第2話 馬、蒸気、スピード(本村凌二『馬の世界史』)

今回ご紹介するのは、

本村凌二『馬の世界史』中公文庫(2013)

です。


こちらは2001年に講談社現代新書で出版されたものの文庫化です。

著者は西洋古代史が専門であり、また無類の競馬好きのようです。


この本の主題は、馬という家畜は人類の歴史上どのような役割を持っていたか、を明らかにすることです。

特に、蒸気機関の発明以前の世界での馬の存在意義を文化的、軍事的など多方面から描いています。


これを読むと、馬こそが「スピード」の象徴であることが納得されます。

馬に乗れば人は生身より、遥かに早いスピードで、遥かに長い距離を移動できます。

これが古代世界にもたらした衝撃の大きさについて東西の豊富な題材を用いて紹介されます。

陸上の移動手段の最たるものが馬であった時代が数千年続いたこと。

現代社会について未来の人に紹介するとき、自動車や鉄道を語らない人がいるでしょうか?

その位、基本的な構成要素たる馬を知らずして過去は語れないのではないかと思います。

この本は平易な表現と多彩な事例で、過去の世界における馬の存在を際立たせてくれます。


そして、もう一つの重要な視点が「騎馬遊牧民」の存在です。

著者はあとがきで、


「欧米の作者は西洋中心の見方に偏っており、彼らの視界にはイランまでは入るが、それから先の東方は茫漠としている。」(p.305)


と語ります。

すなわち、中国と匈奴の関係を始めとする東アジアにおける馬の存在が希薄になってしまっていると指摘します。

この本では、モンゴルなどの騎馬遊牧民がいかに歴史上の大文明に衝撃を与え、また、それらを結合したかが中心的な話題となります。

馬を誰よりも愛し、大胆に扱った騎馬遊牧民こそが、その歴史の主人公なのです。


競馬場で優美な走りを見せるサラブレッドに目を奪われた人、自動車や新幹線など地上を疾駆するスピードに魅力を感じる人、時には歴史の中の馬たちを振り返るのも良いのではないでしょうか。

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