48.されど進まず




 未だ俺の部屋で会議中。

 と言っても精力的に発言しているのはカレンだけで、そもそも二人きりなのだから会議というほどでもない。よく言えて打ち合わせか……いや、そんな言葉さえ似つかわしくない。

 今のところはカレンの戯れ言を聞かされているだけでしかないのだから。部室に二人きりでいる時間とほとんど大差ない。


「まあせんぱい、この際なので過去のことは水に流してあげましょう。大事なのはフューチャー、すなわち未来なんですから」

「すなわちなんて言い直すようなことでもない上、なんでちょっと上から目線なんだよ……」

「とりあえずはデートに誘うことですよ。まずはそこからです」

「そんな簡単にいくものかよ。なんの脈絡もなくそんなことしたら絶対訝しがられるだろ」

「そうですかね? アメリカのドラマとかだと気軽に誘ってるじゃないですか。今度の日曜デートしない? 的な感じで」


 それはアメリカで、しかもドラマだからだろう。なんの参考にもならない。


「ここは日本で、ドラマじゃなく現実なんだ。そもそもデートなんて銘打って誘ってる時点で、もう好意があると言ってるようなものじゃないか。それじゃあ告白したも同然だし、それで断られでもしたら振られたことと同義だ」

「うわっ、超ネガティブシンキング……思った以上に奥手なんですね、せんぱいって」

「う、うるさいな。こればっかりは仕方ないだろ。一度でもタイミングをミスれば終わりなんだから……」

「そうやってタイミングばかり窺って、結局なにもしてこなかったのが現状ですよね?」


 中々に手厳しい指摘だった。

 こいつ、いつも頓珍漢なことばかり言うくせに、こういう時ばかり正論をぶつけてきやがる。


「まあでも、せんぱいの言うことが分からないでもないですけどね。一度ミスれば今までの関係が壊れて、より悪い状況になりかねないですし、それで現状に甘んじてしまうのも仕方がないとは思います」

「お、おう。そんな風に分析されるのもなんか気持ち悪いが……」

「というわけなので、せんぱいは元部長さんに本意を悟られないよう、なにかそれっぽい理由をつけてデートに誘う必要があります。その自然なやり口を考えてください」

「無茶言うなよ。というか、結局俺が一人で考えるならこの会議の意味はどこにあったんだ」

「仕方ないですね。なら、じゃんけんして負けた方が考えるということで」


 その理屈もまったく意味不明だったが、間髪入れることなく「最初はグー!」と始められたので、俺も思わず手を出してしまった。

 結果、カレンがチョキで、俺はパーだった。


「はい、あたしの勝ちです。なんで負けたのか、明日までに考えといてください」

「考えるべきことが一瞬でずれてるんだが……」

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