第28話:《魔宴》の始まり


 そのフロアもまた、他の階と変わらないはずだ。

 どれぐらい前から放置されているかも分からない廃ビル。

 片付けられもせず、薄汚れているだけの場所。

 けれど、ARグラスを通して見えるのは「闘技場」だった。

 俺たちが立っているのは円形の舞台の内側。

 赤と金の装飾に彩られ、どれもこれもキラキラと輝いている。

 現実ではない、けれど現実よりも精巧に描き出された光景。

 美しい舞台とは真逆に、待ち受けている連中はひどく恐ろしい。


「――よう、逃げ出さずによく来たな。

 歓迎しようじゃないか」


 そう言って、舞台の中心に立つ牙噛は笑う。

 男の傍らには、両目を閉じた少女の悪魔ベールの姿もあった。


「随分と大所帯だね。わざわざ観客を集めてくれたのかな?」


 挑発めいたミサキの言葉の通り。

 牙噛の周りには二十人前後の男たちの姿があった。

 全員がスマホを構え、例外なくその近くには異形の獣を侍らせている。

 黒服だったりチンピラっぽかったり。

 背格好は様々だが、素性については問うまでもない。


「《魔宴サバト》の時間だ! 悪魔の夜だ!!」

「今日の生贄も上物だな。

 なぁキバさん、ちゃんと五体満足で終わらせてくれよ!」

「くだらねェこと言ってんじゃねぇよ。

 久々の宴だぜ? オレは血が見たくてしょうがねぇ!」

「「「殺せ!! 殺せ!! 殺せ!!」」」


 騒ぎ立てる声に、つい顔をしかめる。

 観客というのもあながち間違いではないようだ。

 そんな耳障りな声を背景に、牙噛は心底愉快そうに笑っていた。


「上司思いの部下たちでなぁ、ちょいと頼んだら助太刀に来てくれたってワケよ」

「白々しいにも限度ってもんがあるわよ」


 呆れ顔のソフィアは、まだ呪いで鉱石化していない方の指先を動かす。

 すると、無言でオロバスが立ち位置を僅かにずらした。

 いつでも悪魔の集団を迎え撃つ構えだ。


「さて――」

「もう御託はいいよ、牙噛」


 更に何かを言おうとした牙噛を遮って。俺は宣戦布告を口にする。

 牙噛の悪魔、ベールの周りには人型に近い影が無数に立ち上がった。

 これもソフィアから事前に聞いている。

 借金で縛った人間を「奴隷」のように扱い、契約だけさせた悪魔たち。

 確認できる星の数は三つから四つ。

 周りの部下が従えてる悪魔より、大体星一つ多い。

 それが合わせて十匹以上。数の上では俺たちが圧倒的に不利だ。


「お前自身と戦うのは、俺とミサキだけだ。

 嘘じゃないのは分かるだろ?」


 この空間は、間違いなくベールの《領界》。

 虚偽を口にした者には、ソフィアが受けたのと同じ呪いが降り掛かる。

 つまり何の変化もないなら、口にした言葉は真実だ。

 契約者である牙噛が一番よく知っているはず。

 よく知っているから、ヤクザの男は獰猛な笑みを見せた。


「ガキらしい安い挑発だか、乗ってやろうじゃねぇか」

「ミサキ」

「あぁ、任せて」


 予め決めておいた手順を、言葉にはせずに確認し合う。

 勝てるかどうかなんて分からない。

 けど、これは勝たなくちゃならない戦いだ。

 ――必ず勝つ。勝って終わらせる。

 胸の内に抱くのは、それだけで十分だった。


「殺せ」

「「「おぁ!!」」」


 牙噛の発した短い命令に、チンピラ連中は雄叫びを上げた。

 向かって来る獣に似た悪魔の群れ。

 鋭い爪と牙、その切っ先が届くよりもずっと早く。


「――さぁ、露払いは任されようじゃないか!」


 剣を構えたオロバスが割り込んで来た。

 鋭い突きで一匹を刺し貫き、続く二匹目三匹目を蹴りや拳で叩く。

 ソフィアは後方に下がりながら、大きく息を吸って。


「主はお前の顔を見ない。ひれ伏せっ!!」


 聖なる言葉を強く叫んだ。

 その声の圧力は凄まじく、チンピラたちはびくりとその場に立ち止まる。


「日野くん! 貴方はキバガミを!」


 その声と同時に、俺たちも走り出す。

 オロバスが悪魔を蹴散らした事で出来た道。

 俺は牙噛の姿を正面に捉えて――。


「ッ……!?」


 衝撃が胸の辺りを叩く。

 息が詰まり、足が止まりそうになるけど。


「こ、のぐらい……!」

「ハッ、流石に対策ぐらいはして来たかよ!」


 笑う牙噛の手には、名前も知らないゴツい拳銃が握られていた。

 撃たれたが、大した怪我はない。

 おじさんのコートに加えて、服の下にはソフィアが施してくれた仕込みがある。

 弾除けの効力を持つ言葉を刻んだ紙の札。

 おかげでちょっと殴られた程度のダメージで済んだ。


「――じゃ、これは対策して来てるゥ?」


 背筋を撫でるのは死神の手か。

 冷たい死の感触が、事もなげに俺の命を掠める。

 頭上を塞ぐ少女は、見た目こそミサキに劣らず可憐だ。

 けど、それはガワだけを取り繕った物でしかない。

 七つの星を持つ上級悪魔ベール。

 開かれた両の瞼には、眼球の代わりに黒々とした闇が渦巻いていた。

 《異戒律》が、来る。


「ミサキ、頼んだ!」

「あぁ、主命は受け取った!!」


 叫ぶと同時に、傍らのミサキが動く。

 俺とベールの間を身体で遮り、左手の牙を翳す。

 「形のないモノ」を喰らう牙を。

 続いて感じるのは、大気そのものが軋んだような衝撃。

 視覚的には何が起こったかは分からない。

 状況として、ベールの「眼」をミサキが防いでくれた理解できた。

 流石――と賞賛を口にしようとして。


「ッ……」


 彼女の左腕。その一部、二の腕辺りが削れているのが見えた。

 肌が抉れ、そこから光る砂のようなものが流れる。

 ……これは、砂金か?

 「嘘を吐いた物を鉱物に変えてしまう」《領界》と近い能力。

 その視線に晒したモノを別の物質に変換する《異戒律》。

 ソフィアから予め聞かされていた「予想」とも合致している。

 両目の闇を細めてベールは笑う。


「すっごいじゃん! ワタシの『眼』が直撃したのに!

 ねぇねぇどうやって防いだの?

 その手についてる口みたいなのが関係してる感じ?」

「遊んでねェで仕事しろよバカ悪魔め」


 相方である悪魔に文句を言いながら、牙噛は再び俺に銃弾を撃ち放つ。

 見もしていないにも関わらず、狙いは酷く正確だった。

 こちらの警戒をすり抜けるような射撃。

 そのままなら直撃していたところを。


「――カナデは守る。

 主命はもう受け取っているからね」

 

 ミサキの右手がそれを阻んだ。

 銃弾よりも早く動いた腕が空を切る。

 「形あるモノ」なら何でも食べる牙により、弾は跡形もなく消えた。

 防がれた牙噛はわざとらしい口笛を吹いてみせた。


「イイねぇ、相変わらず星は見えねェが上等な悪魔だ。

 今のは上手く行ったと思ったんだけどなぁ」

「キバガミのノールックショット、それだけで結構死ぬ奴いるんだけどねぇ。

 いやぁ惜しかった惜しかった」

「……ホント、ふざけた連中」


 不快そうなミサキの声。

 牙噛も、その契約悪魔であるベールも。

 殺す気で仕掛けた直後なのにゲラゲラと笑っていた。

 本当に、心の底から愉快そうに。


「カナデ、惑わされないで。アイツらは単に『イカレてる』だけだ」

「……大丈夫、分かってる」


 落ち着け。

 ミサキの言葉に頷いて、自分自身に言い聞かせる。

 ――まともに、正面から戦って勝つのは難しい。

 今の僅かな攻防だけでも、その事実を嫌というほど認識させられる。


「オイ、どうしたガキ? まさかブルっちまっ――」

「っ……!」


 相手が挑発を言い終えるよりも早く。

 懐から取り出した拳銃。

 それを可能な限り素早く構え、牙噛に向けて銃爪ひきがねを引いた。

 初めてまともに撃つ。

 しかも、仮にも人間相手に向けて。

 躊躇いそうになる心理を無理やり捻じ伏せての射撃。

 正直、当てる自信はまるでなかったけど。


「……何だ、そっちも意外と悪くねェな?」


 生まれて初めて撃った弾は、運良く標的に命中していた。

 当たったのは相手の左肩辺り。

 服には小さな穴が開き、そこから微かに煙もたなびいている。

 ……そう、当たった。

 俺の撃った銃弾は、間違いなく牙噛に命中していた。


「で、そんな豆鉄砲でオレをどうしたんだ? アン?」


 無傷。撃ち込んだはずの銃弾は、呆気なく弾かれた。

 牙噛は、俺と違って衣服などに防御を仕込んではいない。

 極々単純に、皮膚の「強度」だけで銃撃を防いでいた。

 ――マモンのショップで施す事のできる人体改造。

 一応、その片鱗は学校での遭遇で既に見ていた。

 だから銃が通じない事ぐらい、最初から想定済みではあったが。


「化け物かよ……!」

「ハハハハっ! そんなもん挑む前に分かる話だろ!!」


 まともな感性なら驚く他ない。

 生身で銃弾を弾くとか、フィクションの怪人かよ。

 実際、悪魔の力で改造してる牙噛は似たようなもんだろうけど。


「さてさてェ? お互い挨拶も済んだって事でいいかなぁ?」


 嘲るようなベールの声。

 彼女の傍では十数体もの下級悪魔が蠢いている。


「じゃ、さっさと初めて終わらせよっか。まさか卑怯なんて言わないよね?」

「数で押せば勝てるなんて、猿の浅知恵だと思わない?」

「アハハハ! いいなぁ、今のすっごくカッコイイ!

 それが単なる強がりじゃないってトコも見せて欲しいなぁ!」


 狂ったように笑うベール。開かれた両目の暗黒が不気味に輝く。

 その視線が俺たちを捉え、同時に群がる悪魔たちが俺たちに向かって来た。

 それはさながら、黒く押し寄せる津波のようで。

 ミサキは迷わずその前に立ち塞がる。

 この時点で俺に出来る事は――。


「捧げる……!」


 右手に嵌めた指輪の一つ。

 そこに意識を集中させ、必要な言葉を短く叫ぶ。

 捧げる供物として選択された指輪は、音もなく砕け散った。

 指輪が持っていた「価値」は速やかにミサキの方へと流れ込む。


「はァ――――!!」


 雄々しく気合いを吐き出して。

 「価値」で増幅ブーストされたミサキの右手が真っ向から津波とぶつかる。

 牙に血肉の一部を食い千切られ、更に腕力で何匹かを叩き伏せた。


「捧げる。構わねェ、やっちまえ」

「オーライ! 喰らえェ――!!」


 牙噛もまた、身に付けた指輪の一つを供物として砕く。

 ミサキと同じく「価値」を装填されたベール。

 彼女の《異戒律》である魔眼が、さっき以上の圧力で押し寄せて来た。

 人間の俺は、まともに喰らえばその時点で終わりだ。

 だからミサキは、既に受け取った主命に従う。


「ぐ……っ……!」


 構えた左手の牙で視線の魔力を削り、その上で自らを盾にする。

 また、俺の目の前で金色の砂が流れ落ちた。

 左手だけでベールの《異戒律》は防ぎ切れない。

 その余波は止めた代償に、ミサキの腕や足が削れる。

 雑魚の悪魔たちもまた、ベールの視線を喰らっているが――。


「あ、ご心配には及びませーん。

 コイツらはもう先に『変えてある』からね?」


 幼い童女を思わせるベールの表情。

 子供は子供でも、性質としては悪童のそれだ。

 今さらだが、下級悪魔たちを良く観察してみる。

 ……正直、見た目からは分かりづらいけど。

 人型の影に近い彼らの身体は、光沢のある金属のようにも見えた。

 変えてある、というのは言葉通りの意味か。

 一度その「眼」で変化させた物を、別の物質には変えられない。

 それがベールの《異戒律》の制限なのだろう。


「変化させたモノも操れるのか……?」


 どういう金属に変換したかは不明だ。

 けど、その状態で変わらず動けるのはおかしい。

 そうして「操る」ところまで含めて能力と考えるべきだ。

 正直に言って厄介極まりない。


「カナデ、大丈夫……!?」

「あぁ!」


 振り向く余裕のないミサキに応えて。

 俺はまた銃で牙噛に狙いを付け、立て続けに銃爪を引いた。

 発砲の衝撃は思ったよりも軽い。

 弾丸は下級悪魔たちは素通りし、その後方へと抜けていく。

 ベールは特に動きを見せない。

 幾つかの弾は外れ、残りは運良く標的に突き刺さった。

 けど、結果はさっきと同じだ。


「オイオイ、まさかもう手詰まりとか言わねェだろうな!」


 無駄弾を嘲笑う牙噛。

 お返しとばかりに、俺よりも遥かにゴツい拳銃を撃って来る。

 またミサキが防ごうと――したところで。


「やらせないって!!」


 ベールの声が「命令」となり、悪魔たちが一斉に群がった。


「ッ、この……!」


 それでもミサキは、何発かの弾は右手で防いだ。

 残りは俺に当たるけど、その結果は最初に受けた弾と変わらない。

 急所さえ守れば、身に付けた防御は弾丸ぐらいは防いでくれる。

 ……こっちに乗せられる形で、牙噛も大分撃って来た。

 流石に拳銃の装弾数とか、そういう細かい事は分からないけど。

 

「まさか、弾が切れたら何とかなると思ってるか?

 ならねーよバカが! テメェぐらいなら素手でバラバラにできるからなぁ!」


 まぁ、脅しじゃないよな。

 ミサキが全力で塞き止めている悪魔の群れ。

 場合によっては、アレらより牙噛の方が恐ろしいかもしれない。


「怖ェだろ? ビビってんだろ!

 認めろよ糞ガキ、テメェが考え無しの大馬鹿だってなぁ!」


 罵声は耳だけでなく、胸の奥にも響く。

 牙噛の口数がやたら多いのは、相手から「失言」を引き出すためだ。

 虚偽を口にした者を呪う《領界》。

 ソフィアもこの手に乗せられて嵌ってしまった。

 対処法はただ黙っているだけで良い。

 簡単なことのようで、それは意外と難しい。


「見ろよ、テメェの悪魔の戦いをな!

 馬鹿な契約者に付き合わされてご苦労なこったよ!」


 笑う男の声に誘導する形で。

 俺は反射的に、戦うミサキの方を見ていた。

 黒い空洞の眼を開く、牙噛の契約悪魔のベール。

 彼女の前で群れをなす下級悪魔たち。

 それら全てに、ミサキはたった一人で戦っていた。


「アハハハハ! 凄いなぁ、めっちゃ頑張るじゃん!」

「そっちは、口ほどには大した事は無さそうだね……!」

「言ってくれるなぁ! そらそら、お前らもっと畳み掛けなってば!」


 ミサキの右手が悪魔の血肉を抉る。

 数が多いため、敵からの攻撃も既に何度か受けていた。

 纏ったセーラー服はボロボロで、傷付いた肌からドス黒い血が流れている。

 それでも、彼女は僅かにも怯まない。

 俺の出した主命オーダーを果たすために、全力で戦っていた。


「勝機がないことぐらい、お前が一番分かってんだろ?

 ビビって震えちまうぐらいなんだ、無理するなよ」


 牙噛は、俺に銃口を突き付けながら笑っている。

 それは自分の勝利を確信している顔だった。

 ……この戦い、きっとコイツも全力で勝ちに来てるはずだ。

 手札の出し惜しみはせず、だからこそ勝利を疑わない。

 銃の向こう側で笑う男に、俺も笑い返してやった。


「……怖いよ、当たり前だろ」


 そうだ、当たり前だ。

 まだ何日か前の俺は、何も知らないただの学生だった。

 そんな身分で、悪魔だの殺し合いだの。

 怖くない方がどうかしてる。


「怖いさ、死ぬのも戦うのも怖い。

 正直に言えば、ミサキ以外の悪魔だって震えが来るほど怖いんだ」

「ハッ、随分と素直じゃねぇか」

「だけど」


 嘲る牙噛を、真っ向から睨む。


「だけど――今、お前を怖いとは思わない」


 悪魔は怖いし、戦うのも死ぬのも怖い。

 それ以上に、何もできずに失うことこそ恐ろしい。

 ミサキは戦っている。ソフィアだってオロバスと一緒に頑張っている。

 だから俺も、怖いけど戦える。


「他の諸々に比べたら、お前なんてちょっと強いだけのチンピラだ!

 そう考えたら、怖いことなんて何もないね!」

「ハハハッ、言うじゃねぇか糞ガキが!」


 笑いながら、青筋を立てた牙噛が再度銃爪を引く。

 ……こっちが銃を撃てば、向こうはその分だけ撃ち返してくる。

 やられたら、やった分だけやり返す。

 牙噛の行動原理は分かりやすい。

 その上、こちらの銃は脅威じゃないと見切れば撃ち放題だろう。


「捧げる……!」


 俺の方は撃ち返さず、速やかにミサキへと「価値」を注ぐ。

 指輪がまた一つ砕ける。コレの残弾も決して多くはない。

 けど今は出し惜しみをしている余裕はなかった。


「邪魔――!!」


 「価値」の供給による一時的な力の増幅ブースト

 群れる悪魔を無理やり蹴り飛ばし、右手は牙噛の撃った弾を齧り取る。

 今回はそれだけでは終わらない。


「ッ!?」


 小さな爆発にも似た衝撃。

 初めて牙噛の表情が驚きに歪み、その手から派手に血が飛び散った。

 突然、手の中で炸裂した銃の破片。

 改造済みの牙噛の肉体は、それですら大した傷は受けていない。

 とはいえ完全に無傷ではなく、幾つかの金属片は肉に食い込んでいた。


「てめェ、何しやがった……!?」

「悪いけど、種明かしはしないよ」


 ミサキは唸る牙噛を嘲笑し、下級悪魔の一体を左の拳で殴り倒す。

 彼女がやった事そのものは酷く単純だ。

 ここまで右手で「喰った」牙噛の撃った弾丸。

 それを胎の中で一塊にし、思い切り「」だけだ。

 幸い、牙噛の目でも完全には捉え切れなかったらしい。

 こっちが何をしたのか、相手はまだ理解し切れていない。


「アッハッハ、なになに! 今何かやったよね!?

 もうちょっとワタシに良く見せてよ!」

「お断りだね!!」


 警戒するどころか、逆にベールはテンションを上げていた。

 不明の攻撃を受けた牙噛は、憎悪と憤怒を視線に乗せる。

 怯まず、俺はそれを真っ向から睨み返した。


「――弾が切れたら、なんだって?」

「クソガキめ……!!」


 挑発は効果覿面。激怒した牙噛の顔が化け物みたいに歪む。

 メキメキと音を立て、両腕と両脚の筋肉が異常に隆起していく。

 ホント、人間辞めるにしても限度があるだろ。


「ガキが、生きたまま自分の脊髄が引き抜かれるのを拝ませてやる!」

「やれるもんならやってみろ!!」


 さぁ、ここからが正念場だ。何も考えずに戦えば、恐らく負ける。

 考えた末に見出した僅かな勝機、それを今から全力で掴みに行くんだ。

 俺とミサキ、二人の力で。

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