第238話 終ノ太刀
「凄まじい魔法が繰り広げられておりまぁああああす!!!! レムレス、規格外の魔法陣を展開しているぅうううううううっ!!」
ジョニーの声がアルフェの活躍を伝えてくれる。
――間に合ってよかった。
高揚感よりも安堵が勝った。上空に浮かぶ魔法陣は雷魔法の術式を描いている。アルフェは遂に
「オラオラァ!! よそ見してる場合じゃねぇって言ってるだろうがぁああああっ!!」
イグニスが
「
イグニスの指摘は確かだ。だが、彼はもっと大事なことを見落としている。
「ねえ、防御しなくていいの?」
頭上の魔法陣が鈍色の雲で満たされる。雷撃が起こるのはもう時間の問題だ。
『裁きの雷よ、来たれ!』
「は……!?」
アルフェの詠唱が空気を揺るがし、さすがのイグニスも異変に気づいた。だが、もう襲い。
雷の魔法陣が輝くと同時に
「おい、冗談じゃねぇ!」
イグニスが防御の姿勢を取る。だが、自ら剥き出しにした操縦槽では落雷の感電を免れない。
「――――!!!」
なんとも名状し難い絶叫を響かせ、イグニスはがっくりと操縦槽の中で崩れた。操縦槽内でなんらかの対策が行われていたのか、一応息があるのは映像盤から確認出来た。
「あらぁ~。無謀な戦い方をしてると思ったら、こんなことになっちゃったのね。回収、回収♪」
マチルダ先生の声が響き、気絶したイグニスが回収されていく。
「さて……」
イグニスに勝ったことで、僕にも少し余裕が生まれる。
改めて
その他に炎魔法の影響を受けたのか、あるいは雷魔法のエネルギーと相殺されたのか、立ち込める水蒸気で闘技場全体が白い水蒸気に霞んでいる。
「リーフ!」
「マスター!」
メルアに勝ったアルフェと前線を退いたホムが僕を案じて戻ってくる。
「よくやったね、アルフェ」
「うん」
アルフェを労いながらも、僕は視界不良の
「エステアさんは、どうなっちゃったのかな……」
「わかりません。ですが、試合が続行されている以上、倒していないことだけは確かです」
アルフェの呟きに、ホムが緊張した声音で応える。視界が晴れるまで、ほとんどなにも見えない。
「エステアさんのエーテル……向こうの方に見える。無事みたい」
アルフェが浄眼で状況を知らせてくれる。無事の報せを聞いて、少しだけほっとしたホムが自分の手でエステアに勝つ機会は残されている。
「素晴らしい魔法でした。ここからは、私とあなたたちの一対三の戦い。正々堂々と戦いましょう」
水蒸気の白い霧の向こうから、エステアの声が響いてくる。彼女の発言を言葉どおりに受け取るとすれば、霧が晴れるまではお互いに動かないということだろう。
「エステア! エステア!」
「エステア! エステア!」
残り一機になったエステアを鼓舞するように、
「アルタード! アルタード!」
「レムレス! レムレス!」
「アルタード! アルタード!」
エステアを呼ぶ声に負けじと、アルタードとレムレスを呼ぶ声が上がっていく。
「いつでも行けます、マスター」
ホムは先ほどの落雷で帯電布を充電している。
「三人同時に行こう」
僕の指示にアルタードとレムレスが反応する。
「霧が晴れてぇえええええええっ、セレーム・サリフの姿がぁああああ浮かび上がったぁあああああっ! 損傷なし! 無傷! 全くの無傷でぇええええぇええええすッ!!」
セレーム・サリフの周りの地面には無数のクレーターが出来上がっている。
「あの雷撃を全て刀で……」
雷撃がセレーム・サリフを避けたとは思えない。エステアは、風を纏った刀であの無数の雷の軌道を逸らし続けたのだ。
「いざ、尋常に勝負……!」
「仕掛けます!」
エステアの声にホムが反応する。だが、なにかがおかしい。
「待て、ホム!」
叫びながら違和感の正体に気がついた。エステアは、セレーム・サリフの刀を鞘に収めている。
「マスター!」
僕の警告にホムが踏みとどまる。だが、鞘に収まっているはずのセレーム・サリフの刀に風が集まり、竜巻ような渦を成す方が早かった。
「
エステアは腰を落として抜刀の構えを取っている。
「避けろ!!」
「
警告とエステアが抜刀した刀を横に薙いだのはほぼ同時だった。瞬時に暴風が吹き荒れ、僕のアーケシウスは防御の甲斐なく弾き飛ばされた。
「ホム! アルフェ!」
二人が無事かどうか確認しようにも、刃のように吹き荒れる風の圧に、アーケシウスが悲鳴を上げている。機体の装甲が嫌な音を立てて揺れているのがわかる。刃のような風ではない、この風は刃なのだ。このままでは機体がもたない。
「エステアは何処だ!?」
「上です!」
叫ぶ僕の声にホムが反応する。辛うじて機体を起こした僕が見たのは、高く跳躍し、今正に刀を振り下ろそうとしているセレーム・サリフの姿だった。
刀に巻き付く風の刃は、まるで巨大な竜のように僕たちに牙を剥く。
「うわぁあああああああああっ!!」
避けることも出来ずに、僕は悲鳴を上げた。アーケシウスは木の葉のように風の刃に翻弄され、僕の身体は反転した操縦槽の壁に強く叩き付けられた。
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