第5話 労働ヒーロー(小林多喜二『蟹工船・党生活者』)
今回ご紹介するのは
小林多喜二 『蟹工船・党生活者』 角川文庫 (1928)
です。
いわゆるプロレタリア文学の代表として、歴史の授業で習いますが、じゃあ「プロレタリア文学」とはなんぞやという疑問をどこかに持っていた気がします。
読んでみた感想は、これは「一種のヒーローモノだ」です。
蟹工船では、書き出しの「おい地獄さ
そうした労働者=プロレタリアートがいかにして資本家=ブルジョアをやっつけるかというストーリーなのです。
まさしく勧善懲悪的な分かりやすいストーリーです。ここらへんが、ヒーローモノ感を感じさせました。
一方で、主役となる人物はあくまで弱々しい一個人として描かれます。一人ひとりでは弱い労働者がいかにして団結し、資本家が仕掛ける分断を乗り越えるかが描かれます。
さて、蟹工船についてですが、この小説の傑出したところはやはり「地獄」の描写にあると思います。想像を絶するような環境下で命がけの労働に従事するひたむきさ、そこに同情を誘う強い引力を感じさせされました。描かれる人々は主に津軽から出向してカムチャツカ半島近海へ漁に出ていきます。彼らの話す訛りの強い言葉が生々しさを醸し出し、読者を引き込んでいく名作の名に恥じないと痛感しました。
ワーキングプアなど、労働格差の拡大が叫ばれる現代日本、考え方はいろいろだとは思いますが一読の価値ある迫力の小説でした。
淡今日平の読書ノート 淡 今日平 @Kyohei_Awai
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