特別賞受賞記念! おまけSS「鈴花と珖璉のお祝いお菓子タイム」


~作者より~

 

 このたび、第7回カクヨムコン恋愛部門にて特別賞をいただきました~っ!ヾ(*´∀`*)ノ


それもこれも、お読みいただき、応援してくださった皆様のおかげです! 本当にありがとうございます!(深々)


 受賞に浮かれたおまけSSとして、鈴花ちゃんと珖璉様のお祝いお菓子タイムを書きましたので、ご笑覧いただければ幸いです( *´艸`)


 時間軸としては、終章のあと珖璉の私室に戻ってきて……。という感じです~。



   ◇   ◇   ◇



 『昇龍の儀』が終わり、官正かんせいの着物に着替えた珖璉こうれんとともに珖璉の私室に戻ってきた鈴花は、扉を開けた途端、目の前の卓の上を見て、すっとんきょうな声を上げた。


「こ、こここここ珖璉様……っ!」


「どうした? にわとりにでもなったのか?」


 くすりと楽しげに喉を鳴らした珖璉が、黒曜石の瞳に悪戯いたずらっぽい光を宿して鈴花の顔をのぞきこむ。


 ついさっきまで、銀の光をまとう端麗な面輪が鈴花に甘い言葉を囁いていたのかと思うと、それだけで顔が沸騰する心地がする。


 だが、いまはそれよりも。


「こ、珖璉様っ! どうなさったんですか!? こ、こんなにいっぱいお菓子なんて……っ!」


 震える指先で指さした卓の上には、いくつもの皿が並んでいる。

 それらすべてに載っているのは、なんとお菓子だ。


「祝いだ」


 夢でも見ているのではないかとおののく鈴花をよそに、珖璉があっさりと答える。


「お祝い……」

 おうむ返しに呟いた鈴花は、ようやく気づく。


「そ、そうですね! 今日は『昇龍の祭り』の日ですもんね! そのお祝いなんですね!?」


 ようやく得心し、ほわ~、と感嘆のまなざしでお菓子を見つめる。

 こんなにたくさんのお菓子が並んでいるところなんて、生まれて初めて見た。


 と、不意に珖璉の大きな手に指先を握られる。


「いつまでぼうっと立っている? せっかく用意させたのに、食べぬのか?」


「えっ!? えぇぇぇぇっ!? こ、これ、いただいてもよいのですか……っ!?」


 ふたたび、すっとんきょうな声が飛び出す。


 確かに、珖璉ひとりでは明らかに多い量だが、まさか鈴花もお相伴にあずかれるとは思っていなかった。


禎宇ていうさんやさくさんも一緒に食べられるんですよね!? では私、お茶の用意を……」


 掴まれた手を引き抜き、お茶の用意をしようとすると、逆にぐいっと引き寄せられた。


「ひゃっ!?」


 よろめいた身体を珖璉に抱きとめられる。ふわりと爽やかな香の薫りが揺蕩たゆたった。


「茶など、禎宇に用意させればよい。おいで」

「あ、あの……っ!?」


 指先を握っていないほうの手のひらが鈴花の腰に回り、そのまま、卓へと導かれる。


 てっきり、珖璉は向かいに座ると思っていたのに、三人掛けの長椅子に並んで座られ、鈴花はあわてた。


「あ、あの、珖璉様……!?」


「どうした? 食べぬのか?」


「食べますっ!」


 反射的に即答し、「い、いえっ、そうではなくて……っ!」とあわあわと声を出す。


「あ、あの、このままお隣に……?」


 長椅子は三人がゆったりかけられるほど大きいというのに、なぜか珖璉は鈴花の腰に手を回したまま、ぴたりと身を寄せている。わずかに身動みじろぐだけで珖璉の香の薫りが揺蕩い、なんだかおぼれてしまいそうな心地になる。


 鈴花の問いに、「無論だ」と珖璉があっさりと頷いた。


「なぜ、離れる必要がある? それともお前は、わたしが隣では嫌か?」


「め、滅相もございません……っ!」


 ふるふるとかぶりを振ると、ひとつに結った髪が珖璉の衣にふれて、さらさらと音を立てた。


 なめらかな絹の衣は、その下に隠された引き締まった身体つきを嫌でも連想させて、ぱくぱくと鼓動が速くなる。


 つい先ほど、王城でこの力強い腕に抱きしめられて、何度も何度も――。


 揺蕩う香の薫りに記憶が甦りそうになり、鈴花はあわてて心の奥底に押し込める。


 いま思い出してはだめだ。今度こそ、心臓が爆発して口から飛び出してしまう。


 なんとか珖璉から意識をそらそうと視線を動かして。


「わぁ……っ!」


 近くから見た卓の上の光景に、思わず感嘆の声が飛び出す。


 卓の上には、驚くほど多種多様な菓子が並べられていた。


 綺麗な焼き色がついた月餅げっぺいに、とろりと黒蜜がかかった葛餅くずもち


 桃の花の形をかたどったお饅頭まんじゅうは皿に乗せた本物の桃の枝の両脇に配され、そのうえ薄い餅でうぐいす色のあんをくるみ、鳥の形にした菓子まで置かれていて、まるでお皿の上に桃園が広がっているかのようだ。


 ほかにも、きつね色の焼き色がつき、琥珀色こはくのたれがかかった串団子や、薄く伸ばした生地をねじって揚げた菓子など、ひとくちに菓子といっても、こんなにいろいろあるのかと、目と口がまんまるになってしまう。


「ぽかんと口が開いているぞ」


 珖璉のからかうような声が聞こえるが、答えるどころではない。


 こんなにいっぱいのお菓子が目の前にあるなんて……。

 やはり、さっきからずっと醒めない夢に迷い込んでいるのではなかろうか。


 すでに窓の外は陽が沈み、部屋の中にも宵闇が忍び込んでいる。壁や卓の上に明かりが灯されているものの、部屋の中で一番まばゆいのは銀色の光を纏う珖璉だ。


 やっぱりこれは夢ではありませんか、と珖璉に問おうとして。


「ほら」


 ぽかんと口を開けたまま動かぬ鈴花に焦れたのか、珖璉が銅銭ほどの大きさの焼き菓子を鈴花の口に放り込む。


「っ!?」


 反射的に咀嚼そしゃくすると、口の中でほろりと崩れ、木の実の味わいが広がった。中に練りこまれていたらしい。


 さくさくした生地と練りこまれた何種類もの木の実の触感の違いがおいしい。


 無言でむぐむぐ食べていると、ちょうどみ下したところで、串にささった団子を差し出された。


 考えるより早く、はむっと先っぽの団子にかぶりつく。


 甘辛い味つけのたれと、もちもちした団子の調和が絶妙だ。


 焼き菓子と言い、団子といい、おいしさに頬が緩んで融け落ちてしまうのではないかと思う。


 というか。


「ふぉ、ふぉーれんひゃま!」


 ようやく我に返り、鈴花はあわてて団子を差し出してくる珖璉の腕を押しとどめる。


「だ、大丈夫ですから! ちゃんと自分で食べられますから!」


 主に手ずから食べさせてもらったなんて知られたら、後で禎宇と朔にどれほど呆れられることか。いや、禎宇の場合は腹を抱えて大笑いしそうな気がするが。


「うん? いらぬのか?」


「いります! いらないなんて、口が裂けても言いませんっ! けど……っ」


 不思議そうに首を傾げた珖璉に、ぶんぶんとかぶりを振る。


「珖璉様に食べさせていただく理由がありませんっ! 別に手を怪我したわけでもありませんし……っ! ちゃんと自分で食べられますから!」


 こんなぴったりと珖璉とくっついて、しかも食べさせてもらうなんて……。口からお菓子が入ると同時に、心臓が飛び出しそうだ。


「わたしはお前に食べさせるのが楽しいがな」


 笑んだ声で言われ、ぱくんと心臓が跳ねる。


「なっ、ななな……っ!?」


 魚みたいに口をぱくぱくさせていると、首をかしげて鈴花を見下ろした珖璉が、甘やかに微笑む。


「嬉しそうに食べるお前の顔を見ているだけで、心楽しい」


「っ!?」


 一瞬で顔が熱くなる。

 だめだ。頭がくらくらして気絶する。


 菖花も交えて三人で食事をとった時は、このあと珖璉と別れるのだと思うと、ごちそうの味もわからなかった。


 だが今は、まったく逆の状況なのに、お菓子を楽しむどころではない。


 せっかく目の前にこんなにたくさんお菓子があるというのに、なんともったいないことだろう。


 羞恥しゅうちと混乱のあまり、抑えきれなくなった感情が涙と化して、じわりと目が潤む。



 途端、珖璉が驚いたように目を瞠った。


「どうした!?」


「いえっ、その……っ」


 顔を背けて身を離そうとするが、逆にぎゅっと抱き寄せられる。


「お前の意に染まぬことをしてしまったか?」


「ち、違いますっ! そうではなくて……っ」


 苦い声にぶんぶんとかぶりを振って否定しようとするも、強く抱き寄せられてうまく首が動かせない。


「もしや……。団子ではなく、饅頭のほうがよかったか……?」


「違いますってば! 珖璉様、落ち着いてくださいっ!」


 何をどうすればそんな思考になるのやら。


 串団子を皿に戻し、大真面目な顔でとんちんかんなことを言い出す珖璉に、涙をこぼしかけていたことも忘れ、ぷはっと吹き出す。


 鈴花の笑顔に安堵したのか、珖璉の腕がわずかに緩んだ。


「違うんです。焼き菓子もお団子も、とってもとっても、頬が落ちそうになるくらいおいしかったです。ただ……」


「ただ?」


 言いよどんだ鈴花の顔を、言い逃れは許さないとばかりに珖璉がのぞきこむ。


 黒曜石の瞳に見つめられるだけで、ふたたび鼓動がぱくぱくと騒ぎ出す。


「ただ、その……。珖璉様があまりに近くて、どきどきしてお菓子の味もわからなくなりそうで――、っ!?」


 不意に端麗な面輪が近づいたかと思うと、くちづけられて息を飲む。


「な、なななななにをなさるんですか――っ!?」


「お前が、可愛いことを言うからだ」


 すっとんきょうな声で叫んだ鈴花とは対照的に、甘やかな笑みを浮かべて珖璉が告げる。


「甘いものに目のないお前が、菓子の味もわからぬほど、わたしを意識してくれているとは……。嬉しくなった」


 菓子よりも甘い笑みをこぼした珖璉が、ふたたび鈴花にちゅ、とくちづける。


「こ、こここここ珖璉様っ!? で、ですから、これではお菓子が食べられませんと……っ!」


 必死で訴えかけると、珖璉が仕方なさそうに吐息して腕をほどいた。


「せっかく用意させた菓子をお前が楽しめぬのでは仕方がないな。今はおとなしく、菓子を楽しむか……」


「は、はいっ! こんなにいっぱいのお菓子、いただける機会なんてそうそうありませんから……っ! 珖璉様も召し上がらないともったいないですよ!」


 こくこくこくっ! と大きく頷き、熱心に勧めると、珖璉が柔らかな笑みを浮かべた。


「では、お前は次は何が食べたいのだ?」


「私ですか……? あの、桃の花のお饅頭が気になります! でも、あんまり綺麗すぎて、食べるのがもったいないです……」


 食べるのももちろん幸せだが、綺麗なお菓子は見ているだけでもうっとりしてしまう。


「ああ、これか」


 菓子をつまみ上げた珖璉が、鈴花の口元へ持ってくる。


「こ、珖璉様! ですから、自分の分は自分でいただきますと……っ! それに、私に食べさせていては、珖璉様が食べられないではありませんか!」


 珖璉から菓子を受け取りながら抗議すると、


「先ほども言っただろう? わたしが食べさせるのが楽しいのだ」

 と、大真面目に返された。


「で、ですが……っ!」


 珖璉が鈴花などを大切にしてくれるのは、嬉しい。

 嬉しすぎて、涙がこぼれそうになるほどだ。


 と、珖璉が悪戯っぽく微笑んだ。


「何より……。わたしが欲しているのは、菓子よりもお前だからな」


「っ!?」


 耳元で告げられた囁きに、一瞬で全身が沸騰ふっとうする。


「こっ、こここここ……っ!?」


 くらくらと目が回りそうになりながら、なんとか声を絞り出すと、なだめるように優しく頭を撫でられた。


「心配するな。お前に無理はいぬ。……そもそも、《宦吏蟲かんりちゅう》が入っていてはどうしようもないからな」


「は、はい……っ」


 泂淵が《宦吏蟲》をそのままにしておいてくれてよかったと、心から感謝しながら、こくんと頷く。


「桃の花より紅く色づいているぞ」


 くすくすと楽しげに喉を鳴らしながら珖璉が告げるが、答えるどころではない。


 気が遠くなりそうな幸せを感じながら、鈴花は優しく髪を撫でる珖璉の大きな手のひらに素直に身をゆだねた。


                                  おわり


~作者よりお知らせ~


 お読みいただきまして、誠にありがとうございます!(深々)


 このたび、「鈴の蕾は~」の書籍情報が、ついに解禁となりました~!

 タイトルは改題となりまして、


『迷子宮女は龍の御子のお気に入り ~龍華国後宮事件帳~』

 として、2023年1月25日にメディアワークス文庫様より発売となります~!ヾ(*´∀`*)ノ

 https://mwbunko.com/product/322210000351.html


 書籍版には、書き下ろし番外編「鈴花の願い事」も収録されます! ぜひぜひお手にとっていただけましたら嬉しいです~っ!(ぺこり)


 また、書籍化記念といたしまして、発売日前後に、おまけSSを更新予定です!


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