かんゆうでんわがあらわれた!~『とは』のたった一人の戦い~

とは

第1話 電話を取るときはいつも一人

 それは日曜の昼下がりのことでございました。


 買い物から帰り、まったりしていると鳴り出す我が家の固定電話。


「もしもし?」

「もしもし、私NT〇の代理店の株式会社カタカーナの綾重あやしげと申します」


 大丈夫です。

 プライバシー保護の為、会社名と個人名は架空のものにしております。

 なんだかこういった会社は、カタカナの会社が多い気がするのは、自分だけでしょうか?

 ……まぁ本当のことを言ってしまえば、もう相手のお名前を忘れたからなんですけどね。

 ともかくも元気な男性の声が、私の耳に飛び込んできます。


『おやおや。N○Tと名乗られて、この人は騙されやしないか?』


 と心配してくださった優しい皆様。

 更に大丈夫です。

『目の前にバナナの皮があるのに踏む女』と呼ばれている私でも、さすがに気付いておりますよ。


 やれ「消防署の方から来た」とか、「やぁ! 俺は警察、弁護士だよ」と同じ系列なのだなと理解しております。

 平たくいえば『あやしいでんわ』。

 これですね。


「この度、お客様のインターネット回線について、お知らせすることがありお電話しております。ご家族でインターネットの管理をされている方ですか?」


 違います。

 少なくとも私ではございません。

 ついでにいえば、その管理をしている方に代わる気も一切ございませんね。


「……どういったご用件でした?」

「いえ、管理の方ですか?」

「ですから、どういったご用件でした?」

「あの、管理の方かと聞いています」


 この会話を数回つづけた後、怪しげ……。

 おっと、間違えました!

 綾重あやしげ様は言います。


「質問に質問で返すってどうなんですか?」


 ……はい?


「こちらが先に聞いていますよね? どうなんですか?」


 なんだか彼はお怒りのようです。

 いけません、そんなことで怒っていたらですね。


『人間が出来ていない』


 そう言われてもしかたがないですよ。

 全くしょうがないですね。

 そんな彼に怒りが沸いてきます。


 えぇ、私。人間が出来ていません。

 つられてこちらもキレます。

 負けじとおろしたてのカミソリ並みに、鋭いキレ具合を見せつけます。


「そちらが要件をおっしゃってくれれば、よろしいのではないですか?」

「管理の方としか、お話は出来ません!」


 ごくごく平凡な一家庭の管理者って、そんなに特別な存在なのでしょうか?


 正月で言うお年玉。

 あるいは誕生日ケーキのおめでとうプレート。

 またあるいは授業参観で、廊下から慈悲の笑みを浮かべ、生徒や保護者を見つめる校長先生。

 綾重様にとってはそれ位の特別なものかもしれません。

 ……まぁ、そんな特別なんぞ、私の知ったことではないですが。


 せめてこちらは、口調くらいは柔らかにしよう。

 心を落ち着けて再び話しかけます。


「申し訳ないですが、お繋ぎできません。どうぞ電話をお切り下さい」

「いいのですか? 本当に代わらなくていいのですか?」


 なぜか頭の中に、某3人組のベテランお笑い芸人様が現れます。

 熱い熱いお風呂の前でですね。


「いいか、押すなよ、絶対に押すなよ」


 と言っている場面が頭の中で巡ります。

 綾重様の苛立ちを隠さない声。

 それを聞きながら、熱湯って大変だっただろうなぁ、と至極どうでもいいことを私は考えます。


 おっといけない。

 このままでは「ヤー」という掛け声。

 あるいは「聞いてないよぉ〜」などと、怒りに震えているかもしれない綾重様に言ってしまうかもしれません。

 気を取り直し、私は口を開きます。


「結構ですのでお切り……」


 あ、途中なのに切られた。

 ツーツーと耳に響く冷たい電子音。


 相手に打ち勝ったという勝利感と、言葉を最後まで言わせてもらえなかった敗北感。

 同時に味わいながら受話器を置き、私は考えます。


 お仕事だから仕方なく電話しているというのもわかります。

 おそらくこちらに悪いなぁとちょっとくらいは。

 いや恐らくは、ミジンコレベルくらいには思っていたことでしょう。

 でもやっぱり勧誘電話って苦手だし怖いです。

 もっと丁寧にお断りしてたら良かったのかな?


「すみませーん。自分は頭が悪いので覚えきれないので録音しまーす。話の内容によっては消費者センターにお伝えしますね」


 とか言っていた方が良かったのかもしれません。


 こういった勧誘の電話は「特定商取引法」によって勧誘電話であることを相手に伝えないといけないそうです。

 なので曖昧に話を誤魔化そうとしたり、勧誘ではないと言ってきた場合は特定商取引法違反になるのだとか。

 あるいはしつこく繰り返しかかってきた場合、「迷惑です。やめてください」と伝えても続く場合は、こちらも法律違反になるようです。

 これらを伝えること、その際に録音をしておくことが大事なようですね。

 

 ですがこういった電話のお仕事。

 自分が経験していない業種なのに、語るのはどうなのだと言われたら確かにその通り。

 これを読んでくださった方にぜひ、掛ける側、あるいは自分の様に掛かってきた側の人のご意見を聞いてみたいです。

 出来ればその際の体験談を伺ってみたいですね。

 自分の知らない世界を知ってみたい。

 そんな好奇心を持ってこちらを書かせていただきました。


 いかがでしょう?

 何なら我が家にかけてきた綾重様。

 あるいは偽綾重様。

 私の世界観を広げてくださいませんか?

 心よりお待ちしております。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

かんゆうでんわがあらわれた!~『とは』のたった一人の戦い~ とは @toha108

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ