第4話 幼馴染と異世界転移

「マスター、マスター。朝ですよ、起きてください」


「ん?……おはよう。セイラ」


 真は目を擦りながら起きる。真が周りを見るとそこは車内ではなく自分の部屋。


「おはようございます。マスター」


「おはよう。……すっかり朝だな。またセイラが運んでくれたのか?」


「はい。起こそうとも考えましたが、マスターの寝顔を見ていたら起こすよりも寝顔を長く見ていたくなったので」


「別に面白いものでも無かっただろ?」


「確かに面白くは無いですね。ですが幸せではありました。マスターの無防備な姿を見れるの私だけですから」


「そ、そうか。……」


真は苦笑しながら、セイラの顔を見る。


「マスター、私の顔をじっと見てどうしたんですか?何かついていますか?」


「セイラは最初に会った時から随分と変わった、と思ってな」


「そうでしょうか?確かに色々と成長はしましたが、マスターにたくさんのことを教えてもらったので」


 セイラは自分の唇を指でなぞる。


「そうだな。あの日に泣いていた時よりも強くて綺麗になったな」


 真がセイラの頭をなでると、セイラは少し頬を赤らめる。


「……スルーはされましたが、褒められるのは嬉しいですね」


 二人は朝からイチャイチャとしているが時間は少しづつ過ぎていく。


「っと、そろそろ飯食わないと時間なくなるな」


「それならばすでに用意をしてあります。お着替えは……」


「そういえば制服のままだったな。シャワー浴びてくるか」


「ではこちらを」


 セイラは着替えを手渡す。


「さすが用意が良いな。さてと」


 真が立ち上がり脱衣所に向かうと、後ろからセイラが付いてくる。


「……セイラ、どうして付いてくるんだ?」


「せっかくですので、お背中でも流そうかと」


「しなくていい、しなくていい。シャワー浴びるだけだから」


「そう、ですか。……ではリビングで待っています」


 セイラはがっくりと肩を落とし部屋を出ていく。


「まったく。なんでここまで懐かれたのか」


 真は呆れたように呟くが、その顔は少し笑っていた。




 _____________________


 シャワーを浴び終えて着替えを終えた真はリビングで食事の用意をしていたセイラと共に朝食を取る。


「ごちそうさまでした。今日も美味かったよ」


「お粗末さまでした。マスターに喜んでいただけて何よりです」


 真は朝食を済ませ、学校の準備をする。


「どうぞ、こちらお昼のお弁当です」


「ああ。いつもありがとな」


 真はセイラから弁当を受け取りバックに入れる。


「今日の夕飯は何がいいでしょうか?」


「セイラの飯は美味いからな、何でもいいよ」


「マスター、何でもいいが一番困るんですよ」


「そうか。……なら、セイラが好きなもので頼む」


「ほんとに、マスターは……。分かりました、美味しい物を用意しますので楽しみにしていてください」


 などと、新婚なのかな?と勘違いするほどの仲が良い二人のやり取り。

 さらに二人の指には昨日受け取った指輪がはめられているのでさらに新婚に見える。

 ちなみにセイラの要望により左手の薬指にはめられているのでより新婚のように見える。


「よし、行ってきます」


「行ってらっしゃい。お気をつけて」


 真はバックを片手にセイラに見送られてマンションを出る。


 ちなみに真とセイラは初めて会ってから今までの約5年間、黒仁が所有している同じマンションの住んでいる。

 セイラの部屋は真の隣だが、生活のほとんどを真の部屋で過ごすためセイラの部屋はほぼ物置状態になっている。


 真が学校に行っている間にセイラが何をしているのかと言えば、マンションの地下に作られた二人専用の訓練場で訓練をしたり、家事をしたり、スーパーの特売品を買いに行ったりなどなど、月影と主婦の両立のような事をしている。

 なお、真もセイラも月影による教育を受けているので、高校卒業レベル、物によってはそれなりの大学レベルの知識を持っている。


 にもかかわらず真が高校に通っているのは、ある人物のせいである。

 そんな真はある人物と遭遇する。


「あ、真」


「ん?あぁ、いばらか。おはよう」


 遭遇した人物の名は忍田しのだいばら。

 整った容姿、少しつり目の紅色の目に長い金色の髪。そして苗字から分かるように忍田黒仁の娘であり、真と同年齢の従兄妹だ。

 黒仁は日本人だが、いばらの髪が金色なのはいばらの母が外国の人だから。いばらの母は月影の構成員ではないが、昔任務絡みで黒仁と出会いその結果結婚に至ったのである程度裏世界の事情を知っている。


 ちなみにいばらは月影のことは何も知らない。黒仁やいばらの母がそういった世界からいばらを離すために知らせていない。


 そんな両親の意向で普通の生活をしているいばら。

 その従兄妹で幼馴染でもある真もまた普通の生活を送っているように見せなければいばらに変に思われる可能性がある。なので真はわざわざ高校に通っている。


「おはよ。てか、気安く名前呼びしないでよ。誰かに聞かれたらどうするの!」


 いばらは真に迫り強い口調で言う。


「あぁ、すまん。……でもさっき、いば、忍田も俺のこと真って」


 真がまたしても名前で呼びそうになった瞬間いばらは真を睨んだ。


「は、はあ~?言ってないわよ!」


「いや、でも」


「うるさいわね!早く学校行くわよ!」


 怒りながらいばらは先に進む。

 そして、進む途中で止まり真のほうを振り向く。


「なにやってんのよ!早くしなさい!」


 と、叫びながらその場で真が来るのを待つ。

 そんないばらを見て、


「名前呼びはダメで、一緒に登校するのは良いんだな……」


 よく分からないな、と思いながら真はいばらと共に学校に向かった。







 _____________________


 真は自分のクラス、一年一組にて一人セイラの作ってくれた弁当を食べていた。


(お、この卵焼きダシが効いてうまいな)


 なお、真が教室ボッチ飯をしているのは、真に友達がいないから。


 だがまだ五月。さらに高校一年生という初対面の人が多い環境。それが高校一年生だ。

 それに真は別にコミュニケーション能力が低いわけではない。

 むしろ大人ばかりの職場である月影に長い間身を置き、多くの大人と接している分、そういった能力は高い方だ。


 だがその月影の任務が忙しいせいで、放課後にみんなで仲良く青春というのは出来ない訳だが、真はたった一度きりの青春を差し置いてでも成し遂げなければならないことがある。故に真は楽しい高校生活のことなどは全く気にしていない。


 ちなみにいばらも真と同じクラスだが、自席で真のことをチラチラと見るだけで女友達と一緒に弁当を食べている。


 真は一人黙々と弁当を食べ終える。

 弁当箱を片付けている最中に、真の目に左薬指にはめられた指輪が目に入る。


(これが、俺たちの追い求めていた物に近づいている証)


 真は指輪を撫でながら、自分の目標を再確認する。

 そんな真が油断しきっていた瞬間、


「うわっ!!?」


「なんだこの光!?」


 急に床が光だし、その光が教室全体を覆う。


(なっ!?これはまさか、異世界転移!まずい、早く脱出を!)


 真は教室のドアを開けようとするが、ドアはびくともしない。


「くそっ!くそっ!」


 真は何度もドアに向かってタックルをするが、それでもドアは壊れない。


(セイラがこの場にいてくれたら――)


 そんな考えも虚しく、光はさらに強くなる。


 そんな中でも真はせめての抵抗としてノートに書き込みをして机にしまう。それと同時に自分のバックを手に取る。


 そして指輪のはめられた手を強く握りしめる。


(あとは頼んだぞ、セイラ、叔父さん)


 そして一年一組の教室内に居た生徒三十名は光と共に世界から消えた。


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