思い出のカップめん
田崎 伊流
第1話
空が暗くなりきった仕事帰り、背を丸めた山中は寒さで頻度が早くなったトイレの為だけに普段寄り付かない裏道のコンビニへ向かった。
手動ドアの開閉音が響いた店内は、流行りの曲が流れ棚にはぴっしりと商品が並ぶ大手と違い曲は無し、棚もスカスカおまけに薄暗いと入った瞬間〔失敗〕が頭をよぎる程寂れていた。
それでも山中は足を止めずトイレに直行する。
出し終えた山中は一息吐くと熱々の缶コーヒーを求め店内を彷徨き、足を止めた。そこにあったのは缶コーヒーではなく壁の横に置かれた段ボール。その中には半額のシールと共にマルちゃんの〔赤〕と〔緑〕合わせて6個転がっていた。
懐かしいなーー勉強漬けの唯一の休憩として食べた夜食、親と大喧嘩し家出した日は星空を眺めながらそのままボリボリ食べた、単純に小腹が空いた時には唐辛子をぶっかけ一度も箸を置く事なく啜った、俺は赤が好きでいつも赤を食べていた。反対に兄貴は緑が好きだった。特にあの天ぷらが好きらしく俺がイタズラで天ぷらと厚揚げをすり替えた時は衝撃の余り泣いてしまった。その後四日は目すら合わせてくれなかったな。あぁ、今頃何をしているんだろう。23で兄貴が結婚して以来碌に話もしていない。数十年ぶりの再会と共にまたすり替えたどん兵衛でも渡してやろうか?いい歳したおっさんがもし泣いたとしたらーー
面白いな、そう思うと山中はニヤケ気味の顔をマスクで隠し赤、緑合計6個とHOTの微糖2缶を素早くレジへ持って行き「これ、良かったらどうぞ」緑と缶コーヒーを店員の方へスライドさせた。「あっ、、ありがとござやす」店員の困惑混じりの感謝を背に受けた山中は手を振り答え、鼻歌を歌いながら上機嫌に寂れたコンビニを後にした。
思い出のカップめん 田崎 伊流 @kako12
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