和泉健は案内する
俺は今、人生で1番と言っても過言じゃないくらいの注目を浴びている。
まぁ、実際に言うと俺の隣なんだが……四捨五入して俺でもよくない?
まぁ、それもそのはず。
俺の隣には天使のような美少女転校生が座っているからだ。
ただでさえ陰キャで頭もさほど良くなくて運動神経も平均的な人生負け組を謳歌している俺を神様が哀れに思ってしてくれたことなのだろう。
ほんと、ありがとう神様。
そのおかげで俺の自己紹介の出来事ほぼほぼ忘れることが出来た。
最後の最後で噛んだのに、ひと笑いも起きなかったという黒歴史級な出来事は忘れずに覚えちゃってるけど。
「ーーそれじゃあ、今日はここで解散するけど、和泉くん。早乙女さんに学校の案内お願いしていい?」
先生の話が終わりに差し掛かった時、そのような神的なお言葉を頂き数秒だけ無言のアイコンタクトを交わした。
本当に僕でいいのでしょうか?
そんな思いで見つめていると先生はニコッと微笑んだ。
俺からしたらそれは「頑張れ」というエールに思え、力強く頷いた。
「わかりました」
俺、男になります。
こうして、新学年初日は午前中のみで終わり、俺は今から“ドキドキ学校案内のお時間”イベントが始まるのであった。
◇◇
「ーーここが図書室で、ここが音楽室」
特別無駄な話はせず、早乙女さんは俺の後についてきて俺も淡々と説明していく。
なにこれ。ただの学校案内じゃん。
学校案内以外に何を求めてたのかは俺自身にもわからないが、なんとなく残念な気持ちになっていた。
しかも、ここで案内は終わっちゃったしまじでなんにもなかったなぁ。
せめて連絡先でも交換する勇気があったらまた違うんだろうなぁ。
「とりあえず案内はこれくらいかな? もしわかんなかったらまた聞いて」
「ありがとう! えっと……確か、和泉くんだっけ?」
うおおおお!! 名前覚えてくれてるううう!!
胸の内の興奮を抑えながらクールに「そうだよ」と言うと早乙女さんはおもむろにスクールバッグの中を漁り始めた。
「あ! あった!」
取り出したのはみんな大好きスマートフォン。
「あの……その……もしよかったら、連絡先交換しよ?」
照れくさそうにモジモジしながら、頬をピンク色に染めて上目遣いで俺を見つめてくる。
か、かわいいっ!
生まれて初めて俺に連絡を聞いてくれた人がこんな可愛い子だなんて……神様……今まで人から連絡先を聞かれなかったのは今日のためだったんですね。
俺は素早くスマホを取り出し画面を開く。
普段誰とも連絡を取らない俺は「俺、機械に疎いんだよね」と言い訳を零しながらもなんとか交換を果たせた。
「それじゃあ、和泉くんまた明日ね」
「うん。早乙女さん、また明日」
また明日も会えるんだ。
まだまだ寒さが続く今日だが、俺の心はうららかな気分だった。
早乙女さんは実は女装なんです。 佐久山 @Sakuyama
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