03.親として最後の温情だ
愚かな息子だ――玉座の上で、国王アルバーノはそう嘆いた。
第一王子という地位の意味を知らず、王族の責務も理解しなかった。四代前の王がかつて、この国を大混乱に陥れた。その原因は、寵妃の子を無理やり王座に就けようとした事件だ。強行する国王や我が侭で愚かな第三王子に貴族は反発し、各地はどの王子を担ぐか揉めた。ついには王家の排除が叫ばれるほどに。
王家転覆の危機に立ち上がったのが、王妃の実家であるアナスタージ侯爵家だった。当時も正妃を輩出した家柄で、女系で血筋を繋ぐ有能な一族だ。四代前の国王を諫め、退位を促した彼女は己が産んだ第二王子ではなく、側妃が産んだ第一王子を次期国王として推挙した。
あの時代、優秀な王妃が定めたのが「まず第一王子が立太子し、無能であれば生まれ順に繰り越すべし」というルールだった。明文化されていないが、暗黙のルールとして機能している。だから側妃の息子である第一王子が立太子するための手筈を整えた。
ジェラルディーナ・シモーニ。この国の貴族の中で最も地位が高く、先代王弟殿下の孫娘だ。生まれ落ち、性別が判明した瞬間に「王太子の妻」と位置付けられた。彼女の交代はありえない。その説明を側妃にも、第一王子にも繰り返し言い聞かせてきた。
今回の騒動により、第一王子ヴァレンテは王太子の地位を剥奪される。どんなに国王アルバーノが庇おうと、貴族は誰も味方しないであろう。愚かにも人前で、
王妃となるジェラルディーナ嬢を娶った王子が、次の国王なのだ。ヴァレンテは己の娶る女が王妃になると勘違いした。それを揶揄る王妃の言葉が胸に刺さっている。
――まあまあ、何とも恐ろしいことをするものよ。
この国で宰相を務めるアナスタージ侯爵の妹にして、我が妻である王妃がそう言い切った。公式の場での発言を、貴族が聞き逃すはずはない。「王太子」ではなく「第一王子」と表現した意味は大きかった。
この国で一番最初に生まれた
ヴァレンテが愚か者だっただけで、ここに画策などなかったのだ。謀略も策略もない。己に言い聞かせ、元王太子である長男へ向けて処分を言い渡した。
「ヴァレンテ・デ・ブリアーニの王位継承権を剥奪する。王族として幽閉されるか、平民となって王宮を去りモドローネ男爵令嬢と結婚するか。そなたの判断に委ねよう。これが親として最後の温情だ」
ざわめく貴族達の冷たい眼差しに、ヴァレンテは顔色を失っていく。今頃気づいても、後悔しても遅いのだ。それゆえの王子教育であり、王族としての優雅な生活であった。民のため国のために己を犠牲に出来る者のみ、国王の座を与えられる。すでに失格を己で宣言したヴァレンテに逃げ道はなかった。
「どうしてなの?! 私を王妃にしてくれるって言ったじゃない!」
叫ぶモドローネ男爵令嬢に降り注ぐのは、貴族達の打算を秘めた嘲りの眼差しだった。王妃も公爵も、この二人を決して許すまい。王族の権利を行使したヴァレンテが放棄した義務は、それほどに重いのだから。
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