47.親族へ婚約を知らせる嬉しさ

 私とカスト様の婚約が決まりました。アロルド伯父様に報告する私は、嬉しくて声が弾んでいます。


「幸せになりなさい。しかし残念だ……もう少し若ければ拐って逃げたものを」


「まぁ、伯父様ったら」


 ふふっと笑った私の横で、伯父様を見るカスト様は青ざめていました。嫌ですわ、伯父様の冗談ですのに。伯父様は未婚ですが、今でも貴婦人方にモテるのです。渋いお顔に傷はありますが、鍛えて逞しい体もお持ちです。何より軍人の無骨さに似合わぬ優しさがありますから。モテるのも当然ですわ。


「絶対に、私が幸せにします」


 カスト様がきっちり言い切ったことが嬉しくて、顔が綻んでしまいました。


「そうして、いつでも微笑んでいてくれ。我が姫君よ。笑顔を曇らせる問題があれば、遠慮なく相談して欲しい」


 この気障な言い回しが、伯父様だと似合うのです。擽ったい気持ちで小さく頷き、カスト様にエスコートされる指先に視線を移しました。お父様にお願いしに行った時より、恥ずかしい気がします。


「ありがとうございます。伯父様、いつも気にかけてくださり……本当に、大好きですわ」


 社交辞令なしで接することが出来る数少ない方。私にとって気兼ねなく話せる方は少なくて、大切な存在です。離れて暮らすお父様やお母様の代わりに、よく気遣ってくださいました。もう一人の父のような、祖父と呼ぶには年の近い保護者です。


 王子妃教育が思うように進まず落ち込んでいた時も、気晴らしにと子猫を抱かせてくださいました。あの子猫は狩りに出た伯父様が拾われたとか。大きな鳥に襲われた子猫を救った話は今でも覚えています。膝の上の小さな命を救った伯父様が、まるで童話の王子様のようでした。


 カスト様との距離を少し詰めて、半歩だけ近づきます。私はカスト様に寄り添い生きていくと決めました。決意を示す私に、カスト様もアロルド伯父様も優しい目を向けてくれます。祝福される婚約とは、こんなに嬉しいのですね。


「ダヴィードが駄々を捏ねるか」


 うーんと唸る伯父様に、くすくすと笑う私は先ほどの光景を思い出していました。お父様やお母様の許可を得た婚約を、家族である弟ダヴィードに知らせたのですが……あの子ったら妙なことを言うんですもの。


「ダヴィード殿には先ほど、ご報告しましたが……私が家族になるのは嬉しいそうです。ただ、お姉さまは渡さないと宣言されました」


 困っていますと顔に書いたカスト様に、アロルド伯父様は目を見開いた後、大きな声で笑いました。満足するまで笑うと、咳をして「失礼した」と取り繕っています。


「姉離れが出来ぬなら、少し鍛えてやるとしよう」


 カスト様は気の毒そうな顔を作って「お手柔らかに」と言い添えました。伯父様は優しいから大丈夫ですわ、きっと。

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