外伝2−2.名前はもう決めているの
意識が遠ざかるように眠った私は、そのまま我が子を離さなかったらしい。取り上げるのを諦めて、寝かせておいてくれた。目が覚めると腕が痺れていて、その重さに笑みが溢れる。
「随分と良く眠っていたね。抱き上げようとしたけど、ルナが離さなかったんだ」
そう笑う夫に、まだ首が据わらない娘を託した。意外なことに、カスト様は赤子の扱いに慣れているみたい。すっと首を支えて抱き上げ、用意されたベビーベッドへ横たえた。このベッドは、カスト様のお義父様にいただいたの。
ピザーヌ伯爵家のお義父様よ。カスト様はロレッツィ侯爵家に養子入りしたから、そちらのお義父様もいる。プレゼントの話を聞いて、出遅れたと悔しそうにしておられたけど……次の日にはベビーメリーを下さったわ。
生まれて男女の区別をつけないと、服や装飾品のプレゼントは難しいから。まだ用意したものは少ない。小さな体を包む白いベビー服はお母様のお手製よ。お父様は乳母の手配をしてくださったし。
何も足りない物がないわ。お母様は産後に着用する服も、私のために用意してくれたと聞いています。自ら授乳して育てたいと申し出たので、そのせいかしら。
「名前は決まりましたか?」
「いいや。君がいないのに決めるわけないだろう? 候補が出尽くしたところで会議終了だ。ちなみに候補は45個もあるから、絞るのに骨が折れそうさ」
「まぁ! そんなに?」
見せていただいた候補はどれも素敵な名前だけれど、実はもう選んでいるの。ルーナアリア――可愛い女の子が産まれたら、つけたい名前よ。前王妃のリーディア様が呟いたことがあった。いつか私が姫を産んだら、その名前を頂こうと考えていたの。
偶然にも今回の45個の候補の中に含まれていて、私は何くわぬ顔でその名前を口にした。
「ルーナアリア、可愛いわね。この子に似合うわ」
「いいと思うよ、僕らの娘はルーナアリアに決まりだ」
カスト様は頷き、お父様達に報告へ向かう。侍女に頼んで娘をもう一度抱かせてもらった。抱き締めた娘ルーナアリアへ、そっと囁く。
「会えないけど、あなたには大切に思ってくれるお祖母様がまだいるの。ルーナアリアの名をくださったあの方のように、素敵な女性に育って欲しいわ」
囁いて抱き締める。まだ柔らかい娘は、すやすやと穏やかな寝息を立てていた。この子は、新たなシモーニ公爵家の象徴だわ。王家を支える柱となる家の娘、だからこそ幸せになって欲しい。
「愛してるわ、ルーナアリア。あなたは幸せになるために生まれてきたのよ」
薄ら開いた紫の瞳がとろんと歪んで、また瞼の下に隠れてしまう。この子のためなら、何でもしたい。何でも出来る。そう強く思った。
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