第9話

「蒼い〇〇」9


 京平の寝顔は子供みたいで可愛くてずっと見てられる。あたしはそっとベッドから抜け出して京平の服をたたんでお互いのジャケットをハンガーに掛けて並ばせてニヤニヤして写真を撮った。水を飲んでシャワーを浴びて歯を磨きながらポケモンGoをした。

 ふと目線を感じて京平を見ると起きていた。

「ごめん起こしちゃった」

「目が覚めた。結花」

「ん?」

歯ブラシを咥えながら振り向く結花が可愛くて堪らない。

「この気持ちは何だろうか」

「何だろうね」

イタズラに微笑む、微笑見ながら口の周りが白くなっている。

 俺もベッドから出て歯を磨き始めた。

 二人で歯を磨きながらポケモンGoの画面を見た。魚みたいなモンスターが画面でゆらゆらしていた。


 その日はジーパンを二人で買った。

 岡山で生産されている国産のデニムの質の良さに二人で感動した。堅い生地なのに履いていてストレスが無いのである。裾上げをして商店街の方で時間を潰して珈琲ショップで一息ついて結花のギターの話やバイクの話をお互いにした。裾上げが終わったジーパンを履いて再びバイクに乗って郊外のバイクパーツショップに向かった。オイル交換とサイドバックを買って旅用にした。大きめな国道沿いの薬局屋とユニクロで少しの着替えと結花の化粧品等を買い揃えた。


 そして俺と結花はバイクでひたすら当てもなく遠くを目指した。


 海沿いの道を走っていると結花は大きな声を出した。

「あたしは幸せすぎるよ!」

流れ去る風より強い結花の声がはっきりと聞こえた。

「あたしはこのまま京平と死んでもいい!」

「俺も結花と一緒なら死んでもいいぜ!」

「京平!好きだよ!」

あたしは京平に力いっぱい抱き付いた。


 二人は太平洋沿いをあちこち見て回った。夜は適当にラブホテルに泊まり愛し合った。


 旅に出て一週間ー。

 バーに電話した。


「良かった!解決したから戻ってきていいぞ!明日ここに来てくれ」

「解りました」

俺は結花に解決したと伝えた。


「明日ビリヤードの店に行こう」

「うん」

「そんでさ!それからさ!二人で部屋探してさ一緒に暮らそう!結花はまたギター買って歌ってくれよ」

「うん」

「俺も頑張って働くよ」

「ありがとう!あたしはお金なんか要らない!ビンボーでも京平といつも一緒に居られるだけで良いよ」

「ありがとう」

結花を見つめてキスをした。


 高田馬場へ戻ると何故が嫌な胸騒ぎがした。

 俺は結花に中野のビジネスホテルで待つように言って電車で高田馬場へ向かった。プールバーへ向かう途中にラーメン屋の前を通るとシャッターは閉まっていた。あのコインパーキングには白いベンツが停まっている。

 俺はプールバーへの階段を上がろうとした。

「おい」

振り返るとマサシと呼ばれていた男が立っていて腹を殴られた。俺は少し怯んだがマサシにタックルをして路上に倒れ込んでそのまま馬乗りになって顔面を何度も殴った。

 階段脇にあるビールの空き瓶を取ってマサシの頭を殴った。ビール瓶は大きな音と共に派手に割れたがそれ程手応えは感じなかったからビールの入ったのを再度持ってきた。ゆっくりと立ち上がろうとしているマサシを後から殴った。鈍い音であった。マサシはそのまま前に倒れて痙攣していた。

 プールバーから親分と子分が数人降りてきた。

「兄さん大丈夫か?」

「大丈夫です」

「兄貴!コイツ死にますね」

子分が痙攣しているマサシを覗き込みながら言った。

「兄さんはこのまま逃げろ!後はこっちでやっておく」

俺は言われるがまま親分に頭を下げて来た道を戻った。

 駅まで足早に向かい電車を待つ間、滝のあるビルを見つめた。

 電車は空いていて一点を見つめる老人、読書する女子高生、携帯をいじくるカップル、消え去る街並みは哀愁ー。


 中野のビジネスモデルに着いて13階までエレベーターで向かった。1302の扉のドアノブに手をかけると手が血だらけになっていた。そっとジャケットを捲ると腹が血で濡れている。そして今更激痛が走った。

 内側からドアが開いて結花が俺の姿を見て驚いていた。俺の腕を肩に回して部屋に入れた。


つづく

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