早乙女さんは実は女装なんです。
佐久山
和泉健は一目惚れする
「ーーそれでは顔見知りの人もいると思いますが、新たなクラスですので新しい友達が作れるように自己紹介をしていこう!」
冬の寒さを残したまま名ばかりが春の季節になった今日この頃。
俺、和泉(いずみ)健(たける)は高校2年生に昇格した。
自己紹介って……
してもしなくても名前なんて名簿見ればわかるし、仲良い人なんて1年の時点でほぼほぼ決まってるから意味ないだろ。自己紹介するだけで友達できるなら俺だってとっくに100人くらいできてるわ。
捻くれ者で陰キャの俺はそんな愚痴を心の中で零しながら頬杖をついて先生を見ていた。
正味俺は友達なんて居ない。ちなみに言うと彼女もいない。
いじめられてる訳でもないし、太ってる訳でもない。顔も平均的な顔をしてると思うのだが、たぶん1年の時に風邪で入学式を休んで、人よりも自己紹介の回数が少ないから出来てないのだと思う。
「それじゃあ、早速出席番号1番の和泉くん前に出てきて?」
ま、前に……出る……だと……?
頭の中お花畑の女担任はニコニコと人の良さそうな笑顔を浮かべながらも死刑宣告のような事を言ってくる。
ただでさえ人前で話すのが超絶苦手で嫌いなのに、その場ではなく教卓の前で話せと。それも、1番注目の集まるトップバッター。
欲は言わないからせめて2番目がよかった……
なんで今年に限ってあ行の苗字の人いないんだよ!
俺は自分の運命と神様を呪いつつも感情を無にし、ノロノロと立ち上がる。
もう少し俺が陽キャだったら先生に文句を言うことも、この自己紹介を明るく乗り切ることも出来たのに。
だが、実際クラスの中は俺の名前が呼ばれた時、微塵も盛り上がりを見せなかった。
「あの人誰だっけ?」
「転校生?」
「あー、そいや、今日転校生くるって言ってたっけ」
そんな声が聞こえてきて余計に悲しくなってくる。
私は元からいる在校生でございます。
前に出て周りを見ると物珍しげな目でみんなが注目している。
まるで本当に俺を転校生だと思っているかのよう。
うう……悲しい……
悲しみにくれて、なかなか一言目が発せないでいると急にガラッと教室の前扉が開いた。
「すみません! 遅刻しました!」
息を切らして入ってきた人は誰もが呼吸を忘れてしまうほどの美少女だった。
黒いボブ髪に、陶器のような白い肌、人形のように整った顔立ちにスタイル抜群の長い手足。
……美しい……
ひと目で俺は心を奪われた。
いや、俺だけじゃない。クラスの大半の男子が奪われたことだろう。
一目惚れってこういうのなんだろうな。
密かに青春の幕が上がる予感がしていた。
「ちょうどよかったわ。登校してそうそうだけど、初めに早乙女さん自己紹介できそう?」
「はい!」
通る声で返事をし、俺はそそくさと席に戻り、さっきまで俺がいた位置に彼女が立った。
「早乙女(さおとめ)愛(めぐむ)です! 好きな事は、サッカーとゲームと女装です! どうぞよろしくおねがいします!」
愛嬌満点の彼女の自己紹介。
ひとつおかしなワードが入ってた気がするが、あまりの可愛さで誰も気づくことが出来ず、ただただ暖かい拍手を送るのだった。
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