第322話 特別な美味しさ

 一般的なレストランよりもかなり迅速に用意されたツナバーガーは、手に取るとまだ熱いと感じられるほどだった。


「旨そう! これぞ出来たてって感じだよな」


 ファラが嬉しそうに耳と尻尾を揺らしながら、バーガーの包みを解いて齧り付く。アーカンシェルバーガーはメニューで見るよりも大きく感じられたが、ファラはそれをものともしない大口で食べ進めて行く。


「ポテトも揚げたてカリカリで、美味しい~!」


 アルフェがポテトをつまみながら嬉しげに目を細めている。


「はい、リーフもどうぞ」


 アルフェに長いポテトを差し出された僕は、いつものように口を開けようとして、慌てて閉じた。


「ありがとう、アルフェ」


 一応みんなの前だということを自覚しないといけないなと、指で受け取る。口に運ぶまでもなく、指に感じた触感が、アルフェの言うカリカリであることがすぐに理解出来た。


「うん、美味しいね。学食のポテトとはまた違った食感でいい」

「マスターの仰るとおりですね。これは、お菓子感覚でいくらでも頂けてしまいそうです」


 ホムも気に入ったらしく、パクパクと食べ進めている。ハンバーガーから手を付けないのは、初めて食べるのでまだ食べ方がわかっていないからかもしれない。

 ファラの食べ方は真似出来そうにないし、ここは、エステアの食べ方を参考にした方がいいだろうな。そう思いながらエステアへと視線を移すと、エステアはバーガーにもポテトにも手を付けないまま、じっと包み紙を見つめていた。


「……ん? どーしたの、エステア。食べないの?」

「いえ、ナイフとフォークはどこかしらと思って」


 メルアの問いかけにエステアが席から立ち上がろうとする。


「そんなの使いませんわぁ! こういうのはがぶっと大口で頂くものですの」


 エステアを制して座らせたマリーが、身振り手振りで説明すると、エステアはファラの食べ方に気づいた様子で、バーガーの包みを解き始めた。


「そうなのね。じゃあ……」


 エステアに倣って、ホムも包みを解く。ただ、大口で食べると僕の母上が作ったお気に入りの服にソースが零れるかもしれないと気にしたらしく、あくまで控えめに齧り付いた。


「んっ!」


 大口でアーカンシェルバーガーに齧り付いたエステアが、美味しさに目を見開く。


「美味しいですね、エステア」

「……ええ。全力で食べてるって感じがして、とても美味しいわ」


 ホムがエステアに同意を求めると、エステアはもぐもぐと口を動かして忙しく咀嚼してから、同意を示した。


「ふふっ。うち、エステアがこんな大口開けて食べるの、初めて見た~」


 楽しそうにエステアが食べる様子を眺めていたメルアが、マリーとにこにこと目を合わせる。


ワタクシもですわぁ! エステアってば素直なんですから」

「え? みんなはどうやって食べてるの?」


 マリーの言葉にエステアは目を瞬き、夢中になって半分ほどを食べ進めているファラを見遣る。ホムは小口だが、頑張って齧り付いているし、別におかしなことはないと思うけれど、メルアとマリーはなにが面白かったのだろうか。そう思ってメルアに視線を移すと、メルアは僕に向かって目配せして、包みを解いたバーガーを口に運んだ。


「もちろん、がぶって食べてるよ。こーしてバンズの部分をぎゅって押さえてね」

「えっ!?」


 バンズがふわふわということもあり、その食べ方をすると大きなアーカンシェルバーガーに上品に齧り付くことが出来るのがわかる。エステアが驚きの声を上げる隣で、マリーも同じようにアーカンシェルバーガーに齧り付いて見せた。


「これがコツなんですわぁ。でも、ふわふわのパンを潰して食べるのも考えてみたら、美味しさを追求する上では無粋な食べ方ですわね。ワタクシも……」


 そう言うや否や、マリーが大きな口を開けて躊躇なくバーガーに齧り付く。バンズの横からソースが少し零れてマリーの唇の端についたが、彼女はそれを気にしない様子で舌先を使って舐め取った。


「にゃはっ! この方が食感が変わって美味しいだろ?」


 元々その食べ方を知っていたらしいファラが、皆に同意を求める。


「そうだね。パンのフワフワと、野菜のシャキシャキとツナがぜーんぶそれぞれお口の中を楽しませてくれるね」


 アルフェが満足そうな笑顔で同意を示し、ホムがエステアと同じように一生懸命大口で食べ進めているところを見るに、どうやらそのようだ。僕は流石に口が小さいから出来ないけど、みんなと食べるツナバーガーは格別な美味しさだった。


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