きつねの覚書き

 この手記は九十九に口述して記してもらった。


 出会ってどれくらいの時間が過ぎただろう。


 これまでの日々が灰色であったかと言えば、そうでもない。ただ漫然と人々の笑顔を見るのが嬉しくて、村や田畑を見守り続けていた。いつの間にか、学問にもご利益がある、なんて言われるようになってしまったけども、そこまで何かできるほどの力なんてもってやしない。


 けれど、こんな立派なお社を建ててくれているから、なんとかいい方向に流れを向かせてあげられればなとは思う。神様でもなんでもないんだけれどな。


 爽香と話したことは、私の中でも大きく意味のあることだった。とても不思議に思っていたから、新鮮だったのかもしれない。ひとはもっと脆く、儚いものだと思っていたから。


 油揚げも果物もたくさんくれた。たくさん話もした。まつりのときも、そっとりんご飴をもってきてくれた。


 大げさな話ではなく、私の世界は鮮やかに彩られていった。爽香によって。

 このままずっと一緒にいれば。ずっとお話できれば。遊ぶことができれば。世界はどんなに面白く変わっていくだろう。それが楽しみで仕方がない。


 でもそれは一つのあり方に過ぎず、違うあり方も多分にある。でもたとえ。この世界がどんな形に変わったとしても。目をそらさず、ありのままを受け入れようと思う。それは爽香との出会いが導いてくれた世界なのだから。


 あまり言葉は得意じゃないけれど、

 その感謝の気持ちは、ここにこうやって残しておきたいと思う。

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