第23話 グラス=ディメリアの功績
「アルフェ・クリフォートです。よろしくお願いします」
アルフェがそう言ってぺこりとお辞儀をする。入学式の翌日から始まった小学校での生活は、付属幼稚園の延長線上にあった。と言っても、僕とアルフェは幼稚園の頃から特待生枠にクラス分けがなされていたので、クラスメイトの顔と名前を覚えるところから始まった。
クラスメイトは、僕とアルフェを覚えるだけでいいけど、僕たちは他の全員を覚えなきゃならないのは面倒だな。簡単な自己紹介と拍手が繰り返される中で、そんなことを考えながら、僕は配布された教科書や副教材の資料にぱらぱらと目を通す。
アルフェの方をちらりと見ると、少し緊張気味の真剣な面持ちで皆の話に耳を傾けているのがわかった。
――少しはクラスメイトの顔と名前を覚えておくべきか……?
逡巡したが、すぐに諦めた。基礎教育機関に身を置くのは初めてだが、ここでの関係性が今後の人生に大きく影響することは多分ないだろう。年齢や能力で振り分けられただけのクラスなのだから。
配布された教科書の中には、錬金術もある。小学生向けということもあり、かなり初歩的なところから書かれていたが、この年度が終わる頃にはかなり高度な技術の習得が求められているのが教科書の内容からも見て取れた。
――そういえば、ホムンクルスの研究は今はどうなっているのだろう? あの女神たちの話だと、禁止されていてもおかしくないが……
気になったので索引から調べようと巻末のページを開く。
「……なんだ……?」
キーワードの羅列を目で辿っていた僕は、思わず目を瞠った。信じがたいことに、前世の名――グラス=ディメリアの名が巻末の索引に掲載されていたからだ。
教科書に載るような功績が残っているはずがない。僕の研究による実績は全て、錬金学会の重鎮らに横取りされてしまったからだ。
慌てて索引に示されたページを捲ると、そこには間違いなく僕の功績が僕の功績として記されていた。
『グラス=ディメリア。
これによって、以前は感覚的なものであった錬金術を再現性の高い現象にまで押し上げようとしたのだが、どうやら今日においてそれは、広く用いられているようだ。
ただ、この功績については錬金学会が僕の論文を
どういう事情や経緯があったのかはわからなかったが、こうして教科書に載るような功績として記されているということは、僕が死んだ後の三〇〇年の間になにかがあったのだろうな。
それが一体なんであったのかは、僕にはきっと知る由もないけれど。
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