狐が赤くて何が悪い!

Ryu-zu

身体が赤くてなぜ悪い!!!

六甲山の奥の奥、そこに産まれた6匹の小狐。


産まれた時は皆同じ様な色合いをしていたが、離乳期になるとそれぞれの個性が大きく変わってきた


その中の1匹は純白長毛の身体に変わって行った

白い狐は神の御使みつかい。やがて神界で神事かみごとに従事する尊い存在なのだ


そしてもう1匹は全身赤毛で覆われ、目はマグマのような深い紫の色をしていた



白い子にハクトと言う名前が付けられた

「ハクト、あなたは神界に昇る子。だからそれまでは何もしなくていいのよ」

寝るのが趣味で何もしない母親が、白い狐の子に事あるごとにそう言い聞かせた


「おいっ!レット!さっさと水を汲んできて獲物の一つも取ってこんかいっ!」

働くのが大嫌いな父親が赤いきつねの子に怒声を浴びせ、その小さな身体を蹴りあげる


「おい、劣等!さっさと俺らの水とご飯を持って来いやっ」

『僕はレットだ、劣等なんかじゃないよ』

「「「「「 あはははははは 」」」」」

「お前はその赤い毛が俺らホンドキツネとは違うんだよ」

「俺らより劣るアカキツネでもそんなに赤い毛をしてないわ」

「このクズがっ!」


毎日毎日レットは一人こき使われ、自分が捕ってきたご飯は家族の為に消費され、いつも余った獲物の手足の骨に付いた少しのお肉で我慢をしていた




そんな6匹は順調に成長し、白い狐のハクトは神の使いと共に神界に上がる日がやって来た。


「父さん、母さん、そして兄弟のみんな、今までありがとう」


「ハクト、神界でも頑張って名を上げろよ」

父は優しくハクトの頭を撫でた。ハクトは誇らしげな笑顔を見せた。


「ハクト、無理はしないでね、あなたは特別な存在だから」

母はハクトの身体を気遣った。ハクトは優しい笑顔を返した。


「「「「 ハクト、頑張って来いよ~ 」」」」

兄弟達がハクトにエールを送った。ハクトは満面の笑顔で答えた。


『ハクト、たまには帰って来いよな』

レットもハクトに歓送の声を掛けた。

「ゴミがっ、呼び捨てすんなっ」ハクトはとても嫌そうな顔で旅立った。




「さて、それではレットももうここを出て行く時かな?」

唐突とうとつに父がレットに出ていけと言い出した。


「レットはもう、一人で生きていけるよね?あなたは強い子だから」

母が優しい笑顔でレットをさとす。


『えっ?でも僕が居ないとみんなの水やご飯が困るでしょ?』


「「「「 そんなもん、誰でも出来るんじゃ~ 」」」」

「とっとと出て行けや」

「もうその赤毛を見なくて済むと思うと、心が躍るわ」


『・・・』


レットは、もうここには自分の居場所なんて無い事に気づいた。

そして、最後まで自分にきつく当たらなかった母にだけ頭を下げて出て行く。


(かあさん、げんきでね。今までありがとうございました)






「さて、アレは神戸方面に行ったから、反対の有馬温泉方面に行きましょう」

母は、赤毛で見た目が嫌いなレットが居なくなって、心底ホッとしていた。


そして、万が一にも二度と会わない様にレットとはまったく反対方向に引っ越す事を父に進言していた。





もう12月も過ぎて寒くなってきたので、思うように獲物が取れないが、レットは肉食だけでは無く、木の実や雑草、キノコまで食べられるようになっている。


家を追い出され数日が過ぎたある日。

近くのどこかから悲鳴に似た叫び声と興奮した叫び声が聞こえてきた。


クヌギの木の陰から覗いて見ると、そこには小さな動物を大きないのししが襲っている光景にぶち当たった。


レットは木の陰に身を隠し、自分の存在を消し去る。


(どうしよう・・・)

(ここら辺はあの猪の縄張りなんだ)


「わしの縄張りで何してくれとんじゃ~このガキが~」

猪は大声で叫びながら小動物に縄張りに入った報復を施している。


「ご、ごめんなさい、ごめんなさい」

「許してぇ~」


見るに見かねたレットは、そいつを助ける事にした。


猪が一直線に向かって来れる場所を見つけ、木の枝を投げつける。


「あぁ~? おのれも何しとくれとんじゃ~」

ドスドスドスとこちらに向かってくる猪。


まっすぐに向かってくる猪を素早く回り込んでかわすレット。

猪よりも早く駆け抜けて小動物を助け、勢いをつけて猪の縄張りから遠退とおのいた。




「大丈夫か?」

 「あ、ありがとっ」



ハクビシンがお礼を言ってきた。


「なんでこんな猪の縄張りで?」

「お腹が空いて・・・」


レットは自分の保存食のお肉を分け与えた。


一気に食い漁ったハクビシンは、レットの持っている食べ物を全部食べつくそうとしていた。


「ちょ、ちょっともう駄目だよ」

「これ以上は僕が食べる分だから」

(チッ)

ハクビシンは聞こえない様に舌打ちをした。


それでは、と別れようとしたが、何故かハクビシンが付いて来る。

だが、途中で「そっちはあんまり良くない方向だよぉ」

「だけど戻っても、さっきの猪の縄張りだよ?」

「それに僕は菊水山きくすいやまに行くんだから、こっちに行かないと」


 「仕方ないけど、ここでお別れだねぇ」

 「じゃぁその食べ物を分けようかぁ」

「えっ?だ、駄目だよ、これは僕のんだから」

 「私が飢え死にしても良いと?」


レットは産まれてからずっと誰かの為にご飯を捕って来ていた

そして今また、知り合ったばかりの子に自分の食べ物を奪われようとしている



その時、林の向こうからよたよたと近寄って来る奴がこちらに向かって声をあげる

 

 「あ、あんた~うちのご飯と首飾りを返して~」

ハクビシンの首には、昭和の香りがする古い首飾りが掛かっていた。

 

「君、その首飾りはあの子の物か?」


 「な、何言ってんの?見ず知らずの子の言う事信じるの?馬鹿じゃない?」

君も見ず知らずなんだけど?


 「お、お願い返して、母の形見なの」

「なぁ盗ったんなら返してあげなよ」

 「私が盗ったって証拠でもあるん?」

「あっ、だからあっちに行きたがらなかったんやな?」


 「そのペンダントトップの裏にうちの母の名前が書いてある」

「ちょっと見せてね」

 「さ、触らんといて!」


 「こ~んな安物要らんわっ」

ハクビシンはネックレスをレットに投げつけてその場を去って行った。





 「くっそー、きつねの分際で馬鹿にしやがって」

 「残りの食料獲り損ねたわ」


「おいっこらっ」

「さっきのガキやな」


そこには先ほど襲われた猪が仲間を連れてやってきていた。


「見つけたぞ、おいっ逃がすなよ」


回りをグルっと囲まれてハクビシンは逃げ場を失った。


「わしの倉庫から盗んだ冬用の干し肉を全部返さんかいっ!」

 「そんなもん、もう全部食べたわ」


「そっか、ならお前が保存食になるだけやがな」

猪はそう言ってハクビシンを捕まえた。


 「いやや~いやや~離してぇ~」

 「誰かぁ~助けてぇ~」



その悲鳴はレットにも届いていたが、助けようと戻りかけたレットをネックレスを取り返してあげた緑色のタヌキが引き留めた。


 「あの子とどんな関係か知らんけど、助けなあかんの?」

「いや、さっき知り合って食べ物をほとんど食べられただけの関係やけど」

 「???」

 「あなた馬鹿なの?助ける意味が分かんない」


「でも困ってるやん」

 「食料を盗まれて困ってるんはあの猪達と違うの?」

 「あなたも、そしてうちも食料を盗まれて凄く困ってるのに?」

 「自業自得やとは思わないの?」


「そうかなぁ」

 「助けたいならもう止めないけど、また騙されるだけやと思うよ?」


緑のタヌキはまたよたよたと歩き出した。

「なぁ怪我してるんとちゃうの?」

 「2日も何も食べてないだけよ」


「これ、ちょっとでも食べなよ」


 「・・・」

 「あんたってホントお人よしと言うか偽善者と言うか」

 「あのハクビシンに食料盗まれて無くなりかけてるんやろ?」

「それでもまだ君よりはお腹が減って無いから」


 「・・・」

 「私、グリって言うの、あなたは?」

「俺はレット、ほら食べなって」

 「ありがとね」


グリはレットから差し出された餌をほおばった

「ほら、お水も飲んで」



~~~




六甲山の山頂が白く色づく頃

有馬温泉方面に向かった一家は食うに困っていた

小狐はミミズクや山犬にさらわれて家族は4匹に減っていたが、餌を捕って来る奴が居ない、水もどこで湧いてるのか分からない

もう丸々3日も何も口にしていない

父と母は生きるために決断をした



 キャン ギャン

2匹の小狐は抵抗する間もなく、両親への供物と成り果てた


だがそれは一時しのぎで、恒久的な解決にはならない

数日すると、夫婦はお互いにお互いを食べようとして、雪の上を真っ赤に染めてほとんど同時に息絶えた





~~~





 「うちね、菊水山きくすいやまって所を目指してるんよ」

「えっ、僕もだよ?」

 「そこには山の中に小さなゴルフ場があって、人間の食べ残しや餌になる小動物が沢山いて、木の実やキノコも沢山あって、まるで天国のような所らしいの」

「うん、僕もそう聞いて行こうと思ったんだよ」


雪の上に2匹の足跡が点々と続いていく


2日ほど歩いた時、大きな木の根元に洞を見つけた


「あそこで風と雪を暫く避けようか?」

 「うん、ちょっと寒い・・・」


洞の中は雪と風は入ってこないモノの、入り口が開けっ放しだから寒さは緩和できていない


2人は寄り添い自分語りを始める


レットは産まれてから虐げられた事を長々と話した。

グリも自分の生い立ちを話し出した


 「うちのおかあさんも緑色で、村では孤立しててね」

 「村の暴れん坊達に乱暴されてうちを身ごもって一人で産んでね」

 「その時の怪我が元で、うちがまだ小さい時に死んじゃった」


「なんで毛色で差別とかするんやろうな」

 「みんなと違うんはやっぱり仲間外れになりやすいんとちゃうかな」

「でも、僕の兄弟は白い毛色で神界に行ったよ」

 「白は良くて、有色は駄目ってなんでやろね」



2人は色んな事を話した

そして、いつしかお互いを信用信頼出来る間柄になっていった。


 「生まれ変わったら普通がいいなぁ」


 「お腹空いたなぁ」




「幸せって何だろうね?」

 「生きるって幸せなのかな?」





「ねぇグリ、僕、凄く、眠たい」

 「うん、レット、うちも、すんごく、眠たい・・・」

「ちょっとだけ、寝よう・・・か・・・」

 「う・・・ん・・・」





そして二人は

深い深い眠りについた



シンシンと降り積もる雪が


2匹の足跡を消していく






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