47.会議は踊る




「ではさっそく議題の方へ。問題はこの一年間、せんぱいが元部長さんに対してなんのアプローチもしてこなかったことだと思うんですよ」

「まるで見てきたような言い方だな」

「大体の経緯は兄から聞き出し……教えてもらいましたので」


 さらっと言い直しているがまったく誤魔化せていない。

 と言うか、芥川家は揃いも揃って俺の情報を横流しし過ぎだ。プライバシーもなにもあったものではない。


「もはや言い咎める気力も失せてくるが……それで、ハルトからどんな風に聞いたんだ。どうせ下らない話ばかりだろ」

「せんぱいは元部長さんのことが好きなのに、告白はおろか、デートにだって一度も誘ったことがないと」


 本当に下らないというか、当たり前過ぎて反応に困る内容だった。まあ事実ではあるが。


「ああでも、デートにはこの前行ったんでしたね。コンビニデートに」

「なんだその小バカにしたような薄笑いは」

「ええ? ぜーんぜんそんな風に笑ってないですよぉ? ただせんぱいが、そんなちょっと一緒に歩いたくらいだけのことをデートだと思っているんなら、控えめに言って爆笑です」

「小バカどころか完全にバカにしてるじゃねえか。俺だってあんなのをデートだなんて思ってないし、お前が面白がって言ってただけの話だろうが」

「甘い、甘いですよせんぱい! 溶かしてドロッドロにしたきんかん飴のように甘いです!」

「あれってそんなに甘かったか……?」


 意味不明な喩えに疑問を示す俺。

 もちろんカレンが取り合うはずはなく、無駄に勢いよくビシッと指を差してきて、


「たとえコンビニを共にした程度のことでも、心に翼が生えたが如くフライアウェイして喜ばないといけないんですよ! もっともっと舞い上がって、コンビニデートしてやったぜッ!! くらい前向きに考えなきゃダメなんですよ!」

「ふ、フライアウェイ? いや、別に俺だって、喜んでいなかったわけじゃ……」

「ぜんっぜん足りてないんです、せんぱいの場合。もっとがっつかなきゃダメです。いい意味で肉食になる必要があります。本ばかり読んでちゃダメです。だってあれ木でできてますし、あんなの摂取してばっかりだから草食なんです」

「全国の読書家を敵に回すような発言だぞ、それ」

「覚悟の上ですよ。せんぱいがやる気になってくれるなら」


 謎の使命感に満ちた謎の笑顔を見せつけられる。

 肉食だの草食だのというのは、昨今でも時折耳にする草食系男子とかそういう類いの話だろう。

 本ばかり読んでいるから草食というのはこじつけもいいところだが……まあ、言いたいことは分からないでもない。

 それに、これまでなんのアプローチもできていないことは厳然たる事実だ。こればっかりはなんと謗られようとも甘んじて受け入れるしかない。

 カレンの言うように、俺がもっと積極的ならよかっただけの話だが……そうできなかった理由が、俺の中にあるからじゃないかと、この頃は思うこともある。

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