第9話 異世界での野外訓練
真は自室に戻り、体をベットに預ける。
「はぁ~。ずっと走り続けるのは久しぶりだったな」
真はしばらくゴロゴロとベットの上を転がると、ベットから起き上がり薄っぺらいバックから水と携帯食料を取り出し、口に放り込む。
「この味は昔から変わらないな。……ごちそうさま」
真は食料をバックにしまい、再びベットに寝転がる。
そして目を閉じ、今後の課題を頭に浮かべる。
(さて、まず最初の問題は………食料だな。携帯食料は一カ月分あるが、さすがにこのままって訳にはいかないしな)
食料一カ月分。
そんなのどこに持っているんだ、と思うだろう。
その正体は真のバックにある。
真のバックは月影の開発部が作った特別性。
その中身は見た目の数十倍の量の物が入る。
真は非常時に備え、常にこのバックの中に食料や武器を入れている。
(どうにか金を工面して街で買うか。……月影が一カ月以内にここまで来ることが出来れば問題ないんだがな)
真は一度思考を止める。
そして深呼吸を一度はさみ、再び思考を回す。
(次の問題は姫だな。姫というか国というか。いろいろ問題はあるがまずは洗脳。クラスメイトのほとんどはすでに洗脳状態と言っていいだろう。無事なのはいばらを含めた数人。正直いばらが無事だから他の奴の優先度を下げていいんだが)
真はベットから起き上がり、窓を開けて外を見る。
「戦争、それが一番の問題だ。月影がこれから調査するのにも面倒ということもあるが、いくら力があろうが精神面が出来ていない人間が人殺しなんてすれば心が壊れる」
これは月影で過ごして学んだことの一つだ。
真もセイラもそういう世界で生きている、当然人を殺すこともある。
だが月影では人を殺すのはあくまで最悪で最終的な手段であり、決して無差別に殺すというわけでは無い。
だが敵はそうもいかない、敵はこちらを殺す気で向かってくる。
そんな敵の中には金で雇われたり、どうしようもない理由で人殺しをしなけらばならなくなった数日前まで一般人で訓練を全くしていない者もいる。
そういった者は、殺す直前で手が止まる。
中には勢いでやってしまう奴もいるが、そういう奴の多くは殺した直後に心が壊れる。
だからこそ、月影では最初に肉体、精神、共に念入りな訓練が行われる。
「精神どうこうの前に、今日見た訓練の様子だと殺す前に殺されそうだが、どちらにしても今は大きく動けないな」
真はどうしようもないと結論をつけ、ベットに横になって疲れた体を休めるのだった。
___________________
異世界に転移してから一週間。
真は一週間の間、昼は走り込み、もしくは木剣の素振りをさせられ他の生徒の様な騎士からの指導や実際の武器を使わせてもらうこともできなかった。
そんな中、突然騎士団たちの提案により近くの森まで実戦の訓練という名の遠征をすることになった。
これを聞いた時、真は「訓練をするにしても実戦は早すぎる」と考えていた。
真はこの一週間、訓練をこなしながらクラスメイトの訓練の様子を見ていた。そんな真から言わせると、訓練は全く持って足りていなかった。
クラスメイト達がやっていた訓練は自分のスキルを使って騎士と摸擬戦をしたり、魔法を教わったりする物だった。
その内容自体に問題は無いが、やっていたのはそれだけ。
基本的な体作りをせず、武器の扱いもスキル頼りのもの。
確かに強力なスキルの力を使えば模擬戦程度なら勝てるだろう。
だが実戦では相手の力も数も分からず、スキルも無限に使えるわけでは無い。スキルはこの世界で言う魔力と呼ばれる力を消費してスキルを使っている。故に、スキルに頼りきった戦い方をしているようでは実戦は早すぎるというわけだ。
だがそんな真の考えなどは知る由も無く、現在真を含めた全クラスメイトと数人の騎士は近くの森まで来ている。
「よし。今日はこの森で訓練をする。森の中には魔物がいるが君たちなら簡単に倒せるはずだ。しっかりと訓練をするように!」
そんな騎士団長ガルドの言葉に豪華な装備を身に着けたクラスメイトたちは「はい!」と強い返事を返し、次々に森の中へ入っていく。
その最後尾にはクラスメイトとは違い、質素な短剣を一つ腰に携え、巨大なリュックを背負った真が森に入ろうとし、足を止める。
「………」
「ちょっと真、大丈夫?そんな重そうな荷物背負ってるし辛いなら言った方が……」
真の前を歩くいばらが立ち止まった真の方を振り向き心配するが、真は首を振る。
「いや、大丈夫だ。問題ない」
「そう?ならいいけど、無理はしないでよ」
真といばらはクラスメイトを追いかけ森の中へと向かった。
________________
森の中を歩いて数分後。
騎士たちの警戒も強くなり、空気がピリついている。
そんな中、近くの草木がガサガサと揺れ動く。
「!?」
その瞬間にガルドを含めた騎士たち、そしてそれより早く真が武器を手に取り戦闘態勢をとる。
そんな騎士たちを見て、クラスメイト達も各々の豪華な武器を構える。
そんな全員警戒状態の中、飛び出してきたのは全身緑色で人型の化け物。
いわゆるゴブリンだ。
「グギャァ!!」
飛び出してきたゴブリンは約十数匹。
さすがに豪華な武器を持っているクラスメイトもいきなり現れた集団の化け物には驚き固まってる。
だがさすがというか、真は多少驚きながらも冷静にゴブリンを観察する。
すぐに冷静になれたのも月影で異世界についての調査をしていた時、そういった化け物が存在することを知っていたから。
そんなゴブリンを前に最初に動いたのは騎士団長のガルド。
「オラァッ!」
「グギャ!?」
ガルドが振るった大剣は見事にゴブリンを真っ二つにする。
そしてクラスメイトたちの方を向く。
「いいかみんな、見ての通りこいつらは弱い!しっかりと戦えば圧勝だ!さぁ、戦え!」
なんか最初の方は良いこと言ってる風だったが最後は完全に命令形だ。
だが何故かクラスメイトたちの心に響いたらしく、やる気満々でゴブリンたちに向かっていく。
「「おらあぁあぁ!!!」」
「グ、グギャァァァ………」
一瞬。
決着は一瞬でついた。
当然結果はクラスメイトたちの勝利。
いくら敵が数十匹いたとしてもこちらは豪華な装備と能力を持った勇者三十人。
そして相手は最弱ゴブリン、もちろん瞬殺だった。
「さぁ、この調子でどんどんいくぞ!」
「「おぉー!!」」
ガルドの言葉で士気が上がり、クラスメイト達はハイテンションで魔物を狩り始めた。
_______________
「せやっ!」
「グオォッ!?」
「はぁっ!」
「ガアァッ!?」
森の中に入って数時間。
その間にクラスメイトたちは騎士の保護下の元、楽しく気持ちよく多くの魔物を倒している。
倒した中にはゴブリンに加え、オオカミのような魔物、そしていわゆるオークを呼ばれる人型の豚の魔物まで数種類多くの魔物を倒した。
そんな中でもいばらのような後方支援組や、真などは出番が無くただ後ろをついていくだけ。
そうしている間に時間は昼頃。
「よし。そろそろ休憩に入ろう」
ガルドの言葉で開けたところに休憩地を作り昼食をとることになる。
「やっと荷物を下ろせるな」
真は巨大なリュックを下ろし、近くの岩に腰を落ち着ける。
だがすぐに騎士たちから真に声がかかる。
「おい、そこのリュックから飯をだせ」
声がかかる、というよりもはや命令を出される。
(だせって。まぁここで何か言われても面倒だしやるか。えぇっと……)
真は巨大なリュックの中をガサゴソと探し、弁当のような箱をいくつも取り出す。
(なるほど。こんなリュックに三十人以上の食料がどう入っているか気になったが俺が持ってるバックと同じような物なのか。ただ月影のよりも性能が低そうだが)
真はそんなことを考えながらも人数分の弁当を出し終える。
騎士やクラスメイトたちはその弁当を手に取っていき、各々食べ始める。
いばらも同様に弁当を手に取り、真の隣に座る。
「あんた、やっぱり食べないのね」
いばらは弁当を口に運びながら話しかける。
「前にも言ったけど、どうにも口に合わなくてな」
「だから、あんたが食べてる姿なんて見たことないんだけど。……大丈夫なの?」
いばらは心配そうに真を見る。
すると真は一度ため息をつき、巨大なリュックから自分のバックを取り出す。
「あんた、自分のバックなんて持ってきてたの」
驚くいばらを横目に、バックの中から水と携帯食料を取り出す。
そしてそのまま携帯食料を口に放り込む。
「これで文句ないだろ?」
「あんたね………。はぁー、もういいわよ」
いばらはあきれたようにため息をつく。
そして二人は黙々と食事を続けた。
そうしていると、一人の騎士がガルドに話しかける。
そして全員が食事を終えたころ、ガルドが前に立ち話を始める。
「全員聞いてくれ。今さっきダンジョンが発見された。そして今からそのダンジョンの調査を行う」
ガルドの言葉に、クラスメイトたちが騒ぎ出す。
その反応のほとんどは歓喜だった。
そんな中でもいばらは不安そうな顔をし、真はダンジョンについての情報を思い出す。
(……ダンジョン)
ダンジョン。
多くの魔物が潜むまさに魔窟。
中には街を滅ぼせるほどの力を持つ魔物もいる。
だが引き換えに特殊な力をもつ武器や道具、『魔道具』と呼ばれる物を手に入れることもできる。
中にはこの世界の伝説やおとぎ話に出てくるような魔道具、『
ダンジョンはそんなハイリスク、ハイリターンな場所だ。
その形状はダンジョンによって違う。
だがどのダンジョンも奥に、そして下に行くほど魔物が強くなり、そして強力な武器や道具があると言われている。
だがすでに多くのダンジョンは攻略されてしまっており、新しいダンジョンを発見するのはかなり稀な出来事だ。
(ようするに未智と危険の多い場所。そんな場所に実戦をしたばかりの俺たちで行こうとするなんて無謀だ)
そんな真の考えなど聞いてもらえるはずもない。
というわけで、
「ではさっそくダンジョンに向かうぞ!」
おぉー!
というクラスメイトたちの反応を見て、真は心底あきれたという風にため息をつくのだった。
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