第2話


---


白い息が宙に舞う。

毎年この時期になるとあの頃の温かい日々を思い出す。


「さっむ」


両手に生暖かい吐息を吹きかけ、コートのポケットに入ったカギを取り出す。


一昨年購入したマイホームには家族の存在がしっかりと灯っていた。かじかむ手で玄関のカギを開けると、うぇーんと可愛らしく泣く愛娘の声が聞こえる。


「ただいまー! 遅くなってごめん!」


革靴を脱ぎ、コートをハンガーに掛ける。

そのままリビングに直行するとそこには生後六ヶ月の娘、あかりと娘を抱っこしながらゆらゆらと揺れる妻、美里の姿があった。


「おかえり〜 今日仕事納めだよね。今年もご苦労様でした」

「美里もお疲れ。確か今日はあかりの予防接種だったよな」

「うん。今日いつもより待ち時間が長くてさ。夕飯の支度まで手が回ってなくて……」

「と、思って」


待ってましたと言わんばかりに後ろに隠していた袋を取り出す。


「今日寒いし久々に食べたくない?」


美里の顔がパッと明るくなったのを確認すると、早速カップの包みを剥がす。そしてウォーターサーバーの赤いノズルをひねり、お湯を注いだ。作り方もあの頃と変わらず簡単だ。

 温まったカップをダイニングテーブルに置き、小声で「ここ置いとくね」と伝える。

美里は眠ってしまったあかりをベビーベッドにそっと寝かせると、学生の頃と変わらない無邪気な笑顔を浮かべた。


「やったー! 久々のきつねだー!」

「あかりが起きる前にちゃちゃっと食べよう」

「だね」


食卓に並ぶ赤と緑。

向かい合いながら、椅子に座ってじっと待つ。


出来上がるまでの三分間、君と何を話そうか。



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君と三分 江乃 @otoeno

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