百日紅の風景
「きつね・・・さん?」
あどけない顔の爽香が、百日紅の上で眠っていたきつねを見上げていました。
きつねは何も答えませんでした。その通り自分はきつねであるし、人の言葉を喋ればびっくりさせてしまうと思ったからです。
「白いきつねさんなんて初めてみたよ。かっこいいねぇ…」
爽香は微笑んできつねに言いました。
「尻尾が3本・・?もある。まさか妖怪じゃないよね」
慌ててきつねは燐火を引っ込めました。けらけら笑う爽香を見て、はて?と思いました。
どうして、そんなに朗らかでいれるんだろう。
きつねはまじまじと爽香をみつめました。人間に姿が見えるものがいるとは思わなかった。でもよく考えてみれば、この子には見えても不思議ではないのかもしれない。
特に騒いだり、危害を加えようとするわけでもない少女を見て、きつねはまた木の上で眠りに落ちました。
それからというもの、爽香はお社に来るたびに、きつねに挨拶をするようになりました。
「こんにちは、きつねさん。きょうは油揚げもってきたよ。でもほんとの狐は油揚げなんて食べるのかな?」
お社に油揚げを供え、きつねの方にも油揚げを紙包みから取り出しました。
きつねは尻尾をたゆらせ、返事に代えました。爽香はペンを取り出し、スケッチブックに何かを描き始めました。きつねはただ、その様子を時折見ながら、百日紅の上でうたたねをするのでした。
きつねはあまりに不思議でした。人間は脆く儚いもの。そう思っていたのに、爽香はどうでしょう。自分が思っていた人間とは全然違っていたのです。
爽香はときどき、きつねに果物や油揚げを持ってきてくれました。そして、お社に半分を供え、半分をきつねに差し出します。きつねはコンと鳴くわけでもなく、ただ真っ白な3本の尾を振って応えるのでした。
「さぁ、今日は描こうかな」
爽香は決まってそういうと、あちこちを眺めながら、やがて意を決したかのように場所を決め、ちょこんとそこに座ったらあとはひたすらペンを動かすのでした。
そんな日々が、
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