第10話 異世界のダンジョン
昼飯を終えたクラスメイトたちは準備を整え、ガルドを先頭としてダンジョンに向かう。
そんなクラスメイトたちはわくわくした様子で歩き、最後尾を歩くいばらは不安そうに、そして相変わらず大量の荷物を持たされている真は警戒した様子で歩く。
「全員止まれ。ここが目的のダンジョンだ」
そういうガルドたちの目の前には巨大な岩の中身をくりぬいたような形状の下に続く洞窟がある。
「知っているとは思うがダンジョンは危険も多い。今回はそこまで深く潜らないが警戒は怠らないように。では行くぞ!」
ガルドを先頭にクラスメイトたちはダンジョンに足を踏み入れる。
「ここがダンジョン……」
クラスメイト達の列の最後尾にていばらが呟く。
「静かな場所だな」
同じく最後尾を歩く真はダンジョンの中を見回す。
そんな風に進んで行くと先頭のほうから騒ぎ声がする。
「魔物だ!全員、警戒態勢をとれ」
そんな言葉が聞こえると同時に前線にいるクラスメイトが現れたオオカミのような魔物と戦闘を開始する。
「おらぁっ!」
「【ファイア・ボール】」
クラスメイト達は剣で切り裂き、魔法で焼き、それぞれのスキルを使い一瞬にして魔物を倒す。
そんな戦闘風景を最後尾にいる真は観察する。
(魔法。姫が固執するだけあってやっぱり強力だな。それにスキルの力か剣の扱いがまだ荒いのに魔物を殺せている)
そんな風にどんどんと魔物が出てきては倒すを繰り返しながら、遂には五階層まで来た。
ここまでの道のりで真もいばらも活躍なし。
今更だがこの野外訓練。
前線のクラスメイトが戦うせいで後衛のクラスメイトたちが一切訓練になっていない。
そうして進んで行き、五階層にある少し広い場所にでると、ガルドが声をかける。
「よし。ひとまずこのダンジョンの調査はこの階層を探索したら終わりにしよう」
ガルドの言葉にクラスメイトたちは「えー」という残念だという声を出す。
何度も魔物を倒すことで魔物を倒す快感のようなものを覚えたのかもしれない。
「では少しの休憩をはさんで調査を……!?」
ガルドは言葉を言い終わる前に後ろを向き剣を構える。
「ガルドさん?」
クラスメイトの一人がガルドのいきなりの行動に驚き声をかける。
「全員、戦闘態勢を取れ!」
その言葉にはこれまでにないほどの真剣で焦ったような感情が込められている。
そんなガルドに従い、各々戦闘態勢を取る。
そしてしばらくすると、ダンジョンの奥から大きな人影が近づいてくる。
「来るぞ!全員警戒を緩めるな!」
人影が近づくほどにガルドの警戒や、周囲の雰囲気が重たくなっていく。
そしてついに、人影が姿を現す。
「グオォッッオ!!!」
巨大な咆哮と共に姿を現したのは、巨大な斧を携える人型の牛。
それは俗に言う、
「ミノタウロス……」
迷宮に住まうと言われている伝説の生き物ミノタウロス。
こちらの世界でもかなり上位に属する強力な魔物、それもダンジョンの最下層、最奥に住まうという魔物だ。
そんな大物がいきなり姿を現した。
それもこれまでは雑魚ばかり相手にしてきた平和な世界出身の勇者の目の前に。
となれば、
「「うわぁああっ!?!!」」
「「助けてくれぇー!!?!?」」
パニック。
大パニックだ。
クラスメイトたちは我先にと逃げるため、ミノタウロスと逆方向、真といばらのいる最後尾に向かって走り出す。
「どけー!」
「邪魔だぁ!」
我先にと逃げようとするせいで後ろの方の生徒が押しつぶされる事態になる。
「きゃぁっ」
「危なっ、」
それはいばらや真も同様だが、真がとっさにいばらの腕を掴み引き寄せることで押しつぶされはしなかった。だが、ミノタウロスの方、最前線まで押しやられてしまった。
「無事か?いばら」
「……大丈夫。ありがとう。だけどかなり後ろの方まで押されちゃったわね。早く逃げないと」
いばらは真の腕を掴み道を戻ろうとするが、真に止められる。
「いや、待て。なんか様子がおかしくないか?」
二人がクラスメイト達の方を見ると、少しも道を先に進めていないクラスメイト達の姿がある。
たしかにここまでの道のりは整列をして通れるほどの狭い通路。
だがいくら焦っているとはいえ少しも進めないなんてことは無い。
「おい!この道、塞がってるぞ!」
「はぁ!?さっきまで通れたはずだろ!」
そんなクラスメイト達の悲鳴が聞こえる。
「道が塞がってるって、それじゃあ逃げれないじゃない!?」
クラスメイト達の声を聞きいばらは不安そうな声を出し、真は塞がってるという道を見る。
「塞がれたか。壁が崩れて、なんてことはさすがにないよな。だとすると……」
真は思考を回す。
だがそんな状態でも後ろからはミノタウロスが迫ってくる。
「グオォォ!!!」
「くっ!」
そんなミノタウロスを止めるガルドと騎士たち。
だがただの野外訓練でガルドたちはそこまでの装備を整えておらず、これまでの戦闘の疲労もあり力を十分に発揮できていない。
そんな状態のガルド、騎士たちではミノタウロスを止めきることは出来ない。
「くっ、うっ。みんな、早く逃げ―—ぐあっ!?」
ガルドは必死に声をかけるが、話の途中でミノタウロスに吹き飛ばされてしまう。
「団長!団長!」
「……」
吹き飛ばされ、壁に打ち付けられたガルドに騎士は必死に声をかけるが、ガルドは気絶して反応をしない。
「団長!団長!くそっ、俺たちだけじゃミノタウロスなんて止めきれないぞ!」
「っ、くそっ!」
一人の騎士はミノタウロスから離れ、騒いでろくに前に進めていな勇者たちの元へ歩く。
そして騎士は勇者たちの最後尾にいるいばらに迫る。
「君!たしか【治癒】のスキルを持っていたな!」
「は、はいそうですけど……」
「なら早く団長を回復てくれ!さぁ、早く!」
騎士はすごい剣幕でいばらに迫る。
だがあまりに騎士の勢いが強いせいで当のいばらは困惑している。
そんないばらを見ていられないと助け舟を出す人が一人。
「なぁ、あんた。今は騎士団長よりもこの慌ててる勇者たちをどうにかしろよ」
そうして勇者たちを指さす真。
だが騎士は荷物持ちをさせられているような真の言葉を聞くようなことはしない。
「うるさいぞ、荷物持ち!今はそんなことより団長が優先だ!」
騎士はかなり焦っているようでついに真のことを荷物持ちと呼ぶ。
「ちょっと、真に向かってその言い方!」
「いばら、待て」
真は怒るいばらを片手で制止させ、騎士の顔を覗き込む。
「……」
「な、なんだ!」
騎士はそんな真に驚き声を上げる。
だが、
「黙れ」
「っ!?」
真の放ったその一言で騎士は黙ってしまう。
真は騎士の顔を、眼の奥を覗き込む。
それに伴い騎士も真の眼を見ることになる。
「……っ―—!?お、お前は!?」
真の眼を見た騎士には見えてしまった。
真の騎士を見る、いや観察をする眼その眼はとてつもなく冷たく、真っ暗な闇を宿した眼。
そんな眼をまじかで見てしまい、騎士は恐怖し体が震える。
(焦り。恐怖。不安。よっぽどあの団長が大切なのか。……いや、これは)
真は全てを理解し、騎士から目を離す。
「あんたは団長を助けたい。そうだな?」
真は確認というより確信をもって聞く。
(俺の観察が正しければ、この騎士は団長を優先して助けなければならないという特殊な洗脳のような物を受けている。だが自分の命を投げうてるほどの物ではない中途半端な洗脳。だからいばらを使おうとした)
そんな考えの真は半分期待しながら返答を待つ。
そして、
「そ、そうだが。なんだ、お前がミノタウロスを相手にするとでも言うのか!」
その返答は真が望んでいた物だったらしい。
そして騎士は無理だと分かっていながら、というよりも分かっているからこそ、そんなことを言う。
だがそれは勘違いで全ては真の予想通り。
真はにやりと笑みを浮かべる。
「いいだろう。俺があの牛を相手にする。だからその隙に団長たちを回収して全員で逃げろ」
そう言い真はミノタウロスの方へ歩き出す。
だがそんな真の腕を掴む手が。
「真、待ちなさいよ。あんたがそんなことをする必要ないでしょ!」
当然止めた手の正体はいばら。
「別にあんたが危険なことをする必要なんて……」
真はいばらが話し終える前にするりといばらの手からするりと腕を抜く。
「確かに俺がそんなことをする必要はない。けどそれで大勢が生きて帰れるんだ」
「だから!あんたがそれをする必要が無いって言ってるの!ただでさえあんたはスキルが無いんだから」
いばらは必死に真を説得しようとする。
だがいばらの言葉は間違いで真にはちゃんと能力がある。
ただし一人では使えない能力が。
だから実際にはいばらの言葉は間違っていない。
だが真のこの行動にはクラスメイトや騎士を助ける以外の意味があった。
(このままミノタウロスを相手にして全員を逃がす。
そしたらミノタウロスから逃げる。そのままあの国からおさらばする。騎士たちは俺が死んだと思うだろうからその勘違いをさせたままで月影と合流。異世界の調査を始める。一番の懸念はいばらだが、月影と合流したらすぐに助けにいけばいい。これが今考えて実行できる最善のプランだ)
このプランで一番の問題はミノタウロスだが、真一人なら倒すのは無理でも逃げるのはどうにかなるだろう。
そこまで考えてこの行動。
真は強敵との遭遇という突然の出来事を利用しようとしている。
「大丈夫。死にに行くわけじゃない。お前らが逃げれたら俺も逃げるから」
真はそう言い終わるとミノタウロスの元へ歩き始めた。
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