第12話 いばらの真価
「ちょっと!これ、すっごい落ちてるんだけど!?」
フリーフォール中の真の腕の中にいるいばらは、先の見えない下を見て叫ぶ。
「わかってる。ちょっと待て」
真はいばらを抱いたまま、懐から銃を取り出す。
「それってさっきの銃。じゃないわね。何それ?」
「さすが良い眼をしてるな。こいつは俗にいうワイヤーガン。ようはこうやって使うものだ」
真は落下しながら適当な壁を狙って引き金を引く。
するとワイヤーが飛び出し、その先に付けられた針が壁に突き刺さり二人は中ぶらりん状態になる。
「よし。これなら落下して死ぬことはないな」
「あんたほんとに何なのよ……」
次々と見せる知らない真の姿にいばらはあきれ、真はそんないばらを抱いたままワイヤーを伸ばしてゆっくりと降下する。そしてしばらくすると地面に着いた。
「思ったよりは距離が無かったな。光が無かったせいで深く見えてただけか」
真は落ちた穴の天井を見上げながらワイヤーガンをしまう。
「あんた、なんでそんなに冷静なのよ……」
いばらは気が抜け、ミノタウロスや落下の恐怖などによる疲れが一気に押し寄せてきてその場に座り込む。
だが真はいばらを気遣う余裕も無く、懐から銃を抜き、バックから換えのマガジンを取り出しリロードをする。
「いばら、悪いがすぐに起き上がってくれ。あいつが来る」
「え?何……」
「何が来るの」という言葉を言い終える前に、真はいばらを抱き上げ素早くその場から移動する。
そして真はいばらを下ろし、天井を見つめる。
そうしていると、ドカンッ、ドカンッと天井から何かが壊れるような音が鳴り響く。そんな音がだんだんと近づき、ついに真が見ていた天井にヒビが入り、
「グァオオオオオオ!!!!!!!!!」
ミノタウロスが、天井から降りてきた。
______________________
「随分と派手な登場だな」
真は現れたミノタウロスに向け素早く銃を向け発砲。
だがやはり銃弾はミノタウロスの体に当たっても有効打にならず弾かれてしまう。
「やっぱり銃は効かないよな」
(さっきと同じように近距離まで行けば目を狙うこともできるが……)
ミノタウロスは先ほどまでとは違い、激しく怒ることは無く、相手を殺そうと静かで冷静な怒りを真に向けている。
(あの様子じゃ近づいた瞬間に殺される。それに一度使った手が通じる相手ではなさそうだ)
真とミノタウロスは互いににらみ合い、互いに動く機会をうかがう。
そんな状況だがついていけない人物が一人。
「真……」
いばらは二人の圧に押され動くこともできず、またミノタウロスと戦えるような武器も無いのでその場で固まっていることしかできない。
(どうする。いばらがいるから下手に戦うことも避けることもできない。逃げることも、このダンジョンじゃ無理だろうな)
真は思考を巡らせこの状況の打開策を考える。
だが相手はいつまでも待ってくれるわけでは無い。
「グオォオオオッッ!!!!!!!」
ミノタウロスがついに動き出し、真たちに向かって走り出した。
(ひとまず避ける!)
真はいばらを抱き上げミノタウロスの攻撃を避けようとする。
だが、ミノタウロスとて同じことを繰り返すわけがない。
真はミノタウロスの斧をギリギリで避けようとするが、ミノタウロスは斧を手放し真に向かって投げる。
「っ!?」
真はそんなミノタウロスの攻撃に反応しきれず、せめていばらを守ろうと背中を向け、斧を背中に受けながら壁に向かって転がる。
「真!?あんた、私をかばって……。【ヒール】」
いばらは真の腕から抜け出し、【治癒】を使う。
「っ、あの斧の刃が潰れてたおかげで助かったな。打撃は受けたが斬られてはない」
真はいばらの治癒を受けながら背中の状態を確認する。
「バカッ!助かってないわよ!」
そんな真にいばらは涙を浮かべながら叫ぶ。
だがその治癒もいつまでも出来ない。
ミノタウロスは投げた斧を拾いに歩き出している。
「真、逃げよう。私が足でまといなら置いていってもいいから、あんただけでも」
いばらはそんなことを提案するが真は首を横に振る。
「無理だ。このダンジョンに居る限りあいつから逃げることは出来ない。逃げようとしてもまた壁を塞がれる」
「なら!それならどうするのよ。このままじゃ死んじゃうわよ!」
そんないばらの言葉を受け、真は唯一ためしていない策についての思考を回す。
(本当にその通りだ。……出来ればいばらには使いたくなかったが、ここで死んだら意味ないか)
真はいばらに顔を向ける。
「いばら。一つだけ、この状況をどうにかできるかもしれない物がある。そしてそれにはお前の力が必要だ」
いばらは、これまでになく真剣な顔と言葉で話す真に驚きながらも、確かめなければならないことを聞く。
「それは、二人で生き残れる方法なのよね?」
「そうだ」
そんな質問に真はノータイムで頷く。
「それならいいわ。それで何をすればいいの?私が出来る事なら何でもやるけど」
「そいつは心強いな。じゃあ今から俺が言うことをよく聞いてくれ」
真はミノタウロスの様子を見ながら指示を出す。
「いばら。なんでもいいから自分のテンションを上げてくれ」
「……は?」
こんな極限状態で思ってもなかった指示をだされ思わずそんな言葉がいばらの口からこぼれる。
「テンションが上がるってどうすればいいのよ!」
「なんでもいい。とにかくテンションを上げる、心臓が高鳴ったり、あとは幸せだと感じるようなことをしてくれ」
「そんなこと言われても……」
真は思いつく限りの言い換えをしながらいばらを急かす。
だが当のいばらはとっさにテンションが上がることなど思いつかず必死に思考を回す。
(テンションを上げる。そんなことこの状況でできるわけないじゃない!けど、やるしかないのよね。えっと、とりあえずこの場にあるのは、強くて怖い魔物と、国から貰った短剣。治癒の力。あとは、幼馴染で従兄妹で何故かこんな状況でも冷静な真)
いばらは覚悟を決めたように目を開き、真に声をかける。
「テンションが上がれば、何でもいいのよね」
「あぁ、俺を殴ったり罵倒したりしてもかまわない」
真が冗談めかして言うと、いばらは真の後ろに立ち、
「そんなことしないわよ。ばか」
と後ろから真を抱きしめる。
「……」
「……」
そうして数秒後。
「ほら、これでいいんでしょ!」
いばらは恥ずかしくなってきたのか心臓をバクバクと高鳴らせながら叫ぶ。
「……十分だ。いくぞ、いばら。【真価解放】」
真はいばらに手を向ける。
すると真といばらに青白い光が纏わりつく。
「な、なにこれ!?力があふれてくる!」
いばらは真価解放の力を感じる。
そんないばらに真は再び手を向ける。
「いばら、もう一段階いくぞ【真価武装】」
真が叫ぶと真といばらの手に光が集い、真の手には薔薇の装飾がされた剣が、いばらの手には薔薇のツタのような鞭が現れる。
「よし。上手くいったな」
「な、なにこれ。すごい!」
真は能力の成功に喜び。
いばらはどんどんあふれてくる力や現れた武器に驚いている。
「グオォオオオ!!!!!」
そんな二人の空気を読んでいたのかこれまで大人しくしていたミノタウロスが動き始める。
「どうするの真?」
いばらは先ほどとは違い、心に余裕を持ちながら真に聞く。
「そうだな。正直こいつがあれば俺一人でも戦えるが…」
真はいばらの表情を見て口角を上げる。
「冗談でしょ?私も戦う」
「あぁ、そういう顔してるな。……わかった。お前にはその鞭でのサポートを頼む。ただ、力に飲まれるなよ?」
真はそれだけいばらに言い残し、ミノタウロスに向かって走り出す。
「ちょっと!ほんと、いきなりなんだから!」
それに合わせいばらは鞭を振り、鞭はミノタウロスの腕に絡まる。
(すごい!この鞭、思った通りに動く!)
いばらが鞭に関心を向けながらミノタウロスの動きを止めている間に、真は薔薇の剣を振るう。
「グゥウウ!!??」
剣は銃弾を弾くほどのミノタウロスの皮膚を切り裂き、確実にダメージを与える。
(よし。刃が通る)
真は刃が通ることを確認すると、素早く剣を振るいダメージを与えていく。
「グ、グゥゥオォオオオ!!!!!」
だがさすがにミノタウロスもやられっぱなしではない。
腕を封じられた状態にもかかわらず、力に任せて腕を振り回す。
「—っと」
「きゃっ!」
そんなミノタウロスを真は避け、いばらは鞭をほどかれる。
「グオォオオオ!!!!!」
ミノタウロスは自由になった腕と斧を構えながら真に突撃する。
「そう何回もやらせないわよ!」
だがいばらが素早く薔薇の鞭を振り、ミノタウロスに巻き付ける。
さらに、
「お願い。【薔薇の鞭】」
いばらが薔薇の鞭に祈るように力を込めると、薔薇の鞭から棘が生え、ミノタウロスの身体に突き刺さる。
「グォオッ!?」
その棘は徐々に増えていき、ミノタウロスにダメージを与えると共に体の自由を奪う。
そんなミノタウロスに真は薔薇の剣を片手に近づく。
「グオォォォ」
「これで終わらせる。さよならだミノタウロス。【薔薇の剣】」
真は薔薇の剣をミノタウロスに突き刺す。
すると薔薇の剣から薔薇の棘が伸び、ミノタウロスの身体を貫く。
「グ、グォォォォ…………」
ミノタウロスは目を閉じ、その場に倒れる。
そして真はミノタウロスが死んだことを確認し、薔薇の剣、そして真価解放の力を消滅させる。
「ふぅー。勝てたな」
「ほんとに、疲れた……」
真は疲れ座り込むいばらに近づく。
「お疲れいばら」
真はいばらの横に腰を下ろす。
「うん、お疲れ……。あれ?なんかすごく眠たい……」
「疲れてた中で真価解放を使ったからな、限界が来たんだろ。見張りはしておくから寝ていいぞ」
真の言葉にいばらは眠気から身体を真に預けるように倒す。
「わかった。おやすみ。しん……」
いばらはそのまま目を閉じ、眠りについた。
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