第110話 決死の攻防
ホムが身を挺して僕たちを守ろうとしている。それなのに、僕はまだ戦い方を模索している。
アルフェが作ってくれた隙を生かしきれなかった自分が歯痒い。二回目の人生だというのに、僕は一体なにをしているんだ。
――今、僕が戦う術はなんだ?
問いかけながら
「雷鳴よ、踊れ! エクレール!」
アーケシウスをガイスト・アーマーに急接近させながら、高圧の電流を纏わせたドリルを繰り出す。
「なっ!?」
操手は咄嗟に機体を退いたが、アーケシウスのドリルが機体を掠める方が早かった。
ガイスト・アーマーの顔面の半分を抉ったドリルが、
アーケシウスは魔法を使える仕様ではないので、それは覚悟の上だった。だが、ガイスト・アーマーの顔面ではなく、操手を貫く予定が外れてしまった。
「捨て身の攻撃とは、恐れ入ったな!」
発せられた言葉は、敬意ではなく嘲笑だ。機体のバランスが崩れたアーケシウスは、ガイスト・アーマーのパイルバンカーに薙ぎ払われ、吹っ飛んだ。
「……っ、ぐ……」
機体の衝撃が、操縦槽の僕にも直に伝わってくる。頭の中がぐらぐらして目の前が一瞬白くなったが、エーテル過剰症候群のお陰ですぐに元に戻った。
「そろそろお遊びは終わりだ。お前を生かしてはおけないことがわかったからな」
ああ、僕のあの攻撃はこいつにとって脅威になったんだな。もっと魔法耐性をアーケシウスにつけておけば良かった。そうすれば、形勢逆転できたかもしれないのに。
ガイスト・アーマーが近づいてくる中、崖の方に落ちたホムの様子を確認するが、戻って来ている様子はない。生きてはいるが、戦える状態でもないのだろう。
さて、この状況をどう切り抜けるべきか。アルフェもホムも絶対に助けなければ、死んでも死にきれない。
「リーフ、ホムちゃんが……」
覚悟を決めた僕の耳に、アルフェの声が届く。念話の魔法でホムの状況を知らせようとしてくれたようだ。
「……ホム」
映像盤を確認すると、あの崖の上にホムの姿が戻っている。身体のダメージは軽視出来なさそうではあるが、まだ戦えるということを身を持って示してくれているようだ。
「アルフェも一緒に戦うよ」
「……そうだね、僕は一人じゃない」
それは弱さでもあり、きっと強さにもなる。
「さあ、覚悟しな!」
「
ガイスト・アーマーの操手がアームを振り上げたその時、アルフェの放った
「うぉっ!?」
アルフェの奇襲にさすがの操手も驚いたようだが、それだけだった。アルフェの放ったものは、子供の水鉄砲ほどの威力しかないので、攻撃には向かない。だが、アルフェなりの必死の援護は続き、水鉄砲が放たれ続けている。
「……おやおや。水鉄砲で水遊びをしたいのかい?」
奇襲がただの水鉄砲だとわかり、操手の男が下卑た笑いでゲラゲラと笑い出す。アルフェは巨岩の上から攻撃を続けているが、まるで効いていないのは明白だった。
ただ、アルフェのお陰で勝機が見えた。放たれ続ける水鉄砲が、ガイスト・アーマーとその周辺を水浸しにしてくれた。
「お前の相手は、この僕だ」
アーケシウスを起こしながら、声を上げる。
「そんなボロ従機でなにが出来る? お嬢ちゃん、こっちを片付けたらすぐに遊んであげるからねぇ」
操手の男が、こちらにパイルバンカーを向けながら嘲るように笑っている。機体から
「さぁて、とっとと片付けるとするか! 喰らえ!」
予想通り
「片付けられるのはそっちだ。……
「なっ、なにぃ!?」
水浸しの地面を伝った電撃に包み込まれたガイスト・アーマーの動力部が焼き切れ、火花を散らせる。過大な電流に侵食された機体は、関節の至るところから煙を上げ、ショートしている。だが、アーケシウスも無事では済まなかった。
「あぁああああっ!」
左腕が爆発し、衝撃でアーケシウスが後方に倒れる。僕自身も感電で酷い痛みを受けたが、ダメージは残らなかった。これぐらいの威力がなければ、目的を達することは出来ない。
この痛みと内臓が焦げたような嫌な臭いから察するに、ガイスト・アーマーの操手も無事では済まないだろうな。その証拠に、今は完全に沈黙している。
「リーフ!」
アルフェが巨岩を降りて、アーケシウスに駆け寄ってくる。アルフェの無事な姿を見て、僕もほっと息を吐いた。だが、次の瞬間、ガイスト・アーマーの顏半分に残っていた探照灯が再点灯したことに気づき、身体を強ばらせた。
「アルフェ、後ろへ!」
「う、うん!」
アルフェをアーケシウスの後ろに下がらせながら、どうにか機体を起き上がらせる。
「……悪くない策だったが、残念だったな。大人を見くびってもらっちゃぁ困るぜ。さあ、大人しくこっちに来て――」
「断る」
僕は毅然とした態度で男の言葉を遮った。
「ならば力尽くで――」
「ひとつ勘違いをしているようだ。そもそも今ので倒せたなんて、思っていない。僕は、援護をしただけだ。ホム!」
地面を伝って伝播した電流が、ホムが錬成した
「
「ハッ! 何度も同じ手は喰わ――」
迸る雷魔法がガイスト・アーマーを襲い、電流をその身に纏ったホムが急接近する。
「なにぃぃ!?」
ガイスト・アーマーの操手は咄嗟に防御をしようと盾を掲げる。
目にも留まらぬ速さで繰り出されたホムの蹴りは、構わずに盾を撃ち抜いた。盾は音速を超えるホムの蹴りを防ぐどころか、粉々に粉砕される。
「う、嘘だろぉ!?」
「はぁぁぁあああ!!」
堅牢な盾を打ち砕いても、
「……死んじゃったの……?」
「いや、気絶しているだけだよ。胸が動いてる」
映像盤で確認する限り、命までは奪っていないようだ。僕自身が攻撃したときは、それでもいいと思っていたけれど、やはりその考えは良くないな。アルフェの心を深く傷つけかねない。
「マスター……」
ガイスト・アーマーの攻撃に加え、
「良くやってくれた、ホム。手当が必要だ。急いで街を目指そう」
「……うん。ワタシがやるから、ホムちゃんは動かないで」
「ありがとうございます、アルフェ様」
同意を得たアルフェが頷き、浮遊魔法でホムをアーケシウスの上に引き上げる。
「ワタシの治癒魔法じゃ、足りないけど、ないよりは良いと思うから……。痛いのいたいの、飛んでいけ――」
ホムを横たわらせたアルフェが、治癒魔法を施している。詠唱がいわゆる治癒魔法とは違ってオリジナルになっているところが、アルフェらしいな。小さい頃を思い出すし、安心する。僕と記憶を共有しているホムも、きっとそうだといい。
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