淡今日平の読書ノート
淡 今日平
第1話 愛なき子(ミシェル・ウエルベック『素粒子』)
(以前、近況ノートに投稿した内容ですが、こちらのほうがよさそうなので転記しました)
ご紹介するのは、
ミシェル・ウエルベック(訳・野崎歓)『素粒子』ちくま文庫(2006)
です。
こちらは1998年に発表されたフランス文学の翻訳です。
私自身は文学に関しては門外漢のため、書誌的なことは全然語れないのですが(最初、物理の本だと勘違いして手に取りました)、なかなか衝撃を受けたので紹介します。
文庫の著者紹介によるとウエルベックさんは”現在フランスで最もスキャンダラスな話題に包まれた作家”だそうです。
読んでみて、どうやら誇張でもないらしいと感じました。
この本の主役は天才的な学者・ミシェルと落ちこぼれ的な教師・ブリュノの兄弟です。
一見対照的な彼らですが、どちらも「孤独」と「愛」について絶望しています。
ミシェルは冷めた諦念、ブリュノは醜い執念を持って自らの孤独に対峙します。
彼らのこうした絶望が生み出される背景を語る上で、鍵になっているのが「性愛」と「暴力」です。
物語の第一部では、彼らの前半生について語られますが、結構衝撃的な文が続きます。
割と露骨な表現も交えられますので、この辺がスキャンダラスとされる所以かもしれません。
しかし、多くの場合タブーとされるこうした部分を丁寧に記述することで、最後の飛躍に説得力が生まれているのだと思います。
第二部に至って、彼らは一時の休息を得ます。
ミシェルはかつて諦めたひとと、ブリュノは新たに歩みだすためのひとと、それぞれ結ばれます。
しかし、これらの幸福もたちまちのうちに奪い去られてしまいます。
第三部では、彼らは再び絶望的な状況に襲われます。
ここまで読み進んでくると、正直もうヘトヘトでした。
どうしたら、彼らが幸福になれるのか皆目見当もつかないのです。
ところが、最後に著者は全く予想外の方向から解決策を提示します。
正直な所、あまりの急展開にデウス・エクス・マキナ的な狡さを感じなくもありません。
しかし、ここまで読み進め、現代社会で正当とされる価値観を底支えするものを考えれば、強い納得感を感じざるを得ません。
ここまで根深く社会を、人の性を批判して広げた風呂敷が一気に畳まれる様は圧巻です。
是非、この感覚は味わっていただきたいです。
ネタバレしないように気をつけていたら、大分曖昧な文章が続いてしまいました。ご容赦ください。
途中、何度も胸をえぐられ、読むのが辛くなったりしましたが、不思議と惹きつけられる本でした。
何かの機会があれば、是非手にとって読んでみてほしく思います。
相当、考えさせられ、感情的にも振り回されますので、ゆっくりと読み進めるのがオススメです。
ここまで私の駄文にお付き合いいただきありがとうございました。
それでは、本日はこの辺で失礼いたします。
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