第7話 少年は知る真の絶望を 1

「殺す」


「やってみろ」


 その言葉と同時に悪魔は腕を大ぶりに振った。それに対してレックスは花畑に身を隠し攻撃を避けていた。


「どうしたどうした〜。そんなもんか?」


 悪魔はキレたようにあたりを薙ぎ払っていた。それに対してレックスはその攻撃を獣人族ならではの視覚、聴覚、そして本能だけで回避していた。


 やばいな。早い。避けるので精一杯だ。反撃しようとしたらそこでやられる。

 レックスは内心焦っていた。当然だ、相手は格上そんな相手に無謀にも挑発をし戦っている。


 <<どうするつもりだ?お前が思っている通り当たれば終わるぞ>>


 確かにシエルのゆうとおりだ。今のままでは必ず負ける。背丈も頭脳も腕力も何もかもが相手が勝っているのだから唯一張り合えているこのスピードでさえも避けることしかできない。逆に言えば相手とはスピード出しか張り合うことができない。当然だこの体はまだ小さく成長期もまだなのだから。もっと体が大きければ、身長があれば、腕力が英雄のような力があれば変わっているのかもしれない。でもないものねだりをしてもしょうがない。だからこそを使うしかないのだと。レックスは確信した。


 <<待て!あれをやるのか。>>


 あたりまえだとシエルに心の中で念じる。

 使うにしろ使わないにしろ早く選択しなければ殺られる。だったら唯一勝てるかもしれない、ほんの小さな可能性に信じるしかない。


 <<まったく、、どうなっても知らんぞ。>>


 構わない!そう即答していると突然悪魔が目の前に現れた。


「何かかんがえごとかなっ!」


 そう言ってレックスの顔目掛けてアッパーカットを繰り出していた。

 間一髪避けることができたと思ったのだがこめかみに当たったのだろうか血がでていた。それを確認する暇もなく一瞬で悪魔は間を詰めて連撃を繰り出す。

 左右のストレート、裏拳、蹴り、さっきの大振りの攻撃をしていたとは思えないほど精錬された動きになっていた。その精錬された動きに対して一瞬反応が遅れこめかみ以外にも右頬、脇と体を掠め血が滲み出るとともに痛みがくる。


「くそっ!」


 異世界でも格闘技あるのか。大振りの動きが少なくなり精錬された動きが少しずつ増えていく。おそらく手加減されていたのだろう。

 何より悪魔のスピードが上がっていた。

 ギリギリ避けられるがどうしても体を掠める。どうにかして隙を作りたいがそんな時間与えてくれるはずもない。

 どうにかしてを使える状態にしたい。


 どうする?どうする?どうする?どうする?どうする?どうする?どうする?どうする?どうする?どうする?どうする?どうする?どうする?どうする?どうする?どうする?どうする?どうする?どうする?どうする?どうする?どうする?どうする?どうする?どうする?どうする?どうする?


 焦りで思考が鈍り同じことが何度も頭をよぎる。

 そんな中でも悪魔の攻撃が続く。

 左右のストレート、回し蹴り、裏拳、かかと落とし。普通は動作モーションの大きいものはある程度隙が生じるものだが悪魔はそんな隙がない。

 悪魔はレックスのどこの部位から潰していこうかと思っているかのようなサイコパスじみた笑顔をしながら攻撃を続ける。

 もう無理なのかそんなことを思っているとふとレナの顔が頭をよぎる。それは初めてであった時の顔、拗ねてしまった顔、祭りを楽しんでいた顔、ペンダントを貰った時の顔、こんな戦闘中に思うのもおかしい事だ。でもこの一瞬で思考がクリアになった。それと同時に思い出す、この状況を一瞬止められる手立てを


「シエル!!」


 彼女の名を呼びながらポケットにしまっていたあるものを握る。


「これに魔力を込めろ!」


「何する気かな?」


 それと同時に悪魔も動く。それは最短で相手の頭を吹き飛ばそうとする拳、それを刹那の速さ、自分の体のリミッターが外れた速度で動き、ギリギリのところで避けた。頭からの出血長時間の放置は生死を分けるだがレックスはこの時自分のことよりどのようにして悪魔を倒すかそれしか考えていなかった。そしてポケットに入れていない手の方で地面を思いっきり殴り少しの地響きとともに土煙が舞い上がった。


「なになに〜?」


 悪魔は面倒くさそうに言う。


「時間稼ぎ〜?」


 腕を大振りに振り回し土煙を飛ばす。

 それと同時に悪魔の目の前に白い玉を投げる。

 その玉は悪魔の顔の前まで接近する。


「何を....」


 その瞬間白い光があたりを照らした。

 その光は辺り一面を白くし悪魔の視界を少しの間だが奪った。


 レックスが投げたもの、それはおばさんに貰った

 水晶玉だった。おばさんが言っていたように魔力を込めると光がでていた。本来獣人族は魔法は使えないがシエルに魔力を流させることでこの水晶玉を光らせることに成功した。そうして悪魔から少しの隙をついた。


「何をした!」


 悪魔は荒々しく言う。あたりを警戒してか腕を振り回し近ずけないようにしていた。その腕は見えないほどに早く近ずくことはできない。だが、近ずく必要がない。なぜならこの間にレックスは切り札を使うのだから。


「シエル!」


 そう叫んだ瞬間白い光がレックスの体を覆い隠した。

 悪魔は目を擦り当たりを見渡す。そこでふと見つける。ついさっきまでいたぶって遊んでいた獣人の子供、だが少しだけ違った。ボロボロなのは変わらない。けれど、今にも喉元を噛み切ってやろうという気迫が目でつたわる。そして一番の変化といえば体の周りに白い瘴気のようなものが漂っていた。


「さぁ第2ラウンドだ!ぶっ殺してやるよ。」


 レックスは荒々しい声で悪魔を指さして言った。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

獣人が歩む英雄譚 星空 累 @hosizora3170

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ