49.I know nothing.




「さて、もう三分は経ちましたよ。ムスカ大佐も痺れを切らす時間です。せんぱいの考えを聞きかせてくださいよ」


 相変わらず小憎たらしい笑みを湛えているカレン。どうしても俺自身にデートの誘い文句を考えてほしいらしい。

 というか、いつの間に制限時間があったのやら。


「……三分間待ってやるというのは、厳密に三分間待とうとしたわけじゃなく、空になった銃の装填時間を稼ぐためのカムフラージュだったはずだが」

「は? なんですかせんぱい、まさかのジブリガチ勢ですか? 正直ちょっとだいぶキモいです」

「ちょっとなのかだいぶなのかどっちなんだよ」

「どっちにしても、せんぱいは元部長さんをどうデートに誘うか考えなきゃなんです。なにかいいアイデアはないんですか?」

「アイデアと言われてもな……」

「たとえばほら、おいしいデザートのお店ができたから誘ってみるとかですよ。元部長さんはどんなデザートが好きなんですか?」


 ふむ。柊先輩の好きなデザート……。


「知らないな。そういう話はしたことがない」

「そうですか。じゃあデザートじゃなくて普通のお料理とか」

「さあな」

「和食好きとか、洋食好きとか」

「さっぱり分からない」

「一緒にお昼ご飯食べたりとか」

「ほぼないし、あった時も柊先輩がなに食べてたかなんて記憶にない」


 段々と小憎たらしい笑みが曇ってくる。


「……もしかしてせんぱい、元部長さんの好物とかなにも知らないんじゃないですか?」

「まあ、食べものに関しては」

「ほほう、なら食べもの以外の好物なら把握していると」

「読書の傾向とかなら……戯曲なんかをよく読んでるな。シェイクスピアとか」

「なんでその程度のことしか把握できてないんですか? せんぱいはあのデブ研で一年間なにやってたんですか」

「真面目に活動していたんだよ。だからこそ柊先輩がどんな本を読むか知ってるんだろうが」

「今はそんな真面目さ、なんの役にも立ちません。本の好みなんか知っててどんなデートに誘おうって言うんですか」


 ここぞとばかりに畳みかけられる。

 確かに、本とデートを結びつけるのは難易度が高い気がする。カレンの言うようにデザートとかなら食べに行きましょうとか誘いやすいが、本はどこの書店に行ってもさほど変わらないし、そもそもデートスポットとして一般的ではない。途中で少し立ち寄るとかならともかく。


「あ、じゃあこういうのはどうです? 元部長さんってもうすぐ受験で、来年は大学生じゃないですか。これを利用するんですよ」

「利用?」

「ほら、あれですあれ。オープンスクールみたいなやつ、大学でもありますよね? あれに一緒に行きましょうって誘うんですよ。せんぱいも同じとこ受けるってことにすればデートの口実にもなるじゃないですかぁ」


 満面の笑みで提案するカレン。

 恐らくオープンキャンパスのことを言っているのだろう。確かにもう少しすればそういう時期にもなるし、デザートなどで無理やり誘うよりはいいかもしれない。


「で、元部長さんってどこの大学を志望してるんですか?」

「知らないな。そういう話はしたことがない」

「結局それですか! ていうかほんッとうにになにも知らないじゃないですか! せんぱいのドアホぉ!」


 散々な言われよう。けれどこればっかりは俺にも非があるような気がして、いつものように言い返す気になれなかった。

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いずれベタ甘な妻になる後輩女子からウザ絡みされていた俺の高校生活。 界達かたる @Kataru_K

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