に刺さって止められる位置まで誘導し動きを止めたのだ。


 そしてミノタウロスは真の作戦にはまり、斧を引き抜こうと無防備な姿をさらけ出している。


(この距離なら、狙える!)


 真は銃を構え、ミノタウロスの眼を狙い撃つ。


「グッッ!!?!?!」


 銃弾は見事に命中する。体は強化できても目までは強化できておらず、ミノタウロスは斧を持たない方の手で目を抑える。


(このままもう片方の眼も)


 真は再び狙いを定める。

 だが、


「グッ、グァァオォォオ!!!!!!!」


 ミノタウロスがこれまでにないほどの大声で叫ぶ。

 それと同時に、


「よし!壁が開いたぞ!!」


 防がれていた道が開いたという声と共に全員が逃げ出す。

 だが、


「急げ!この壁、どんどん塞がっていくぞ!」


 元の道に繋がる道はまたしても塞がれようとしている。


 そんな状況だが、真は耳を塞ぎ鼓膜が破れそうなほど叫ぶミノタウロスに意識を向ける。


(ただの雄叫び、ではないな。どう考えてもミノタウロスにこのダンジョンが反応している)


「グオォォォ!!!!」


 ミノタウロスは力まかせに壁に刺さった斧を、壁を破壊しながら動かす。


「っ!?」


 真はとっさに屈んで斧を避ける。

 斧は壁を破壊しながら真の頭上を通って壁から抜け出す。


(まさか壁ごと壊すなんてな。……!?)


 真は壊れた真後ろの壁を見ると壁の残骸が壁の奥、真っ暗な下に通じる穴に向かって落ちていく。


(隠し通路、というか壁の中の落とし穴って感じだな。こんな物があるなんてダンジョンってのは本当に変な場所だな)


「グオォォ!!!」


 ミノタウロスの雄叫びはまだ続き、ついに真たちのいる部屋自体が震え、揺れ始めた。


「急げ、壁が閉じるぞ!」


 さらには元に通じる道も閉じようとしている。


(これは、……やっぱりミノタウロスにダンジョンが反応してる。とにかくここから逃げないと、このままだと天井が落ちるな)


 真は逃げようと周りを見渡すと、部屋の揺れでバランスを崩して座っているいばらの姿をとらえる。


「あいつ何やってんだ」


 真はいばらの元へ駆け寄る。


「なんでまだ残ってるんだよ」


 真はいばらに手を差し出し立ち上がらせる。


「なんでって、あんたが一人で無茶しようとするからでしょ!ていうかなんであんた銃なんて持って……」


 二人が会話をしている間にも揺れはどんどん大きくなり、すでに天所の一部が落ちてきている。


「とにかく話は後だ。今はここから逃げるぞ」


「逃げるって、壁は塞がっちゃったわよ?」


 いばらはすでに塞がれてしまった壁を見る。


「分かってる。……少し我慢しろよ」


 真はそう言いながら銃を懐にしまい、バックから紐を取り出しその紐をバックに付けてリュックのようにバックを背負う。

 そうして準備を終え、いばらを抱き上げる。


「ちょっ!?なにするの!」


「悪いが説明してる暇は無い。飛ぶぞ!」


 真は騒ぐいばらを無視し、先ほどミノタウロスが壊した壁の中にある穴に飛び込んだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る