きつねの覚書き
この手記は九十九に口述して記してもらった。
出会ってどれくらいの時間が過ぎただろう。
これまでの日々が灰色であったかと言えば、そうでもない。ただ漫然と人々の笑顔を見るのが嬉しくて、村や田畑を見守り続けていた。いつの間にか、学問にもご利益がある、なんて言われるようになってしまったけども、そこまで何かできるほどの力なんてもってやしない。
けれど、こんな立派なお社を建ててくれているから、なんとかいい方向に流れを向かせてあげられればなとは思う。神様でもなんでもないんだけれどな。
爽香と話したことは、私の中でも大きく意味のあることだった。とても不思議に思っていたから、新鮮だったのかもしれない。ひとはもっと脆く、儚いものだと思っていたから。
油揚げも果物もたくさんくれた。たくさん話もした。まつりのときも、そっとりんご飴をもってきてくれた。
大げさな話ではなく、私の世界は鮮やかに彩られていった。爽香によって。
このままずっと一緒にいれば。ずっとお話できれば。遊ぶことができれば。世界はどんなに面白く変わっていくだろう。それが楽しみで仕方がない。
でもそれは一つのあり方に過ぎず、違うあり方も多分にある。でもたとえ。この世界がどんな形に変わったとしても。目をそらさず、ありのままを受け入れようと思う。それは爽香との出会いが導いてくれた世界なのだから。
あまり言葉は得意じゃないけれど、
その感謝の気持ちは、ここにこうやって残しておきたいと思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます