第140話 反撃開始
「……リーフ。ワタシに頼みたいことって、なに?」
一通りの作戦を伝え終わったところで、アルフェが口を開いた。囮になってもらう三人は、攻撃よりも防御に重きを置いてもらうことになる。逆転のためには僕たち三人の攻撃が不可欠だ。
「アルフェには、ホムと
「そうくると思ったよ。頑張ろうね、ホムちゃん」
アルフェはもう分かっていたようだ。タオ・ラン老師のもとで修行したあの技を、ここで使わない手はない。
「ん? その、ブリッツなんとかっていうのは、なんだ?」
「端的に言えば、人間を大砲の弾のようにして撃ちだす魔法だよ。発射台に雷魔法のエネルギーを充電する必要があるからアルフェと一緒じゃないと撃てないんだ」
ヴァナベルの質問に、出来るだけ平易な言葉を使って説明する。ヴァナベルはわかったようなわかっていないような顔をし、ヌメリンに「大砲みたいなヤツだよぉ~」とさらに略された説明を受けて理解したようだ。
「しかし、お言葉ですがマスター。わたくしの
「そう。だから、ホムには僕を抱えて飛んでもらう」
ホムの問いかけに頷き、僕は自分の役割の説明を始める。僕のこの身体では、単に
使う魔法はもう決めてある。
「僕は上空からA組の配置を確認し、
この魔法は詠唱によって形成した炎の渦を花開かせ、無数の熱線を雨のように地上に降り注がせる炎魔法だ。
着弾する相手の位置を上空から観測することで精度を上げ、たった一度の攻撃機会を最大限に活用できる。
「ハッ! 炎には炎をってヤツだな!」
「にゃはっ。あたしらは、それが発射される時間稼ぎの囮ってわけだ」
作戦を端的に表現したヴァナベルとファラが愉快そうに笑う。ここにきて笑える余裕があるというのが、二人の強みだな。
「そうなるね。出来るだけA組を攪乱してから退いてほしい。
「……オレたちは囮で、てめぇらがこの作戦の肝ってわけだな」
「不満かい?」
確かめるように訊いてくるヴァナベルに、念のため聞き返してみる。ヴァナベルは首を左右に振り、長い耳をぴんと立ててにやりと笑った。
「いや。オレたち三人を囮にするんだから、しくじるんじゃねぇぞ」
「勿論だ。勝つための作戦なんだからね」
「F組に告ぐ――」
拡声魔法で、リゼルの声が上空から響いてくる。
「そろそろ再開だな。ここまで猶予があったことに感謝しよう」
それこそがA組の余裕であり、慢心でもある。だから僕たちは、この状況からでも逆転出来る。
「さて、弱虫リーダーのヴァナベル。いつまでそこに隠れているつもりだ?」
「うっせぇ! てめぇらこそ、遠くから魔法でボンボン狙いやがって、てめぇの持ってるその剣は飾りかぁ!?」
言い返すヴァナベルは、地声だけでかなりの声量だ。
「うふふっ。やぁっと動きが出て来たわね♪」
ヴァナベルとリゼルの言い合いに触発されたのか、マチルダ先生が箒に乗って近くまでやってきた。
「膠着状態じゃつまらないから、ちょぉっとお手伝いしてあげる♪」
マチルダ先生がそう言って、
「ははっ、意外と近くまで来てんじゃねぇか」
舞い散る灰の向こうにA組の隊列が見える。ヴァナベルが高らかに笑うと真紅の魔剣をリゼルの方に向かって突きつけた。
「今からそっちに行ってやるから、首を洗って待ってろ! 行くぞ、ヌメ!」
「あ~~い!」
ヌメリンが巨大な戦斧を掲げてA組に向かって突進を始める。
「来るぞ! 引きつけて迎え撃て!」
リゼルの命令に、A組の魔法科の生徒たちが魔法の杖の照準をヌメリンに合わせる。
「そぉーーーーーれっ!」
ヌメリンが戦斧を振り上げて跳躍したかと思うと、地響きととともに地面が揺れ、辺りは一瞬にして灰と土煙に覆われた。
僕とアルフェ、ホムがいる高台には、風向きが味方してそれらは届かない。土煙と灰の舞う中で、A組の影がよく見える。
どうやら運が向いてきたようだ。
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