第94話 エピローグ②

 次に訪れたのは、中級冒険者ギルドだ。


「エッセンさん!」


 ぴょんと跳ねてから小走りで駆け寄ってきたのは、エルルさんだ。ひらひらと揺れる受付嬢の制服が眩しい。


「エルルさん、今回は……いや、今回も本当に助かりました。ありがとうございました」


 誇張抜きで、命の恩人である。なんなら迷宮都市の救世主と言っても過言ではない。


「はい。どういたしまして」


 エルルさんは、にっこりと目を細めた。

 その反応に、思わずきょとんとしてしまう。


「……? どうかしましたか?」

「あ、いえ。てっきりいつもみたいに、受付嬢の仕事ですからって言われるのかと」

「ふふっ、受付嬢としてやったわけではないですもん。ちょっぴり怒られちゃいましたし……。エッセンさんのために頑張ったので、お礼は素直に受け取ります」


 なんでも、受付嬢の仕事を放棄して動いてくれたらしい。

 申し訳ないと同時に、エルルさんが個人的に助けてくれたのだと知り、嬉しくも思う。


「ふん、貴様が助かったのは俺のおかげでもある。忘れられては困るな」

「悪い、ありがとう」


 キースが相変わらず憎まれ口を叩きながら会話に混ざった。


「ふんっ。無事ならいい」

「一周回ってめっちゃ素直じゃないか……?」


 キースもかなりの激闘だったらしいが、それを言うのは野暮というものだろう。


 男同士、余計な言葉はいらない。

 拳を打ち付け合って、互いの健闘を讃えた。


「それより、二人ともここにいるってことは……」

「そうです! ついに中級商人になれました!」


 エルルさんが嬉しそうに言った。

 しかし、すぐに表情を曇らせる。


「でも、エッセンさんはもう上級ですもんね……。いつになったら追いつけるんでしょう。私のサポートなんて、もう必要ないですか?」

「エルルさん、そんなキャラでしたっけ?」

「もう! ずっとエッセンさんのこと心配してたんですから、このくらい言わせてください! 戦いが終わってからも、全然会いに来てくれないし」

「まじでごめんなさい」


 いや、ずっと取り調べで忙しくて……というのは言い訳にしかならないので、素直に謝る。

 相当心配かけてしまったらしい。エルルさんの大人の余裕は鳴りを潜め、素のエルルさんが出ている。


「エルルさんのサポートは、ずっと受けたいくらいですよ」

「えっ、それって……」


 エルルさんが顔を赤くする。

 いや、特に深い意味はなかったんだけど……どう言うべきか、言葉を詰まらせる。


「ごほん」


 キースの咳払いで、俺もエルルさんも冷静に戻る。


「俺はすぐに追い抜く。せいぜい、今の地位を味わっておくんだな。どうせ短い栄誉だ」

「負けねえよ」


 今回、俺が10位という高いランキングまで上がれたのは、たまたまだ。一気に貢献度を稼いだから、一時的に上がっているのに過ぎない。

 今後この順位を維持するには、今まで以上に頑張らないといけないだろう。

 キースもすぐに上がってくる。他にも、強い冒険者はたくさんいる。

 これは、うかうかしていられないな。


「ああ、そういえばあいつも呼んでおいたぞ」

「あいつ?」


 キースの言葉に首を傾げる。

 その何某の正体は、すぐに判明した。


「エッセンーー! 新しいスキル見せてー!」


 声だけでわかる。なんなら、近づいてくる変人オーラだけでわかる。


「リュウカ……」

「ねえ聞いたよ? ついに全身魔物モードになれるようになったんだって!? え~、魔物になって私になにをするつもりなの~! お姉さんに教えてみてよ!」

「なにもしねえよ……」

「なにもしないの!?」


 いつにも増してテンションが高い。


 おかしいな……。

 俺の裁判に乱入した時は、あんなにかっこよくて美人だったのに。

 見直した自分が愚かだった……。


「俺はそろそろ失礼する」

「おいキース、置いてくな」

「いや、邪魔しては悪いのでな」

「邪魔じゃない! 邪魔じゃないから!」


 引き留めたのに、キースがそそくさと行ってしまった。

 酷い、男の友情はいったいどこへ。


「お願い! 一回だけでいいから見せて!」

「絶対一回じゃ終わらないだろ!」

「えー、じゃあ新しいスキルに合わせて装備作らなくてもいいの? 今回もボロボロだったよね~」

「……“魔王の鎧”」

「ふぉおおおおおおおお」


 いくら鎧を出せるとはいえ、装備がいらないわけではない。

 そして例の如く、スキルのせいで装備が穴だらけになる。スキルに合わせた調整は必須だ。


「なにこの鎧! 硬いけど弾力があって、まるで硬質の筋肉……。それに尻尾が二本に増えてる! ねえねえ、ちょっとちぎってもいい?」

「怖い言い方するなよ……」

「先っちょだけだから!」

「変な言い方すんなよ!?」


 やだこの職人、怖い。


 どうにかして逃げたいんだけど、いつの間にエルルさんもいなくなってる。

 裁判の時と同じだ。俺の味方、ゼロ人。


「白昼の往来でなにをしているのよ……」

「やっぱ俺の味方はポラリスだけだよ!」

「こんなことで実感されても嬉しくないわね」


 ポラリスがリュウカを引きはがしてくれる。


「そこまでよ」

「え~。また今度工房来てよ? 絶対だよ? それまでは妄想で我慢するから!」


 リュウカはギャーギャー騒ぎながら、ポラリスによって連行されていった。

 最後の一言のせいで行きたくなくなったな……。


 でも彼女には、技神教会の上級神官として助けにきてくれた借りがある。聞くところによると、あれのためにかなり無理してくれたらしい。

 そもそも、リュウカ自身ああいう性格だから、上級神官としての職務はほとんどやっていないらしいから。それでも神官位を維持できるあたり、技神教会は実力重視なのかもしれない。職人気質な人ばかりみたいだし。


「やっと静かになったわね」


 ポラリスが戻ってきた。


「そうだな。疲れたよ」

「あら、じゃあ今日は戦えない?」

「まさか」

「なら大丈夫ね。さっそくダンジョンに行くわよ」

「当然。俺もそのつもりだった」


 休みすぎて、身体が鈍っていないか心配だ。

 だが、気持ちとしてはうきうきして仕方がない。


 だって、ついにポラリスと一緒にダンジョン攻略ができるんだから。


「なあ、これからは俺と一緒に戦ってくれるか? かなり待たせたし、まだまだ実力も経験も、ポラリスのほうが上だけど……ようやく、隣に立てるくらいにはなれたと思うんだ」

「もちろんよ」


 ポラリスが即答してくれる。

 めちゃくちゃ嬉しい。ようやく、一つの目標が叶ったんだ。


 冒険者の最上位で二人、肩を並べて戦う。夢にまで見た光景だ。一時期は夢に描くことすら烏滸がましかった目標だ。


 でもまだ、上がいる。一番上に行くまで、俺とポラリスは止まらない。


「あ、ダンジョンに行く前に、ランキングの確認をしようぜ」


 ポラリスの手を引いて、ランキングボードの前に立つ。


 俺の名前を探すのに、以前のような時間はかからない。上から順に見て行けば、すぐに見つかる。


『6位 【氷姫】ポラリス』

『10位 【魔神殺し】エッセン』


 二人分の名前が、たしかに上位にある。


「よし、俺が1位でポラリスが2位になるまで頑張ろう」

「ええ。1位は私がいただくけれどね」


 まだまだ先があるのに、しんみりした空気は似合わない。

 軽口を叩きながら、二人でダンジョンに向かう。


 ポラリスとなら、どこまでだって行ける気がした。


 目指せ、冒険者ランキング1位!




*****

作者コメント


第二部、完結です!

お読みいただきありがとうございました!!


魔物を喰って魔物に変身したらカッコよくね??から始まったこの物語ですが、いよいよ主人公が人間ではなくなってきましたね……。


でもカッコよくてエモいファンタジーが書けたので、満足です!

続きの物語も考えているので、書けたら書きます!


書籍も発売中ですので、よければ表紙だけでも見ていってください。

とよた瑣織先生の超カッコいいイラストが見れますよ。

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魔物喰らい〜ランキング最下位の冒険者は魔物の力で最強へ〜【カクヨムコン7特別賞】 緒二葉 ガガガ文庫ママ友と育てるラブコメ @hojo

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