誰?
エリー.ファー
誰?
扉を開け閉めすると、そこに見たこともない人がいる。
誰なのか分からない。
思い出そうとするけれど、分からない。
男性ではある。女性ではないだろう。髭も生えているし。いや、髭の生えている女性もいるかもしれない。性別は不明というのが一番いいだろう。
それにしても、誰なのだろう。
とにかく怖い。
扉を開けると誰かがいるというのが怖い。
どんな人でも怖い。
この扉の前にずっといたのではないか。いつ扉が開くのだろうと観察していたのではないか、と想像してしまう。
実際にそうだったことなどない。
でも、もしもそうだったらと考えてしまう。
扉を開け閉めすると必ず誰かがいる。
それは、押し入れでも、小さな入れ物についている扉でもそうなのだ。
そこに人影を見たり、腕を見たり、目を見たりする。
私はすぐに閉じて、それからまたゆっくりと開く。
そこは誰もいない。
しかし、必ず誰かがいる。
扉を閉める瞬間に誰かがいるような気がしてもう一度開いてしまう。
だから、必ず扉を閉める時はその扉を見ないようにするために後ろ手に閉めるのだ。
それでも気になる時は、忘れるようにしている。
誰かがいたことなどない。
でも、誰かがいたらと思ってしまうのだ。
それが怖くて怖くて。
扉を開けないようにしている。
誰かがいる気がするのだ。
扉なんてない方がいい。
扉があるから、誰かがいることになるのだ。
扉と誰かは同義だ。
誰かとは扉なのだ。
扉を開けて、閉めるその瞬間。
後ろに誰かがいる気がする。
扉の向こう側は確認しているわけだから、誰かがいるわけもない。
問題なのは背後。扉を開ける、閉めるといった動作に集中して油断している自分の死角が一番怖いのだ。
仮に扉がここにしかなかったとしても、それでもどこか入れる場所があったのではないかと考えてしまう。
後ろ歩きをして、背中を壁に付ける。
やっぱり、いなかった。
誰もいない。
そこでようやく安心できる。
扉を閉める瞬間。
誰かに声をかけられたような気がして、扉を開けてしまう。
そう、そんな気がするだけで本当は声などかけられていない。
なのに、分かっていても開けて扉の外を確認してしまう。話しかけられたのに無視するわけにもいかない。失礼になってしまう。
それなら。
手間でも確認をした方がいい。
誰かの声は、きっと私の中から生まれている。
だとするならば。
私はきっと私のことを無視し続けている。
扉を開け閉めするときの音が、誰かの叫び声に聞こえるんです。
恐いんです。とっても。
だって、助けを求めているというか、なんというか。
ねぇ、そう聞こえますでしょう。
あぁ、私だけ。そうですか。そうですよね。
だから、私。扉が苦手なんです。
人が生活する限りは扉というものはどこにだって存在するでしょう。
逃げたいんです。
ここから。
扉のある世界から。
扉が誰かの顔に見えるんです。
いえ、正確には誰かの口に見えるんです。
扉を開いてそこを通るのが、その人の体内に入っていく感じがして怖いんです。
溶かされて、自分ではない何かになっていく感じがするんです。
扉だけではないんです。もう、すべての入口、出口、入る、出る。
あぁ。誰にも分かってもらえない。このまま死ぬことになるんでしょうか。
どうすれば。
誰? エリー.ファー @eri-far-
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます