第20話 こんなはずじゃなかったのに
長くて濃密な夜が明けて――
「……へぇ~。リムも、か……」
寝息が、
リムサリアもまた、自分やアーシェラと同様に、体内で霊力を循環させる体内霊力制御を会得した上で身体能力を強化する呼吸法が常態化している状態、つまり、〝覇者の
――それはさておき。
「…………」
「おはよう」
ゆっくりとリムサリアの
「――あッ!? あぁあああぁ~~~~……~ッ!!」
唐突に大きな声を上げたかと思ったら、ガバッ、とタオルケットを頭の
いったいどうしたのかと龍慈が目を丸くしていると、また唐突に脱力して動かなくなって……
「……こんなはずじゃなかったのに……」
ぽつりとそう
「ん? じゃあ、どんなはずだったんだ?」
愛し合って同じベッドで共に朝を
それなのに、何を
「……リュージは、もうアタシなしじゃ生きていけなくなってるはずだった」
そんな事を言い出した。
龍慈は、そんな普段とギャップのある姿を、
すると、思い当たる
昨夜、リムサリアは、龍慈をベッドに押し倒し、
そして、案の定、前戯が十分ではなかった事に加えて、敢えてどことは言わないが、キッツキツだった事もあって、出血し、痛みも感じていたようだったが、それよりも喜びが
始めはぎこちなく、だが、コツを
今になって、龍慈は思う。
あの時はそんな
確かに、あのままだったら、自分はリムサリアの
もし、自分が童貞だったなら。
とは言え――
「その
現に、もうリムサリアの居ないこれからなど考えられない。考えたくない。
だと言うのに、リムサリアは、
「そんな事ない。ダメだ。
そう言って、
(って事は、やっぱり、あの後か……)
騎乗位で思うが
完全に身も心を
それは、そうすべきだと、このままは
今思うと、あれは、
もし童貞だったなら、成す術もなくイかされまくって
しかし、自分には、既にアーシェラという愛妻がいる。一方的に奉仕され、愛され、与えられるより、お
それを、リムサリアにも知ってほしいと思った。
だからこそ、我慢できた。
リムサリアは、自分がイきそうになると動きを止めて、誤魔化すようにキスや愛撫を求め、落ち着くとまた、たゆんたゆん揺れる
それでも、龍慈を一度もイかせられず、やがて、妖艶な笑みを
もう自分がイくのを堪えるのに必死で、動けなくなってしまったのだ。
そこからは、龍慈の
とても抵抗できる状態ではなかったリムサリアに有無を言わせず、
それから、小刻みに躰を震わせている妻を包み込むように抱き締めて、耳元でそっと愛を
その後、先に、もっと……、とおねだりしたのはリムサリアで、主導権を取り戻そうと頑張ってはいたものの、それは無理だと
そして、後半戦に突入すると、リムサリアが、
体内霊力制御の応用で、頭は冷静なまま気血を送り込む事によって勃起状態を維持できる龍慈は、ふと不審に思い、左腕で引き締まって美しくくびれた腰を抱き、右手を背に回してリムサリアの動きを止めさせ、耳元に口を寄せて内緒話をするように尋ねてみた。
すると、
〝……優しくされると、感じすぎちゃうから……〟
理性が消し飛ぶかと思った。
それでも、本能の
龍慈は、ギルドの『鏡の間』の
そして、謝りながら、徹底して優しく、とことんまで可愛がり尽くした。
リムサリアは、可愛がれば可愛がるほど可愛くなっていき、当初の獲物を
リムサリアが求めてくれるのを良い事に、何度も何度も絶頂を迎えて躰に力が入らなくなってしまってからも、夜は長いのだからと急ぐ事なく、
脳が
これは蛇足かもしれないが――
その頃にはもう、ベッドのシーツは、様々な体液で
だが、龍慈には、『美女も
この【玉の肌】は、肌が荒れる原因となる不潔な状態を許さない。それ故に、龍慈の肌に直接触れるものを浄化するという副次効果が備わっている。
この副次効果によって、龍慈がそうしようと思うまでもなく、眠ってしまった妻を愛でていてふと気付いた時にはもう、龍慈自身はもちろん、
事後、どうにも
(はてさて、どうしたものか……)
何か
だが、ここで謝るのは、
それでも、
「アタシなしじゃ生きていけなくするはずだったのに……」
リムサリアが、またそんな事を言いながら、もぞもぞ近付いてきて、
「もうリュージなしに生きていけなくなっちゃったじゃないか……」
ぴとっ、と
「そう、か……、それは、申し訳ない事をしちまったな」
龍慈は、そう言ってから、リムサリアの耳元に口を寄せて、秘密を打ち明けるようにそっと、俺としては願ったり叶ったりなんだけど、と
龍慈が、昨夜
ネックレスの指環が二つになった龍慈と、金と銀の指環を左手薬指に
それは、朝稽古の前に、昨夜は
悪夢は見なかったか? ちゃんと眠れたか? 忘れられた城の守護神ヴァルヴィディエルの分身体である
リムサリアのほうは、龍慈の居ない部屋に用はないし、アーシェラと話したい事があるらしい。それから、ついでのように、身支度ができたらそのまま出てきてしまったので、《ティーグリュガリア》の秘宝である神器を隣の部屋に置いてきてしまったとも言っていた。
そんな訳で、二人がアーシェラの部屋の前まで来ると、ノックする前に、ガチャッ、と開錠される音が響いた。
ちょっと驚きつつノブを回してドアを開ける。すると、そこには
バディは、クルリと
リムサリアと、
「おはよう」
元は二人で寝るために【仙人掌・大の手】で大きくしたベッドの上に、〔
二人は、朝の挨拶を返し、リムサリアはそのままベッドに上がってアーシェラの隣へ。
「どうだった?」
「よかった。思い通りにはいかなかったけど、思った以上に……その……よかった、と思う」
話している最中に昨夜の事が脳裏を
その様子を見て、アーシェラは微笑み、
「よかった。私は、リュージに、心の支えになる幸せな思い出をもらったから、リムにも、思い出す
「ありがとう。アーシェのおかげだ」
仲が
俺は何て素晴らしい嫁さんを
「それで、思い通りにいかなかった、って言うのは?」
アーシェラのそんな
「それがさぁ――」
嬉々として返すリムサリアの様子に、答えちゃうのッ!? と動揺を隠せない龍慈。
本当は、包み込むようにぎゅっと抱き締めたり、頭をなでなでしたりといったスキンシップで、昨夜独りで寝たアーシェラの寂しさを少しでも埋められたら、などと考えていたのだが……
まずアタシが上になって……、とか、私の時は……、とか、嫁さん達が赤裸々に自分の初体験を語り始めたので
アーシェラとリムサリアの、猥談と言うか報告会のような会話は、夫を見送った後も続き――
「……やっぱり、綺麗になってる」
リムサリアは、え? と目を丸くしてから、自分でも確かめてみて、
「あれ? そう言われてみれば……」
これまで女として振舞う機会などなかったし、特段
それなのに、今は、どちらも
「……って、まさか、リュージの能力の影響?」
はっ、と気付いたように言うリムサリアに対して、おそらく、と頷くアーシェラ。
アーシェラも、リムサリアと同じ理由で手入れなどしていなかったが、龍慈と
しかし、自分の場合は、〝マザー〟の
だが、リムサリアの変化ではっきりした。
龍慈の能力【玉の肌】は、副次的な浄化作用だけでなく、他者の肌にも影響を
「リュージに抱いてもらうと、それだけで綺麗になる? ただでさえ、ものすごく気持ちよくて、幸福感が半端じゃないのに?」
アーシェラは、こくりと頷き――
「それって……ヤバくないか? いろいろな意味で」
世の女性の多くは、綺麗になりたいと願っている。
その中でも特に、貴族の女性の異常とも言える美に対する執着を聞き知っている二人は、真剣な表情で顔を見合わせた。
そして、現在は、非常事態宣言が発令された事で臨時の
そんな訳で、その間、日が出ている内は、リムサリアの新調した装備の具合を確かめるのに付き合ったり、買い物と言う名目で新妻二人とデートしたりして過ごし、日が落ちてからは、宿の部屋で、熱いが
隣り合う二部屋はそのままに、一方は身支度を整えるのに使い、二人して夫が待つ部屋へ。
龍慈としては、一人ずつ、しっとりじっくりたっぷり愛し合いたいというのが本音なのだが、どちらもしたがり、一緒でいいから、とおねだりされたなら、
とは言え、三人で
ちなみに、そうなったのは、アーシェラとリムサリアがそれを希望したから。
二人が愛し合っている
龍慈は、嫁さん達の自分にしか見せない蕩けた美貌やあられもない姿など、そのあまりの愛くるしさに雄の本能が暴走しそうになったのは一度や二度ではなかったが、大切な人を傷付けたくないという強い思いと
結果、仲間としての
――それはさておき。
グランベルへと至る
東と西は、それぞれ別の都市への中継点でもある宿場町を経由する迂回ルート。中央は、グランベルへ最短で至る直通ルート。
寄り道をする理由がないサンドリバー車団は、当然、中央を行く予定だった。
しかし、団長がベルドベルの
そんな訳で、サンドリバー車団の主要メンバーが集まって話し合いが行われ――
「控えろ、ってのは、禁止、って訳じゃない。そうだろ?」
そう発言したのは、護衛を
「なら、予定通り中央を行けば良い。遭遇しなければ良し。運悪く遭遇したなら、《
それを聞いて、
「おいおい、『アタシら』って、まさか、たった三人でウルフリザードの群れを討伐できるって言ってるのか?」
サンドリバー車団の安全を
「違う」
そう否定したのは、アーシェラで、
「『襲われても返り討ちにする』と言っているのであって、『討伐しに行く』と言っている訳ではない」
「できるとは思ってるけどね」
そんな、話を
「俺達が請け負った仕事は、護衛であって、その『ウルフリザード』とやらの討伐じゃない。だろ? だからこそ、団長が、どのルートを選んでも、俺達のやるべき事は変わらない。何が襲って来ようと護り抜く覚悟でワイルドスチームに乗り込み、襲撃に備える。ここまでと同じように、な」
団長達は、そんな龍慈達の発言を
そして、牽引する付随車に乗客と貨物を満載したサンドリバー車団のワイルドスチーム8台は、夜明けとほぼ同時にベルドベルを出発し……
「あぁ~、やっぱ何事もなしとはいかないかぁ~」
時は、正午過ぎ。昼食のために停車する事はなく、食堂車などもないので、
場所は、グランベル寄りの荒野。この辺りはまれに雨が降るので、
まるで大地が波打っているかのように、低い
なので、何となくそんな気がしていた龍慈が、8号車の付随車上甲板で周囲を見渡し警戒していると、案の定。
進行ルート上からやや離れた場所、
「あれって…………聖堂騎士団か?」
交戦中の、それと思しき大型四足獣の群れと、リンデンバウムの支天教総本山で毎日のように会っていた聖騎士や神官達を
「……ん?」
龍慈が、自分でも不思議なほど目を引かれたのは、その中の一人――――全長3メートルはありそうな巨大な剣を右肩に
チートじゃなくてバグってる ~理外の巨漢と高身長コンプレックスの戦乙女達~ 鎧 兜 @yoroi-kabuto
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