第7話 突然

話し合いの結果、私達はゲームのキャラクターの仮装をすることに決まった。


私は話し合いの間、ただ皆の話に相槌をうつことしかできなかった。

星野と話してみたい気持ちはもちろんあったが、いざ至近距離で星野と対面すると、何も話せる気がしなかった。話してみてボロを出したくないとも思った。まあ星野は私のことなんて眼中にないだろうが…。


話し合いの中心にいる星野はやはり想像通りの星野だった。話をすすめるのもまとめるのも慣れている様子だった。

今日初めて知ったことは、笑うと目の横にくぼみができてすごく可愛いこと。笑う時は大きな口を開けてかなり豪快に笑うこと。なんにせよスマイルの破壊力はとんでもなかった。この笑顔を向けられたら皆イチコロだろうな〜と色々妄想しているうちに、話し合いは終わった。


結局今日得られた収穫は「星野の笑顔を近くでみられたこと」だけだった。

いや、だけというにはあまりに素敵なものを見させていただいた。十分すぎるくらいのご褒美だ。


また明日〜と言いながら皆椅子を片付け、席に戻っていく。私も椅子を持って席に戻っていると、由紀が駆け寄ってくる。

「玲奈〜!なんで何もしゃべらないの〜!」

「いや、だって、本当に緊張して……。」

「も〜…。もったいない…」

「でもね、本当に笑顔が…。

あ、今日の夜ちょっとうちにこれない?話したい」

星野の笑顔について由紀に話したい。この興奮を誰かに吐き出したかった。

「オッケー。職員室行く用事あるからちょっとここで待ってて!」

そういうとすぐに由紀は教室を出て行った。


私は鞄に筆箱や教科書をしまいながら、教室をふとみまわした。

教室では折坂と松井と星野がそれぞれ帰り支度をしていた。廊下にはいくつかのグループが輪を作って立ち話をしている。


教室で、この3人といるのは気まずい空間ができあがりそうだから、私は廊下で由紀のことを待とうと思い席を立った。

教室から出る際、帰り際に星野をチラ見しようと思って、見るとまたバチっと目があった。


私はいつものように咄嗟に逸らし、そのまま出て行こうとしたその時、なんと星野に腕を掴まれた。

「えっ……………」

声を出さない方が無理だった。何が起きているかわからないまま星野の顔を見る。

「あっ、ごめんこれ、忘れ物!石川さんのじゃない?」

星野の手元を見ると私の見覚えのあるピンクのシャープペンシルがいた。

「あっ、これ、私の!かな?多分、そう、私の?」

動揺のあまり言葉がうまく出てこず、質問に疑問形で返すという変な返しが記念すべき星野との初めの会話となってしまった。

すると星野は

「いやなんでそこ疑問形なの」

と笑ったのだ。私に向かって。あのとんでもないキラースマイルで。


「星野に腕を掴まれた」「星野と会話した」「星野が私に向かって笑った」一気に同時に色々な出来事が起こり、もうキャパオーバーだった。

星野がまた笑顔で「じゃあね」と言ってくれたが、私は無言で会釈をし、足早に教室を出た。廊下を早歩きで歩きながら、泣き出したいくらいに感情が昂っていた。


すると職員室から由紀が戻ってきていた。私の真っ赤な顔と何かを言いたげな顔を見て、「えっ、何何何?!!」

と由紀も興奮気味の様子だ。私は子供みたいに跳ねながらすぐに由紀に説明しようとしたが、教室から出てくる星野と目があったので、またすぐに逸らし冷静を装った。

「あとでまた話すわ」

星野に絶対バレたくはないのだ。この気持ちは。


この時、あのスマイルを向けられたらイチコロだと妄想していたのがまるでフラグかのように、私の星野への気持ちはまんまと「気になる」から「好き」へと変わっていた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

「顔が好き」から始まる恋愛の結末 青春愛 @kagayakitoao

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ