第4話

「暴動について、責任を感じてますか」


 記者の口調が、きつい。

 会場の照明が、まぶしい。


「そうね。これだけ品不足だと、大晦日は、赤いキツネにしようかしら。だって私は、うどんも大好き」


 このひと言で、暴動は、収まった。ひとつの事に集中出来なくなった民衆は、エネルギーの維持が出来なくなったのだ。


 しかし、以前から事務所に、言われていたセキュリティのしっかりしかマンションに移る事になった。


 迂闊な事を言って、暴動が起きた責任をとらされた形だ。


 今宵は、大晦日。


 抹也もこの部屋にいる。

 私に緑のタヌキを食べさせようとずいぶん粘っていたが、睡魔に負けたようだ。


 思い出す。


 最初に変身したのは、まだ小学生の時。私の家だった。両方の親が町内会の旅行で、留守にした時、抹也が、持ってきたカップ麺。二人でお昼ごはんを食べた時だ。


 赤いキツネと緑のタヌキ。


 ジャンケンで、負けた私が、キツネうどんを食べられず、悔しい思いで食べた緑のタヌキが美味しく、感動した時、それは起きた。


 短い髪は、長くサラサラに、日に焼け黒かった肌は、透けるように白く、あれた唇は、ツヤツヤと赤くなった。


 伏し目がちだった瞳が、まっすぐに抹也を見ると、驚いた彼は、魂を抜かれた様にボウッとしていた。

 理由は分からないが、赤いキツネを食べると元に戻った。


 翌日、抹也は、何故かその時の事を忘れてしまっていたようだ。


 今、目の前で、炬燵のテーブルに突っ伏して寝ている抹也を見ている。


 変身するシステムは、分からない。


 変身する理由なら分かる。


 私は、元々、大人しい女の子だ。フワリよりあん子が、本来の姿だ。


 でも私は…。

 つい、愚痴が、こぼれ落ちてしまう。


 この目の前で、ヨダレを垂らしながら寝ているバカちんと一緒に…いたかったのだ。


 だからバカちんが、野球をやると言えば、グローブを握った。

 サッカーをやると言えば、足を蹴られる事にも耐えた。


 男の子の様な見た目になっても気にしなかった。


 家業を継ぎ、医者になるつもりと、聞いた時から、苦手な勉強を必死でした。

 苦いコーヒーも、ラッシュの電車も、暑い日の野外コンサートも、雪で足元が濡れ、凍えそうな寒い日の受験だって何だってやってきた。


 いい加減気づいてよね。

 全部このバカちんと一緒にいたかったから、私は、頑張ってきたのだ。


 緑のタヌキは、無理をしている私を本来の姿に変身させて、癒してくれている。

 麺をすする音で、バカちんが、目をさましました。


「あれ、あん子ちゃんに変身したの?いや、少し違うかな」


 鏡の中の私は、あん子に、変わる途中で止まっていた。一人称を私にすると、こうなる事がある。


 背後から私を見ていたバカちんは、話始めた。


「昔、二人で食べた赤いキツネと緑のタヌキは、俺のお小遣いで買った。あの日の二日前、母さんが買ってきたものが、とても美味かった。こんな美味しいものなら、フワリにも食べさせたくなった。でも、俺のせいで、お前が、おかしくなったと思っていた。いつも責任を感じていた」


 除夜の鐘が、鳴る。

 抹也は、照れたように笑った。


「まさか、あん子ちゃんになっているとは、思わなかったけどね」


 本当に、面白いのだろう。

 右の眉が、笑っていた。

 

「俺はね、初詣でいつも願うんだ。楽しい事はお前と、嬉しい事もお前と、これまでも今からも、ずっと一緒にいたい。もちろん美味しい物を食べる時も。毎年神様に、そう願っている」


 その夜から、私は、あん子に、変われなくなった。


 アイドルの最中あん子は、電撃引退。


「いない人間は、どうしようもないな」


 マネージャーも困り顔だ。


 私は、あん子に変身する途中のまま。

 とても女の子らしくなった。


 可愛くなったフワリをアイドルとして売り出すかとマネージャーに打診されたが、私は、バカちんを選んだ。


 二年後、可愛い女の子が、生まれた。


「久しぶりね、母さん。やっと生まれたわ」


 驚いた事に、娘は、生まれてすぐに、話始めた。


 娘には、あんと名付けた。


       終わり(^^)v


  


 

 


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変身!緑のタヌキ。 @ramia294

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