時代試験を受けるならハッピー時代だけを狙え

ちびまるフォイ

どの時代が一番良くて悪い?

「それでは時代試験はじめ!」


筆記用具を持つと、休み時間に詰め込んだあらゆる知識を紙にぶつけようとする。

しかし問題を見た瞬間にたぎっていたやる気はしぼんでしまった。


「まっ……まっっったくわからん……!」


合格者の番号は掲示板に貼り出されるが結果は見るまでもなかった。

それでも見に行ってしまうのは自分でもわからない。


「やっぱりないよな……」


がっくりを肩を落としていると、同じ時代を受験した友達がやってきた。


「どうだった?」


「この顔を見てそれを聞けるんだな……。お前こそハッピー時代受かったのかよ」


「ああ、受かったよ」


「う、裏切りものーー!!」


「はっはっは。一足先に幸せになってくるぜ」


友達はハッピーな時代へと行ってしまった。


どうやら俺が生まれるよりも前には、今よりもいろんな制度がゆるゆるだったらしい。

なにをしても許されたし、たいして苦労することなくお金も入っていた。


毎日が何不自由ない暮らしを誰もがしていたことから、

当時をハッピー時代と呼んでいたらしい。


そのハッピー時代で暮らせるためのパスポート試験に今しがた落ちたので、指をくわえて妬ましく思うしかない。


不合格結果をひっさげ家に戻ると、まだ結果の知らない両親が待っていた。


「どうだった? 受かった!?」


「いや……」


「落ちたの!? 全部!?」


「全部じゃないよ……。すべりどめの現代時代と、原始時代、未来時代は受かった」


「ああ、そう。よかったわ。時代浪人なんてされたら世間にどう見られるか。

 で、もうどの時代にするかは決まったのよね?」


「どの時代って……」


手元に残った合格通知の時代先を見ても、どれも魅力に乏しい。


現代時代なんて窮屈な人生が待っているだけだし、

原始時代はハードすぎて初日で命を落としてしまいそう

未来時代にいたってはもはや何が待っているかもわからない。


「しいていうなら……未来時代かな……」


ハッピー時代とまではいかないまでも

せめてまだ先が見えない未来時代になら、いい暮らしが待っているかもしれない。


そんな淡い期待を抱いて未来時代へと進んだ結果、ひどく後悔した。


「なんだよこれ……文明終わってるじゃん……!」


空とぶ車が行き交う摩天楼を想像していたのに、

待っていたのは疲れ切った人たちが路上で横たわる地獄だった。


そのうえ、みんな同じ顔をしている。


「なんでこんなことに……」


「おや、あんた現代時代の人か。この時代に来るなんて物好きだね」


「こんな状態だと知ってたら現代時代を選んでたわ!」


「没個性主義さ。没個性コピー機でみんな同じ能力と顔になった。

 未来時代じゃ差別を捨てるために、発展や長所をあきらめたのさ。

 その結果がこれだよ」


「うそだろ……」


「あんたも他の人と同じ顔をしてないと逮捕されるよ。あっ」


すぐに飛んできた警備ドローンに検知されると、そのまま吊り上げられて刑務所に護送された。

牢屋に放り込まれると涙しかでなかった。


「なんでこんな目に……。たかが1回の試験で……それもまだ人生の半分も生きてないのに……」


まだこの先の人生設計も建てられないうちに時代試験を受けさせられ。

その結果、時代の選択肢が決まってしまうなんておかしい。


すると、隣の牢獄からコツコツと壁を叩く音がする。


「誰だよ! 人が泣いてるときくらい静かにしてくれ!」


「まあ聞けよ。あんたもしかして、別の時代から来た人?」


「ああそうだよ! だからこんなに落ち込んでるんだ!」


「私と協力してこの未来を変えてみないか?」

「え?」


男は、この没個性の未来時代においても時代を変えようと

自分の知識を高めてより良い世界になるように努力したらしい。


その結果に「常識破壊罪」として投獄されたのだという。


「この未来時代には顔や才能をコピーすることができる。

 それで私の能力を君にコピーする。

 そして、君はその能力で時代試験を受けてほしい」


「はあ? なんでまたそんなことを……」


「私の知識さえあれば時代試験なんてすぐにパスできる。

 未来時代で世界を変えるのはもう難しい。

 だから君に過去へ行って未来を変えてきてほしいんだ」


「そんなこと俺に頼まずに自分で行けばいいだろ!」


「私はこの牢獄から出ることはもうない。だから君にしか頼めないんだ」


「……わかったよ」


「それじゃコピーするよ」


牢獄から最大限手を伸ばしてお互いの手のひらを合わせた。

未来時代の人間の体に埋め込まれているナノマシンが肌を通過して体に入ってきた。

顔や脳が内側から形を変えられていく。


「これで君は私と同じになった。

 この時代ではまだ時代試験を受けてないだろう?

 まだ時代試験を受けることができるはずだ。頑張ってきてくれ」


「ああ、きっとこの未来を良くしてみせる」


自分が顔を没個性顔をコピーしたことであっという間に外に出られた。

その足で時代試験の会場へと向かった。



「それでは時代試験はじめ!」



紙をひっくり返して問題をにらみつけた。


「わ、わかる……! こんな簡単だったか……!?」


問題を見た瞬間に頭の中で答えが浮かんできてしまうほどたやすい。

自分に知恵をコピーしたあの人は本当に頭が良かったのだと実感した。


この時代においては悪だとされている高い知恵も、

時代を選べるこの試験においてはこれほどない武器になった。


「それまで! 全員ペンを置いてください!」


数時間後に合格通知が全員の網膜に届けられた。

結果は見るまでもなかった。


「はは……やった! 合格! どの時代も合格だ!!」


最難関と言われるハッピー時代にすららくらく合格していた。

もはや自分が選べない時代などなかった。


現代時代に戻ってこの未来を変えることもできるが……。


「ハッピー時代にいくしかない!!」


選んだのは現代時代よりもさらに前のハッピー時代。

未来時代の知恵と、現代時代の経験を持ってすれば、さらに過去のハッピー時代をさらに充実させられると思った。


ハッピー時代に到着すると街の浮かれ具合に心が高鳴った。


「すげぇ! これがハッピー時代か!」


空にはネオンが輝き、誰もが酒を飲んでふざけている。

現代時代ではとても許されないようなことも、この時代では無礼講。

まさに無法地帯だった。


「よっしゃーー! この時代を満喫するぞーー!!」


コピーされた高知能の未来人の知識をフル活用。

ハッピー時代では大成功を収めて大富豪の仲間入り。


あんな未来にならないようにと、

ハッピー時代を長く続けるために金と権力でもって世界を改革していった。


「みんな毎日好きなだけ遊べる法を制定だ!

 人間はハッピーに生きなくちゃいけない!!」


俺をリーダーとするハッピー推進活動はいつしか宗教となって世界に浸透した。

みんな辛い思いをすることなく、楽しいことだけをする最高の世界。


ハッピー時代は、俺が来る前よりもずっとハッピーになった。



そんな幸せの絶頂のさなかだった。


「〇〇さんですね。時代試験の不正容疑がかかっています」


「え゛っ……」


やってきたのは時代警察だった。

すでに証拠も揃えているらしく言い逃れはできない状況だった。


「待ってくれ! 俺はもっとこの時代をハッピーにしなくちゃいけないんだ!」


「この時代はもう十分にハッピーですよ。さあ未来に帰りましょう」


「嫌だ! 未来時代には戻りたくない! あんな地獄なんて戻らないぞ!」


「暴れるな! このっ!」


警棒でぶっ叩かれて冷静さを取り戻す。

ふと考えてみると未来も悪くないのではと思った。


「待てよ……これだけハッピー活動を進めているんだから、

 未来もすでにハッピー時代の延長線になっているに違いない」


「なにを一人でぶつぶつ言っているんだ」


「未来に戻るなんて平気だよ。さぁ未来時代に戻してくれ! はっはっは!」


「急に素直になったな。なんだか不気味だがまあいい。さあ行くぞ」


きっと今頃、自分に知恵を与えてくれた人もハッピーに暮らしているだろう。

未来に戻ったことで過去の英雄として祭り上げられるかもしれない。


「ふふふ……なんてハッピーな世界が待っているんだろう!」


そう思うと胸がワクワクしてきた。




「ついたぞ。未来時代だ」


時代護送車から下ろされると、そこは見覚えのある未来だった。

ハッピーなんてどこにもなかった。


「なんで……あれだけハッピーが浸透するように頑張ったのに……!」


すると、自分の顔を見た通行人がいきなり掴みかかってきた。


「てめえ!! 許さないぞ!!」


「えええ!? なに!? なんですか!?」


「その顔忘れてないぞ!! よくも未来をこんなにしやがったな!!」


「人違いですよ! 俺はまだなにもしてませんって!」


自分の言葉は聞いてもらえず返答は顔面へのパンチだけだった。

他の通行人も俺の顔を見るなり怒りの顔へと切り替わってリンチに加わる。


「俺がいったい何をしたっていうんですか!?」


ボコボコに殴られながらも必死に抵抗したとき、通行人のひとりが叫んだ。



「お前が過去にハッピーだなんだと遊びほうけたせいだ!!

 お前のせいで未来はダメになってしまったんだーー!!」

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