【自主企画用】プロローグ【空から5000兆円が降ってきた】
蒼山皆水
共通プロローグ
世の中には絶望しかない。
それが、約四半世紀生きてきた私が、唯一理解したことだ。
人間の本質は悪で、幸福や希望なんてものは存在しない。
人生のほとんどは、つらいことと苦しいことで構成されている。
愛は虚構で、死は救済で、世界は地獄だ。
大金でもあれば何かが変わるかもしれない。
例えば、5000兆円が手に入れば──。
バカバカしい。ありもしないことを考えるのはやめよう。
私は家賃の安い一人暮らしの部屋で、ボロボロになった布団に入って天井の木目を見つめていた。
現在、午前六時。鳥の鳴き声が聞こえる。
いつもは布団に入ってから一時間くらいで眠りにつけるのに、今日は三時間が経ってもまだ眠気が訪れない。
私は睡眠を諦めて起き上がった。
まずい水道水をコップに注ぎ、一気に飲み干す。
家の中にいてもすることがないので、外を歩くことにした。
朝日がまぶしい。
ランニングしている若い女性、犬の散歩をしている眠そうな小学生の男の子、ご近所さん同士で話す老人たち。
きっと、みんな幸せな生活を送っている。どうしてこんなに不平等な世の中なのだろう。
ここはゲームか何かの世界で、私以外、人間ではないのかもしれない。そんな疑念に駆られる。
いや、私が人間であるという保証もない。
いっそ、人間ではない何かならいいのに。
思考がちぐはぐで、脳が働いていないのがわかる。
だったら大人しく眠ってくれよ、と自分の体に対して思った。
歩いていると、突然、涙が出てきた。
こういうことはよくあるので、動揺はしない。
私の心は、五年前から壊れかけている。
五年前のあの出来事が、私の人生を変えたのだ。
それまでは私にも、無限の未来があった。幸福を感じる心があった。
今は違う。死ぬためにだらだらと生きている。それだけだ。
ふと空を見上げると、何かが太陽の光を浴びてきらめいた。
それは徐々に大きくなって――いや、こちらに近づいてきている。
「は?」
間抜けな声が出てしまった。
だって、まさかそんなものが落ちてくるなんて思わないじゃないか。
常識的な範囲の空から落ちてくるものだったら避けれたわけではないけれど。
それが私に到達するまでのコンマ数秒、脳内はクエスチョンマークに支配された。
降り注いでいるのは、大量の札束だった。ダバダバダバ、と次々襲いくる札束に、為す術なく地面に倒れ込む。
あっという間に私の体は札束に埋もれてしまう。
体が押し潰されて、身動きが取れない。
暗闇。
重さが増してきて、札束がさらに積もっているのがわかる。
内蔵は圧迫されている。呼吸もできない。
やがて、意識が途絶えた。
そして──私が再びまぶたを開いたとき、物語は始まったのだ。
【自主企画用】プロローグ【空から5000兆円が降ってきた】 蒼山皆水 @aoyama
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます