外伝2−3.笑顔が招く幸せを広げて

 侍女がベビーベッドに戻した我が子を見ながら、まだ疲れの抜けない体を横たえる。うとうと微睡む頃、ようやく足音が聞こえた。戻って来た夫が「しー」と音をひそめるよう頼むけれど、遅かったわ。


「起きてますわ、どうぞ」


 お父様やお母様が、眠るルーナアリアの頬を突いたり撫でたり。むずがって手を動かす我が子を見守りながら、私は微笑む。幸せを笑顔に変えて、誰かに引き継ぐために。







 3年後――庭を駆け回るルーナアリアは、シモーニ公爵令嬢としてお茶会デビューを果たした。まだ子どもなのに、立派だわ。身内だけのティーパーティーは、新たな公爵家の屋敷の庭で行われた。


 お父様達はもちろん、カスト様の親族も参加している。この風景を残そうと、必死でキャンバスに向かう画家が唸った。彼が描くのは複数枚、この会場で一番忙しいわね。


 前王妃のリーディア様は、現在療養中とか。あの方にルーナアリアの絵姿を送ろうと思うの。領地から出られないリーディア様に、少しでも外の空気に触れて欲しいわ。それに、あの方がいらしたから、今の私がいる。ルーナアリアと私が並ぶ絵を、届けてくれるよう宰相様に頼みました。


「喜んでくれるでしょうか」


「ええ。リーディアは、シモーニ公爵令嬢の頃から、あなた様が大好きです。お心遣いに感謝いたします」


 宰相様の許可が出てほっとしたわ。お父様とお母様は当初反対で、カスト様と一緒に説得したの。領地内にいるリーディア様は心を病んでおられるけど、前向きに生きて欲しいわ。その力になれたら嬉しい。


 シモーニ公爵家を継いで、王家を離れてもう4年が経ちました。カスト様が上手に舵取りをなさるので、領地は豊かな麦の穂が揺れています。王都に近い土地を譲っていただいたので、こうして毎日のように家族が揃うことも可能でした。今日は事情があって、私の公爵邸に集まっています。


「お母さま!」


「あらあら」


 駆けて来た娘を受け止めようとした私の前に、夫が身を滑り込ませる。代わりに抱き上げて、ルーナアリアの頬を突いた。


「こら、お母様のお腹には弟か妹がいるんだぞ。ゆっくり優しく抱きつかないと危ない」


 大きなお腹を抱える私は「お姉ちゃんだもの、分かってるわよね」と微笑んだ。


「ごめんなさい」


 ぺこりと頭を下げるルーナアリアは、顔を上げるとにっこり笑う。愛らしい笑顔ね。その笑顔があれば、あなたも幸せを得られるわ。私がそうだったもの。婚約破棄されて傷物になった私が、家族とやり直し、素敵な伴侶を得た。今の幸せは、私の笑顔の上にさまざまな人々が築き上げたもの。


「いつも笑顔で、皆を幸せにしてあげてね」


「はい」


 口癖になった私の言葉に、ルーナアリアは屈託ない笑顔で頷いた。大きなお腹を支えながら見回す。お父様とお母様は仲良く、その近くでダヴィードが婚約者のオリエッタ嬢に話しかけていた。アロルド伯父様やロレンツィとピザーヌの親族も揃って。


 晴れ渡った空は青く、雲は白い。緑の庭に黄色や赤の花が咲き乱れ……ああ、願わずにはいられない。この国のすべての人が幸せでありますように。








 END……?












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最後までお読みいただき、ありがとうございました(o´-ω-)o)ペコッ

外伝も区切りとさせていただきます。たくさんのリクエストをいただき、アロルド伯父様の人気にびっくりする毎日でした(´∀`*)


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