第3話「往路」の補足

※【特殊な金属糸】について


 ミスリル合金。だったらそう書きなよ、と叱られそうではある。昔々TRPGでミスリルについて、適当なことをほざいたら、ガチ目の人に蘊蓄を並べられて辟易した経験を元に、なんとなく濁したというものに過ぎない。


※【車箱(くるまばこ)】について


 車の上に造作された居住空間のこと。ジェフリーの幌馬車に付属している牽引車に設置されている車箱は野外トイレだが、単なる無臭便槽が組み込まれているというものではない。北海道旭川市に本社を構える会社が開発したバイオトイレのような仕組みが組み込まれている。

 バイオトイレは槍・穂高連峰の展望台で採用され設置・運用されている。着想にとどまらず製品として実装され、実地で性能が確認された優れものである。製品概要を見る限り運用経費も安い。無電源タイプ(人力)も販売されている。機械文明のレベルがそれほど高くないサルベージャーズの世界に打って付けではないだろうか?


 バイオトイレの処理工程は、屎尿を大量のおがくずに混ぜ込み、発酵加熱させ、水分を飛ばし、腸内菌や野外の微生物で固形成分を分解する、というものになっている。残滓は窒素、リン酸、カリウムなど含む肥料になるという優れたエコシステムになっている。使用後にクランクなどで攪拌機構を稼働させねばならないが、お腹をスッキリさせた後、いい汗かけるなら健康も増進するというもの。

 消耗品としておがくずを定期的に交換することになるが、林業や木材加工業が盛んな地域であれば、おがくずの調達費用は恐ろしく安い。そもそも二次利用に頭を悩ます産業廃棄物から良質な肥料が生成される。一石三鳥と言えるだろう。


 このサルベージャーズの舞台は、南部辺境の開拓地で森林資源が使いたい放題な土地だ。このバイオトイレのような厠が冒険者組合も含めて開拓地の全戸に普及しているとしても無理はないとは思う。畜舎や厩舎の糞尿処理には大型なモノが利用されている。なお大型の屎尿処理装置は動力源として水車を利用するので、魔力不要というところに魅力を感じていただける筈。バイオトイレは、水源汚染を防ぐだけではなく、開拓地の衛生環境を向上維持させている。実際の性能は、おがくずのキメの細かさや使用する量に大きく依存していることは想像にかたくない。


 結局のところ臭いものは臭いのである。杉の葉でも混ぜ込むか……とは思う。


 念のため、排便後は使い捨て『籌木』を使わせるか浅草紙のような漉き返し紙を使わせるのかあるいは植物の葉(フキの葉やクズの葉など)にするのか結構悩んだことを書き残しておきたい。何を使うにしても植物性ということもあり使用後は便器の中へ捨てておがくずと一緒に処理してしまえば済むだろうということで悩むまでもなかった。


※【回転音】について


 蓄積槽のなかでおがくずと屎尿が混じり合う様子が想像できるだろう。質の良い肥料へと作り替えられている臨場感があるのだが、この描写も解説も不要どころか人によっては不快極まりない。

 

※【籌木(ちゅうぎ)】について


 くそべら。ここまできたら書くしかない。屎尿処理にこだわるのであれば、排便後の問題点にも触れねばなるまい。お尻を如何に清潔に保つのか、という深刻な問題を魔法でぱっと解決、とても綺麗になりますというのは避けたいのだが、自分で設定した内容を思い出せば、この世界程度の差こそあれほとんどの人が魔力を使用することができる。『生活魔法』※の術式であっさり綺麗になるとしても良いかもしれない。そういえば森林資源も水も使いたい放題の辺境の町である。紙は作りたい放題という設定でも良いのかもしれない。

 とりあえず日本の事例を見てみよう。平安の時代に描かれた飢餓草紙の食糞餓鬼図を引用するなら籌木が使われている。紙も落ちているようなので、紙も使われていたとは驚きである。

 江戸時代の厠事情は北斎漫画や諸国道中金の草鞋などをご覧いただければ当時の臨場感とともに理解が深まると思う。

 江戸末期まで日本の所々では籌木が使用されていたようではあるが、江戸時代には浅草紙(漉き返し紙)という再生紙が一般庶民の間でも使用されるようになっていた。

 農村部では藁とか葉かと木片などが利用可能な素材にことかかなかったであろう。再生紙は、都市化により居住者たちが安易にを調達できないという必要性に迫られた結果、作り出されたモノかもしれない。

 結論。籌木は調べると面白いが、歴史的な事実は事実としてこの御伽噺では採用しない。尻は紙でを拭くという設定の方が無難だろう。因みにヨーロッパのお貴族様は羊毛やらレースやら麻織物の布切れを使用していたとのこと。再利用してなかったよな……。


※【生活魔法】について


 なろう的には銀の弾丸。なろうに限らず、異世界モノのテンプレ。身の回りの細々としたあれやこれは呪文一つで解決できる。これにマジックバック(完全自立猫型自動人形の四次元衣嚢のような便利グッズ)があれば万事解決。



――――――――――――――――――――


迷宮遭難救助隊の本編の 第3話 往路 に戻ります。


https://kakuyomu.jp/works/16816700429103720529/episodes/16816700429127002662

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る