第2話

俺こと、南山真琴は、普通の人間である。

だって、いきなり異世界に飛ばされたり、神様? とかあって都合のよい力、所謂チート能力? を与えられたりもしないし? そんな当たり前の日常を過ごしていたりする。いつものように起きて、いつものように学校の支度をして、制服に着替えて、いつもの時間に出かける、そんな当たり前な日常、そんな毎日である。でも、今日の俺はいつもと少し違っていた、何故かというと……昨日の放課後の音楽室で、同じクラスの汐崎美咲に「好きです、彼女にして下さい」と告白されたからだ。普通の男なら「はい、よろこんで」とか「よろしくお願いします」とか言うだろう……何せ汐崎美咲には、ファンクラブまである大人気の女子らしいし? そんな汐崎美咲に告白された俺はと言うと、そんな告白を聞いて逃げ帰ったのだ。

まあ、何故かと言われると、まず俺は男じゃないし、俺とか自分とか言っているが、正真正銘の花の高校の女子高生だったりする訳で、自分で花の女子高生とか、何言ってるんだ?って言う突っ込みは勘弁してもらいたい。それに彼女と付き合ったら、どうなるか予想出来たからだった。

そんな訳で逃げ帰った訳だが、実際にこの問題は全く解決していないと言ってもいいだろう。

まず……彼女に会ったら何て言えば言いのか……それさえも分からないままだからだ。

そんな考えをぶつぶつ考えながら歩いていて、気がついた時には俺の通っている高校。山野辺高校に辿り着いていた。学校に辿り着いたので、昇降口に向かい、自分の靴箱を開ける。

中には昨日の帰りに入れたと同じく上履きが入っているだけで、昨日は手紙が一枚入っていたけど、今は入って無かったので、とりあえずほっと安心して、上履きに履き替えて自分のクラスへと向かった。クラスの中に入ると、もう既に汐崎美咲は席に着いていて、仲のよい女友達と楽しそうに話しているのを見かけた。それを羨むように、数人の男子生徒が彼女を見ていたりもしている。もしかしてこいつらって、美咲ファンクラブのMKFCのメンバーかも知れないな……と俺は、思ってしまった。俺が席についても、汐崎美咲は、とりあえず何も言って来ないみたいなので、俺は安心する事にした、席に座って教科書を机に入れる作業をしていると、俺に話しかけて来る者がいた。


「おはよー、まこー」


「おはよう」


俺に話しかけてきたのは、同じクラスで席も近く、中学の頃からいつも一緒にいる親友の、栗谷美玲だった。美玲は俺の事を真琴から、まこと呼んでいいとか言っていないのに、勝手に呼んでいたりする。この美玲は、俺と違い、栗色の髪をしていて、普通に考えて、美少女なので、もてるんじゃ……って思うのだが、美玲から、彼氏が出来たとか、聞いた事がないので、今でもフリー何だと思われる。そういえば、美玲が、まこって言ってきたのって……何年前だっけな……と思ったが、まったく、思い出せなかった。


「まこ、どうしたの? なんかあった?」


そう言って美玲は、俺の顔を心配そうに見つめて来る。うん、意外に鋭いな美玲……

確かに何かはあったんだよ、昨日な? 俺がびっくりする出来事がな? それを言っていいのだろうか? なんか……美玲に言っても解決しそうにないなと思って、俺はあえて誤魔化す事にした。


「いや、何も……ふつーだよ」


「そう? そうは見えないんだけどな? まこ、悩みがあったら、ど~んと私に頼っていいよ? すぐにぱぱっと解決してあげるよ?」


そう美玲は笑顔で言ってきた、うん、あきらかに作り笑いだと言う事が解る。そう言えば前にこいつに相談した時も同じ事を言って、最後に結局「ごめん、やっぱ無理、なはは」とか言っていたな? よし、こいつに相談するのはやめる事に決めた俺だった。そう話していると、汐崎美咲とその女友達の会話が聞こえてきた。


「ねえ、実はね? 私」


「うん、何?」


「好きな人が出来たんだ」


「え、ほんと!?」


「うん、でね? その人に昨日呼び出して、思い切って告白したの」


「凄いじゃん、じゃあ告白は成功したの?」


「ううん、返事聞く前に逃げられちゃった、私、どうしたらいいかなあ……」


そう俺に聞こえるように言ってきた。何これ!?新手の苛めですか!?俺にも聞こえるもんだからそれを聞いた男子生徒が「誰だ、美咲様の告白をぶっちした野郎は!」とか「許さねえ!俺だったら即OKするのに!」とか聞こえるし!なんで、俺に聞こえる風に言うかな!?普通!


「その人の事、あきらめてないんでしょ?」


「うん、私、本気なんだ」


「じゃあ、諦めないで、ガンガンアタックしてみたら?きっと効果あると思うわよ?」


「そう? じゃあ、そうしてみるね?」


おい!何煽ってるんですか!? ガンガンアタックしてとか……何言っちゃってるの!?

俺は本当に困ってしまっていた、そんな顔を見てか美玲が


「大丈夫? なんか気分悪い?まこ?」


「い、いや……何とか大丈夫……」


俺は親友に悟られないように作り笑顔でそう返していた。ほんとどうしたらいいんだ?

なんで、俺のふつ~の日常がこんな、非日常になってしまったんだ……

神様、俺、何か悪い事しましたか……? そう思っているとキーンコーンとチャインが鳴り、先生がやって来たので、いつものように授業が始まった。俺は、本当にこう思っていた、マジでどうしたらいいんだと……そして、授業が終わり、放課後。

帰る用意をしていると、俺の親友の栗谷美玲が、俺に話しかけて来たのであった。


「まこ~、ちょっとお願いがあるんだけど?」


「何?」


俺がそう言うと、美玲はこう言ってきた。


「明日、暇かな? まこ?」


明日? 明日は確か……学校が無い日。まあ普通に休みだから、一日中ごろごろとしていられる事だって出来る。まあ……ぶっちゃけて言うと、何も予定は入っていない。


「まあ、暇な事は暇だけど」


「よかった、じゃあね……明日、私に付き合ってくれる?」


はい? 何ですと……付き合う? その言葉を聞いて、俺はちょっと考えてしまった。なんせ、昨日同じ事を汐崎美咲に言われたからである。まあ、あっちはかなり強引な感じだったけど……俺は、とりあえずなんでかを聞くことにした。


「え~と、付き合うって……」


「あのね? 明日、一緒に行って欲しい所があるんだ、まこ~いいでしょ?」


明日行って欲しい所ね……さて、どうするか? 確かに俺は、明日の予定はまるで入れてないし、暇と言われれば暇なんだが……一体何の用なんだ? と俺は思ったので、聞いてみる事にした。


「行って欲しい所って?」


「実はね? 明日、私の働いているお店で、イベントをやる事になったんだ、だから、まこを誘おうと思ってね? 駄目?」


駄目と言われてもな……イベントねえ……俺はどうしようか、迷ってはいたが、まあどんなイベントか気にはなったし、結局、引き受ける事にした。


「わかった、自分はOKだよ」


「ありがとうーじゃあ明日の八時、駅前に集合ね? じゃあね? まこ」


そう言って、美玲は教室から出て行った。さて……俺も帰るかと、席を立つと背筋がぞくっとした、それは何故かと言うと……まだ帰ってなかったのか、俺を睨むように見ていたのは、汐崎美咲だった。その目はまるで、親の仇を見るような眼にも見えて、ちょっとというか……かなり怖かった。何で睨まれなきゃいけないんだ?と俺は思ったが、話しかけられるとなんか嫌なので、俺はそそくさと教室から出て行って、家路に着く事にしたのである。


そして……次の日になり、学校が休みの日、俺は出来る限りの軽装で外に出る事にした。

時刻は八時になっていなく、家から駅まで数分なので、予定時刻には十分間に合った。

駅前にたどり着くと、もう既に美玲がやって来ていて、俺に向かってこう言ってきた。


「よかった~来ないかと思ったよーまこー」


「いや、約束は守るよ、来るって言ったし」


「そうだよね? さすがまこだよね?」

さすがって何だ? まあ、気にしないでおこう……


「で、一体何所に行くの?」


「あ、言ってなかったっけ?」


言ってない、何所に行くか全くと言っていいほど、言ってないぞ?


「えっとね? ここから電車に乗って、ある場所に行くんだ、だからついてきて?」


「電車に乗るとか聞いてないんだけど、結構遠いの?」


「いや、そんなには遠くないよ? ここから3駅ぐらいだし」


「そう」


「じゃあ、行きましょう」


そう言って、美玲は切符を買って改札に向かった。俺も美玲と同じく切符を買って改札に向かう。そして電車に乗り、たどり着いた場所はと言うと……


「ここって、秋葉だよね?」


「そうだよ~」


たどり着いた場所は、オタクやマニアが集まったり、大手電器街が立ち並ぶ、言わずと知れた秋葉であった。ここに来たと言う事は……イベントってもしかして……


「ねえ、限定イベントって……」


「うん、天空カイザーの限定コスプレイベントだよ」


やっぱり!そう言う事だろーと思ったよ、しかし天空カイザー? 何だそれ?って感じなんだが?


「もしかして嫌だった? まこ?」


「いや、嫌というか……まあ、せっかく来たんだし、最後まで付き合うよ」


「ありがとう、さすがまこーー」


そう言って人前だと言うのに思いっきり抱きついてきやがった。恥ずかしくないのか? こいつは……と、俺は思ってしまった。


「じゃあ、その会場に行きましょう」


美玲はすたすたと慣れているのか、目的地に進んで行ったようである。俺は、その後ろを無言でついて行くことにしたのであった。それにしても……天空カイザーね……一体何のコスプレをさせられるんだ? と、そう思ってしまった。出来ればまともなのがいいな……とも、思っていた。こうして、俺は美玲に連れられて、天空カイザーのコスプレをやるお店にたどり着く。


「まこ~、このお店でやるんだよ」


「このお店?」


そのお店は、店の名前は「ラブ喫茶、アイライク」と書かれている。内装も、結構おしゃれな感じの店ではなく、全体にピンク色の壁が、見えていた。うっわ~まともな人物が入るような店じゃないよな……だって、店はデコレーションで飾ってあるし、店内を覗いてみたら、男ばっかりだし、店員の恰好もメイド服っぽい衣装を着ているしな……絶対に普通の店じゃ無いだろ……少なくとも俺は、そう思っていた。


「じゃあ、早速入りましょう」


「あ、ああ」


そう言って、中に入ると、店員がこう言ってきた。


「いらっしゃいませ、お嬢様方」


「やっほー来たよ?」


「あ、れいれいーー待ってたわよ」


「うん、じゃあ、早速準備するわね」


「OK、じゃあこっちよ」


「うん、じゃあまこ? 行こうか?」


「う、うん」


何だ? 美玲はこの店でれいれいと呼ばれてるのか? 何故だ?しかも、なんか店員と仲がいいみたいだし……うん、謎だ、こいつ普段、何やってるんだ?控室に案内されて、俺は美玲に疑問に思った事を聞く事にした。


「ねえ、美玲?」


「なに? まこ」


「美玲ってさ? この店でれいれいと呼ばれてるの?」


「うん、そうだよ? だって、この店でバイトしてるからね?」


「そっか……」

なんか納得した。だからこの店の店員と仲が良かったのか……ところで……


「で……結局、自分は何を着れば……?」


「あ、そうだった、これ着てみて?」


そう言って渡されたのが、上下黒っぽい服だった、あきらかに男物だとは思う。


「これ、着るの……?」


「うん、絶対に似合うと思うんだ!」


美玲が、かなりの勢いで言ってきた。そこまで言われちゃ嫌だとは言えないよな……

俺は、結局しぶしぶ着る事にした、そして数分後。控室に用意してある鏡に映っていたのは、黒っぽい服を上下着た姿が映っている。

うん、自分で言うのもなんだけど、なかなか似合っているとは思うんだが……


「きゃー!まこ~似合う!ほんと、レキそっくり!」


レキ? 誰だそりゃ……と、俺は思ってしまった。


「レキって……?」


「天空カイザーの仲間のクールな美形キャラのレキって言うの、髪型もまこそっくりだし、レキのコスしたら、似合うんじゃないかな……とか思ったけど、ほんと似合ってる!」

なんかえらいはしゃいでるな美玲……ちなみに美玲は、白っぽい服に着替えていて、コスしているキャラは一応、天空カイザーに出てくるヒロイン。アカリと言うキャラになりきっていた。


「じゃあ、早速、撮影会しちゃいましょう!」

そう言って、俺の手をとって、控室から出ていく。控室の外に出ると、待ち構えていたのは、さっきまでいた男どもではなく、いつの間にか女の子で溢れていた。そして、マイクを持った店員らしき人がこう言う。


「は~い、今日は特別企画、天空カイザーコスプレ会で~す、皆さん、楽しんでってくださいね?」


「は~い!!」

と、その場にいた女の子の殆どが、そんな声をあげていた、うん。なんか凄いキラキラしてる目で見てるな、この女の子達……そして、パシャパシャと撮影会らしき物が始まった。お店の客、ほとんど女子が、携帯のカメラやら、普通のインスタントカメラとか持って、俺と美玲。そして天空カイザーのキャラに扮装したこの店の店員を撮っている。特に俺に向かって、写真を撮っていた女の子はと言うと「かっこいいです」やら「本物そっくりです!素敵~!」やら「付き合ってる人いるんですか? いないなら私と……」とか言って来た。

さすがに困った。そう言う女の子には、ただ愛想笑いを浮かべていたけど、問題はないと思う、多分……そして、無事? に撮影会が終わって、普通の服装に着替えて、家路に帰る事にした。

帰り際に、美玲がこう言ってきた。


「今日はありがとね? まこ、すっごく似合ってたよ?ほら、私、携帯の待ち受け画像にしちゃったし?」


「な、なんで?」


「だって、本当に良い画像なんだもん~、これでご飯は三倍はいけるかも?」

何を言っているんだ? こいつは……俺は、そう思った。


「今日は、本当に楽しかった、また誘っていい?」


俺は、そう言ってきた美玲にどう答えようか迷ったが、こう答えた。


「普通の場所なら付き合うよ……」


「普通って? たとえば?」


「普通に買い物とか、映画とかかと……」


「それじゃあ、付き合ってるカップルみたいじゃない、ま、私は、それでもいいけどね?」

しまった、墓穴を掘ってしまったみたいである。じゃあなんて言えばよかったんだ?


「じゃあ、また学校でね? じゃあね? まこ」

そう言って、美玲は俺の傍から去って行った。

こうして、俺のいつもとは違う、休日が終わったのだった。

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