第4話 m=E/c^2+α(フランク・ウィルチェック『物質の全ては光』)
今から約100年前の1919年5月29日に南アメリカからアフリカにかけて皆既日食が起こりました。
この皆既日食こそは、アインシュタインの一般相対性理論を裏付けた歴史的な日食でした。
相対性理論といえば、物質の質量とエネルギーの変換公式E=mc^2でしょう。
では、この式を逆にしてm=E/c^2としたら?
エネルギーをたくさん持つ物質はとても重くなることになります。
物質の質量の起源はどこにあるのか?
今回ご紹介するのは、
フランク・ウィルチェック(訳・吉田三知世)『物質の全ては光』ハヤカワ文庫(2012)
です。
ウィルチェックは2004年のノーベル物理学賞を受賞した理論物理学者です。
そんな彼が、素粒子物理学の見地から見た質量の起源について数式(ほぼ)抜きで語ってくれています。
一流の科学者でありながら、豊かでわかりやすい比喩を生み出すユーモアを併せ持っているウィルチェック。
彼の比喩を通して、クォーク、グルーオン、量子色力学などの難解な素粒子物理学のイメージが次々に具体化されてゆきます。
その過程で、物質だけではなく、空間という概念にも深く切り込みます。
一見、空虚に見える空間にエネルギーが満ち満ちていることがわかってきます。
ミクロな空間で「グリッドの音楽」を奏でるエネルギーたち。
章を読み進めて行った先に待つのは、物質の質量の95%はエネルギーから生み出されている、という結果です。
一方で、残りの5%はどこからやってくるのか?
それは未だはっきりしません。
更に、ダークマター、ダークエネルギーという新たな質量も天文学者たちは発見しています。
これらについても、ウィルチェックは第一線の物理学者として説得力ある説をいくつか紹介してくれます。
最後に、私が個人的に衝撃を受けた概念をご紹介します。
それは、「多層構造で多色の宇宙超伝導体」です。
詳しい内容は本書をお読みいただきたいのですが、我々の住む宇宙空間は空っぽな空間よりも、超伝導体の結晶の中のような特殊な場所に近いことが紹介されます。
通常の超伝導体は電磁気力に対するものですが、こちらは弱い相互作用に対するもの。
我々の宇宙がいかに「特殊な」空間なのかを知ることは、我々の地球がいかに「特殊な」星なのかを知ることに似ています。
素粒子物理学が扱う対象は、決して無機質な寂しい世界ではなく、とても変化に富んだ多様な世界なのです。
本書を読むためには、何らの数学的準備もいりません。
もちろん、現代物理の知識が多少あった方が理解はスムーズだとは思いますが、十分楽しめると思います。
物質の正体という根本的な問題に科学はどこまで迫っているのか、真摯に、かつ面白く取り組める名作ではないでしょうか。
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