第18話 変わらぬ日常
「ねぇ
学校の校門をくぐるなり、また面倒くさい人間に俺は捕まった。
「あー……そっすね……良いんじゃないですかね、花」
花は嫌いじゃなかった。けれどそんな話題をふっかけてきたのが
「本当? よかったわ、今度埼玉のフラワーパークに行くのだけど、キミの分のチケットを取っておこうと思ってね……ほら、善は急げとも言うじゃない? 本当は奏君に聞いてから取ろうと思ったんだけど、二人で行く想像をしたらいてもたってもいられなくて、もう既にチケットを購入してしまったのよ」
校門から正面玄関に向かい、歩きながら受け答えする俺の横から、甘やかにそう言う彼女の清楚な感じの黒髪が揺れた。三年生で生徒会長の彼女。腰まで届く後ろ髪と、パッツンと眉上で切られた前髪はふんわりとしていて、そのお嬢様感漂う髪は鞠猫のそれとはまた異なり、暗いイメージを抱かせず、毛先が内巻きになっていたりとお洒落さんな印象を受ける。
そして火吉橋高校の高いレベルの女子生徒の例に漏れない整った顔立ちと、細身のスタイルながら豊満な胸、皮のささくれひとつない艶めいた唇が大人っぽさを際立て、全生徒を纏める人間としての説得力がとてつもなかった。
「でもキミがそう言ってくれるならチケットも無駄にならずにすみそうね」
「俺……行くなんて言ってませんよ?」
「だから取ってしまったと言ったじゃない。ね? いいじゃない親睦を深める為よ」
「だったら俺じゃなくて生徒会の方々と行かれたらどうです? ……俺花は好きですけど女の子は苦手なんです」
「知っているわよ。けど安心して、私は他の女の子とは違うから。キミのイメージを覆してあげるわよ」
どう違うというのだ。俺はそう言いたくなった。
小熊林先輩のお嬢様然とした風格は凄まじく、いつもなら俺に群がる女生徒達も遠巻きに俺達の様子を窺っている。
だからといってこの女の子が他の人達と異なるわけではない。彼女もまた俺の魅了の力によって間違った認識を俺に抱いているだけだからだ。
そんな子達は俺が女の子が苦手だと言うと決まってこう言うのだ。
「────私は他の子とは違う」
自分は特別だ。自分は秦奏の事をちゃんと見ている……と。
何も違わない。俺も高校生に上がり、環境も変わった為、試しに二、三度だけ勇気を出して関わってみた事があったが、何も違わなかった。誰もが同じ、誰もが似たような事を吐き、接触し、最終的に『行為』に迫ってきたのだ。
この世界の誰も彼もとは言わないが、少なくとも俺の関わった女性は皆そういう結末を辿る。俺にはすっかりそんな偏見が根付いてしまっていた。だからこれから先も俺は女性の誘いに乗ることはないだろう。
「ごめんなさい、無理です」
「……つれないわね」
身長が高く、177センチの俺とほぼ変わらない目線の小熊林先輩がポツリと溢し、お互いに気まずい空気が漂う。仕方のない事だけど、俺がどれだけ迫られようとその答えは変わらなかっただろう。
「────おーーい! 奏ぇ!」
そんな時だった、正面玄関の付近で5人で
「いいもん藤川が持ってきたからオメェも見にこいよ!」
小熊林先輩には悪いがこれは彼女から逃げ出すチャンスだ。加藤の言葉に俺は横にいる先輩に向き直ると
「すみません先輩、呼ばれたんで俺行きますね。フラワーパークはどなたか別の人と行ってください」
「…………いい、チケットは捨てるから」
と謝罪しながらもそんな提案をする。しかし作った笑顔でそう言う先輩。言葉では『いい』なんて言っているけど、その様子では全然いいとは思っていないのが明白だった。
「本当……ごめんなさい」
そんな彼女をほっぽり出して逃げ出すのは気が引けたが、ここで構ってしまっては彼女の思う壺だ。俺はスタコラサッサとその場を離れ初芽達の元へと向かった。
屯していた男の一人、藤川の用意した面白いものとは、結局知り合いの大学生との酒に酔った勢いでしたハメ撮りの動画だった。藤川の吐息がマイクで拾われていたり、彼のイチモツが写っていたりと、その場にいる男達とキモいだの言って藤川を揶揄ったりしたが、女子といるよりかは俺にとって何倍も楽しかった。
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