第3話 テレホン・ネット(星新一『声の網』)

今回ご紹介するのは、


星新一『声の網』角川文庫(2006)


です。


言わずとしれたショートショートの名手、星新一ですが、これは中編小説。

発表は1970年で、SNSはおろか、パソコンすら普及していなかった時代です。


近未来(1970年からの)の社会では、電話による情報交換が非常な盛り上がりを見せています。

あらゆる産業や生活はコンピューターの補助を受けて成り立っています。

例えば、骨董品店では店主が電話のダイヤルを回すと、店のあらゆる商品に関する詳細かつ魅力的なセールストークが流れます。

また、社会の傾向を検討し、何が売れそうか、どんな顧客をターゲットにすべきか、なんてことも訊いています。


そんな時代に不可解な事件が多発します。

情報銀行(電話で個人の秘密や予定を録音しておいて、いつでも引き出せる架空のシステム)にしまっておいたはずの秘密が流出したり、動機不明の犯行が連続したりします。

真犯人の正体は明言しませんが、現代人なら早い段階で気付けるでしょう。


この作品の楽しみ方はそれぞれだと思います。

現代のインターネット並み(いや、それ以上?)の情報社会にもかかわらず、通信手段が固定電話という、アナクロニスティックな雰囲気を味わうもよし。

オムニバス風に独立している各章を「世にも奇妙な物語」のように楽しむもよし。

章の中の数字あそびを探すもよし。

星新一の独特の雰囲気と、ショートショートのような全体の構成の妙は真犯人に気づいても関係なく楽しめます。


インターネット全盛のこの時代。

かつてないほど個人による情報発信が多くなり、しかもその多くがデータ化されています。

そんな現代を予見したかのような作品です。

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