第3話

 既に、このアパートの近くに車を停めているらしい。


「行こうか」


 僕は、抹也を促し立ち上がった。


「おや、抹也君。フワリを心配してきてくれていたのか」


 車の中から出て来た男の人は、マネージャーだ。


「記者会見だけだが、暴動は困る。分かるね」


 僕は、三笠ミカサフワリ。これでもれっきとした女の子だ。


 アルバイトで、アイドルをしている。僕の家は、抹也の家と違って、裕福ではない。医学部は、お金がかかる。アイドルのアルバイトは、稼げるのだ。


 一人称が、僕なのは、ある理由で、アイドルの時間とそれ以外を分けているからだ。

 ショートヘアーで、パンツスタイルの僕は、ボーイッシュというより、本当に男の子に見える。

 この事は、僕に都合よかった。


 近辺の暴動は、収まっていなかった。抹也をアパートに送る事は、無理だと判断して、記者会見の会場へ向かった。


「例の物お願い」


 マネージャーに頼む。


「抹也君がいるのに、良いのか?」


「だって第一目撃者だから」


 緑のタヌキが、二人分差し出された。今日は、車の中で食べるしかないようだ。


「抹也君もお腹がすいているだろ。ついでに作っておいたよ」


 この大型ワンボックスカーの後部座席で麺をすすった。


 食べるにつれ、変身していく。

 

 美味しいスープまで、飲みきると、私は、『最中あん子』に、完全に変わった。


 サラサラの長い髪に、憂いをたたえた伏し目がちな瞳。イタズラそうな赤い唇と白い肌。


 性格も少し変わる。


 どこから見ても、人気ナンバーワンのアイドルだ。


「どうなって…」


 抹也は、言葉が続かなかった。その様子を見て、マネージャーは私を見た。


「抹也君は、本当に見た事あったのか?」


「もちろん。初めての変身は、このバカちんの前だったわ」




 




 

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