第10話

「蒼い〇〇」10


 脇腹に切り傷が二つ着いていてそこから血が流れている。結花は動揺せずに濡らしたタオルを押し付けて俺の手をタオルに置いてしっかりと抑えるように言って部屋から出て行った。ズキズキと痛む腹をから意識を違う方へ向けたくてホテルからの景色に目をやった。

 霞むビル街は無音に見えて曇り空が全てを覆っていた。ちらほらと見える赤い点が点灯していてビルやマンションには仕事の灯りと生活の灯りが灯されていて星空を下に見ているみたいであった。

 数え切れない星達の中の二つが俺と結花なんだな…。


 意識を失っていたのか寝ていたのか解らないが目を覚ますと傷の当たりに分厚いシートを当てそれを身体ごと包帯で丁寧に巻かれていた。辺りを見渡すと結花が革ジャンの内側の血をタオルで拭いていた。


「起きた…」

俺が目を開けているのに気付いて結花が隣に来た。

 大きな瞳には涙が溢れ出していた。

「良かった…このまま起きないかと思っちゃったよぉ」

「ごめんな」

「京平が死んだらあたしも死ぬから!」

「ごめん」

「生きてて良かった」

「うん」

「あたしは京平が死ぬまで生きるんだから!まだ死なないで!」

結花は俺の手を握った。俺もその手を握り返した。


 俺はプールバーでのことを話して聞かせた。


 先のことは解らないが今は目の前に結花が居る。この刹那の時が俺達にとって生きてる証なんだと思った。


 壁には二人の革ジャンが並んでいてジーパンも干してある。

 傷は思ったより深くなくて身体を動かすと痛みが走る程度であった。恐らく果物ナイフを二回刺されたのだと思った。刺し方から肺を狙ったけど少し下に刺さったから致命傷にはならなかったのかと思う。


 結花が掛け布団からモソモソと上に上がって顔を出した。

「気持ちよかった?」

結花はイタズラに笑っている。口でイカされたのである。

「可愛いイタズラっ子!」

「へへ…京平が可愛すぎて仕方ないんだもん!動くと痛いからあたしが気持ちよくしてあげる!」

「好きだよ」

「あたしも」

右脇が痛いから左腕だけで結花を抱き締めた。



 三年後ー。

 俺と結花はラーメン屋で働いている。

「結花ちゃん!あまり動かないでいいよ!」

叔父さんが結花を気遣ってくれている。結花は微笑みながら「大丈夫ですよ!叔父さんこそ腰痛いから動かないでいいですからね!」と笑っている。

 俺はチャーハンセットを2つ作りながらそれを見ている。

「二人とも良いから!座ってな!」

俺は二人に声をかけて厨房から出て入り口近くの席のチンピラ二人にチャーハンセットを持って行った。

「この店は二人にあげるよ!」

叔父さんは大きな声で言った。

「こんな借金だらけの店継いじゃだめだ」

親分が入ってきながら言った。

「お疲れさまです」

「お疲れさまです」

チンピラ二人が立ち上がって挨拶して俺も並んで頭を下げた。

「兄さんは頭下げなくて良いよ」

「親分さん!借金の事は内緒ですよ!」

叔父さんがおちゃらけている。

「まぁこの若い夫婦がいるから借金なんて恐くないな!」

親分はカウンター席に座り結花のお腹を触った。

「親分さん!この子の名付け親になってもらえませんか?」

結花が言った。俺も頭を下げた。

 親分は顔を赤くして照れている。

「そういうの慣れてないからなぁ…男の子だったら任侠の任太郎!女の子だったら義理の義理子だな!」

「あぁ親分さん名付け親は却下で!」

結花が即答した。

 ラーメン屋にいる全員が大声で笑った。

 閉店間際の店は暖かい笑いで包まれていた。


おわり

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蒼い〇〇 門前払 勝無 @kaburemono

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