第5話 異世界の罠
「……ここは?」
真はゆっくりと目を開ける。視界に映るのは教室、と似ても似つかない白い部屋。
そこには、「なにが起こったんだ?」という様子で回りを見る者。「ここスマホ使えないんだけど?!」と騒ぐ者。そして「まさか、この展開は異世界転移?!テンション上がってきたあぁ!!」と喜ぶ者までクラスメイト達は様々な反応をしている。
ほとんどの者は騒ぐか、何が起こったのか分からずポカンとしている。この状況で警戒をしている者は真のみ。
そうしてクラスメイト達が騒いでいると、いきなり扉が開き、鎧を着て腰に剣を携えた複数人の騎士と共に、綺麗なドレスを着た青髪の少女が入ってくる。
少女は青色の髪を肩ほどまで伸ばした、真たちよりも一つか二つほど年下の美少女。
「勇者様方!どうか我らの世界をお救いください!」
青髪の少女はいきなりそんなことを言いだした。
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「どうぞ、こちらに」
真たちは最初の部屋から移動し、長いテーブルが置かれている部屋に入った。
「お好きな椅子にお掛けください」
青髪少女に催促されるまま各々近くの椅子に座り、真は少女から一番離れた席に座った。
「皆様、いきなりこのような場所に連れてこられて混乱していると思います。ですがすぐにご説明をいたしますので、準備が整うまでお食事をお楽しみください」
少女と入れ替わるように扉から数人のメイドが料理の乗ったワゴンを押して入ってくる。
そんな姿に多くの生徒は、「リアルメイドだ……」という反応が大半、残りの生徒は食事の豪華さにテンションを上げている。
そんな中でも真はいつも通りだ。普段から同棲している美少女がメイド服を着ているし、月影の任務で豪華な食事が用意されたパーティーに参加することもある。
そんな世界で生きている真は特にテンションが上がることない。むしろこんな状況だからこそ警戒をしている。
メイドたちにより料理が机の上に並べられる。お昼休みだったこともあり、空腹である者もそうでない者も、生徒たちはただ一人を除いて料理を口に運び始める。
そんな中、食事をしないただ一人である真は料理とそれを食べる生徒たち、そしてメイドを観察する。
(いきなり出された料理をよく警戒もせずに食べれるもんだな。見たところ食べている生徒に変化はなし。即効性の毒は入っていないようだが……)
真は生徒から目を離し、次はメイドに目を向ける。そして相手に気づかれないように観察をする。
そこで真は数いるメイドの中でも、一番年配のメイドに目をつける。
「おっ!美味いな!こっちも……」
生徒の一人が目の前に置かれた料理を口に運んだ瞬間、
「やっぱりか……」
一瞬だが、年配メイドの口角がわずかに上がったのを真は見逃さなかった。
そんな真が観察していた年配メイドは若いメイドに耳打ちをし、若いメイドは真の元に向かってくる。
(バレたか?)
そんな心配をする真だったが、
「あの、勇者様。もしかしてご気分が優れませんか?先ほどから食事が進んでいらっしゃらないようですが……」
その心配は杞憂だったようだ。
内心ほっとした真は、これまでの任務で培ってきた演技力を使いメイドと接する。
「いえ、気分が優れないというか……すみません。いきなり知らない場所に連れてこられたので混乱しちゃって、食欲が湧かないんです」
真はいかにも、「知らない場所に来て本当はつらいけどそれを隠す少年」を演じる。
もちろん真が言ったこはでたらめで内心は、「変なものが入ってるのに食うわけないだろ」という思いでいっぱいだ。
だがこのメイドはそんな真の演技を信じ、「それは大変でしたね」と真を気遣う。
「でしたら、せめてお水だけでも。すぐに姫さまがご説明をしてくださるのでそれまでに少しでもリラックスをしてください」
メイドはワゴンから水入れを取ろうとするが、年配のメイドに止められ別のワゴンを指さされる。
メイドは首を傾げながらも年配メイドのから耳打ちされた話を聞くと納得したように頷き、指されたワゴンから水入れを持って真の元へ戻る。
「どうぞ。お水ではなく、こういった場合はお茶の方が落ち着くらしいのでお茶をお持ちしました」
丁寧な説明と共にメイドはコップにお茶を注ぐ。
「ありがとうございます」
真は笑顔で感謝をしながら、お茶を見る。
そのお茶は緑色で透明な水と違い、中に何かが入っていても分からない。
だが真は確信している、このお茶の中には絶対に変な物が入っていると。
料理に含まれている何かを真にも食べさせるために、あの年配メイドが変なことを吹き込んだろうと。
真が年配メイドをチラリと見ると、真がお茶を飲むのを今か今かと口をにやけさせて見ている。
危ないと分かっている飲み物を飲むのは嫌だが、ここで真がお茶を飲まなけば逆に目立ち、目をつけられてしまう。
だったら、と真はお茶を飲む。
「いただきます。……っ!ごほっ、ごほっ!」
真は咳き込み、すぐにポケットからハンカチを取り出して口に当てる。
「だ、大丈夫ですか?」
「え、ええ。少しお茶が器官に入っただけですから、大丈夫ですよ」
「そうですか?なら、よかった。ゆっくりと飲んでくださいね」
メイドは「お手拭きもってきますね」と言って真から離れてワゴンに向かう。
真はメイドを目で追いながら年配メイドを見ると、すでに真に向けていた目線は離れている。
(……何とかお茶を飲んだと思い込ませることができたか)
実を言うと真はお茶を飲んでいない。
正確にはお茶を一瞬口に含み、咳をすると同時にハンカチにお茶を吐き出したのだ。
わすがに口の中には残ってしまっただろうが、少量の毒ならば問題ないと判断した上での行動だ。
このような行動が出来るのも真が月影で培った物の一つだ。
(未だに嫌がらせで食事に毒を入れられたことは忘れられないな)
真は若いながらその実力は大人以上。それを面白く思わない者が月影にも少なからず存在し、その者たちに毒を入れられたことがある。
死ぬほどの毒ではなかったが、その時は本気で死ぬと思ったほどの毒だった。
その後、真は食事に必ず毒が入っていないかを警戒し、セイラが家事を覚えてからはセイラが作る料理以外の物をほとんど口にしていない。
なお、毒を入れたやつは真に仕返しで下剤を入れられ、三日は任務に出ていけなかった。
そうして真が一つの危機をやり過ごしたとろで、青髪の少女、メイドが姫様と呼んでいた青髪の少女が部屋に入ってくる。
「お待たせいたしました。これより皆様にこの世界で起こっている事と、皆様をここに呼び出した理由をご説明させていただきます」
姫は丁寧に頭を下げ、説明を始めた。
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